第4話 魔法使いの視点から見た“地図士”
――正直に言うと。
最初に彼を見たとき、
私は「運の悪い新人冒険者」だと思った。
装備は最低限。
魔力の量も平凡。
戦闘慣れしている様子もない。
それなのに――
(……おかしい)
カイルの周囲には、
常に“流れ”があった。
魔法陣でも、結界でもない。
でも、確実に「情報」が循環している。
私の魔力感知は、人より少し鋭いだけだ。
本来、スキルの内部構造なんて分からない。
それでも――
彼の近くにいると、世界そのものが“整理”されている感覚がある。
「次、右に曲がると安全」
そう言った直後、
森の左側から魔物の気配が流れてきた。
(……偶然?)
いや、違う。
カイルは、
魔物が来る前から“知っていた”。
「ここ、足元注意。
少し先、地面が崩れやすい」
言われた通りの場所で、私は一歩踏み外しかけた。
(罠でも、感知魔法でもない)
つまり――
(この人、戦場を“俯瞰”してる)
それは、本来あり得ないことだ。
前衛は敵を見る。
後衛は詠唱に集中する。
指揮官は全体を把握する。
でも、カイルはどれでもない。
戦えない。
魔法も使えない。
なのに――
世界の状態だけを、正確に把握している。
「……ねえ、カイル」
遺跡の入口を前にして、私は声をかけた。
「あなた、自分のスキルが
どれだけ危険か、分かってる?」
「危険?」
きょとんとした顔。
その反応で、確信した。
(知らないんだ)
このスキルが――
国に狙われる類のものだってことを。
「あなたの地図、
“隠されているもの”が見えてるでしょ」
「……うん。未踏破とか、隠し通路とか」
彼は、当たり前のように言う。
「それね」
私は一度、深呼吸した。
「普通は、
見えないようにされてるの」
ダンジョン。
古代遺跡。
封印区域。
それらは、
意図的に“世界から切り離されている”。
「それを可視化できるってことは……
世界の嘘が、全部見えるってこと」
カイルは黙り込んだ。
でも、怖がってはいない。
ただ、真剣に聞いている。
(……この人、やっぱり変)
力を持って浮かれるでもなく、
恐怖で逃げ出すでもない。
ただ、
地図を信じて、一歩ずつ進む。
「だから、提案は変わらない」
私は杖を構え、微笑んだ。
「あなたは案内役。
私は護衛」
「……それでいいの?」
「ええ」
むしろ――
(この人を一人で歩かせる方が、危険)
世界にとっても。
彼自身にとっても。
遺跡の奥へ続く闇を見つめながら、
私は確信していた。
――この地図士は、
いずれ“世界の形”そのものを変える。
それに、
最初に気づいたのが私であることを。




