第43話 北方交易都市リュネ
北へ向かう街道は、整っていた。
舗装も、距離標も、王都式に近い。
それなのに――
違和感がある。
「……静かすぎない?」
リーナが、窓の外を見て言う。
荷馬車が少ない。
人影も、必要最低限。
本来なら、
この時間帯は交易の往復で
賑わうはずだった。
「動線が、
止まってる」
俺は、地図を開かずに答える。
「物理的じゃない。
“流れ”の話だ」
街道の空気が、
どこか重たい。
だが、押し潰すほどではない。
抑え込まれている。
そんな感触。
⸻
城壁が見えた。
北方交易都市・リュネ。
王都ほど大きくはないが、
壁は高く、門は広い。
にもかかわらず――
門前は空いている。
「……本当に止まりかけね」
「止めてない。
止められてる」
門をくぐると、
さらにはっきりする。
人はいる。
店も開いている。
だが――
動きが鈍い。
声が、小さい。
「王都から来た
調整士です」
身分証を見せると、
門番はほっとしたように
息を吐いた。
「……奥で、お待ちです」
名前は、言われなかった。
それでいい。
⸻
案内されたのは、倉庫街だった。
街の中心から少し離れた場所。
物流の要。
だが今は――
人が少ない。
倉庫の前に立つ男が、
一人。
こちらを見るなり、深く頭を下げた。
「……来て、いただけたんですね」
声に、疲れが滲んでいる。
名乗らない。
こちらも、名乗らない。
それで話は通じた。
「まず、見せてください」
俺は、そう言った。
倉庫の扉が開かれる。
中は――
整然としていた。
荷は積まれている。
魔力灯も点いている。
だが。
「……流れてない」
リーナが小さく呟く。
魔力の線は、確かにある。
だが――
進んでいない。
留まっている。
止水のように。
「触らないでください」
男が、慌てて言う。
「触ると、
……重くなる」
俺は、一歩だけ前に出た。
目を閉じる。
感じる。
「……逆じゃない」
俺は、静かに言った。
「逆“だった”」
「今は――
無理に均された跡がある」
男の顔が、強張る。
「王都式で……」
「ええ」
責める気は、ない。
正しい判断だった。
ここまでは。
「問題は、
その後です」
俺は、地図をようやく開いた。
線が、ゆっくりと浮かび上がる。
【本来の流れ:非王都式】
【現在:強制安定】
「……この街、流れを
“抑えて”回してきた」
「王都と、
真逆だ」
リーナが息を呑む。
「そんな街、初めて見る」
「俺もだ」
だが――
だからこそ。
依頼書が、ここに届いた。
男が、恐る恐る尋ねる。
「……直せますか?」
俺は、
少しだけ考えてから答えた。
「直す、
というより――」
「戻します」
この街が、この街であり続けるために。
倉庫の奥で、魔力灯が一つ、微かに揺れた。
それは、拒絶ではない。
試されている。
そんな揺れだった。




