第42話 依頼書が開かれるとき
その文書は、朝の定例報告に混ざっていた。
厚みが違う。
封蝋の色も、王都の規定と微妙にずれている。
「……これ」
リーナが、指先で弾いた。
「公式じゃないわね」
「でも――
捨てられてもいない」
俺は、封を切る。
文字は、整っていない。
急いで書かれた。それだけで、十分だった。
読み進めるにつれ、室内の空気が、少しずつ変わる。
「王都式調整を試して、悪化……?」
リーナが、眉を寄せる。
「そんなの、あり得る?」
「……ある」
俺は、
地図を開いた。
記載された場所。
北方交易都市・リュネ。
王都の外縁。
物流が集まる、要衝。
【報告内容:原因不明】
【王都式調整:不適合】
「向こうの流れ、逆向きかもしれない」
「え?」
「王都基準で“正しい”ことが、
向こうでは歪みになる」
リーナは、少し黙ってから言った。
「……だから、様式を無視して来たのね」
「切羽詰まってる」
署名欄は、空白のまま。
名前も、肩書きもない。
だが――
責任の匂いだけは、はっきりとあった。
「これ、どうする?」
リーナが、俺を見る。
評議会に回せば、時間がかかる。
調査団を組めば、遅れる。
だが――
街は、待たない。
「俺が行く」
「……即答?」
「こういう文は、迷ってる間に意味を失う」
地図が、静かに更新される。
【対象地域:王都外】
【権限:特例対応】
「リーナ、準備を」
「了解」
彼女は、何も聞かない。
それが、今の関係だった。
廊下を歩きながら、俺はもう一度、
依頼書を見る。
助けてほしい、とは書いていない。
命の危険も、被害額も、強調されていない。
ただ――
止まると書いてある。
街が。
それだけで、十分だった。
王都の外で、何かが
“王都のやり方”を拒んでいる。
それはきっと、始まりだ。
俺たちが調整してきた
この街の影響が、
世界に触れ始めたその証拠。
馬車の手配を指示しながら、
俺は小さく息を吐いた。
「……選ぶ仕事、来たな」
地図は、まだ白い。
だがその白は、未知じゃない。
これから引く線の余白だった。




