第35話 過去の調整士
外縁区画の件から、
三日後。
俺は、
王都記録院にいた。
石造りの奥、
陽の入らない
書庫。
「……本当に、
全部紙なのね」
リーナが、
低く呟く。
「魔法で
保存できないものは、
意外と多い」
俺は、
古い台帳を
めくった。
外縁区画。
旧式干渉。
未完成。
該当するのは――
十数年前。
「……あった」
記録は、
短い。
《調整試験:第七街路》
実施者:補助調整士
名称:エルディン
結果:中断
理由:不適合・暴走兆候
処置:記録封印
「……補助?」
「正式な
地図士じゃない」
「制度が、
できる前の
実験要員だ」
リーナが、
眉をひそめる。
「暴走って……
街は?」
「表向きは、
何も起きてない」
「でも――
“残った”」
俺は、
別の紙を引き抜く。
《対象者:エルディン》
能力:空間認識特化
問題点:線を“固定”できない
備考:過剰責任感あり
「……固定できない?」
「引いた線が、
消えない」
「流動じゃなく、
居座る」
地図が、
静かに警告する。
【類似特性:検出】
「……似てる?」
「危険な部分が、
だ」
⸻
記録院を出た後、
魔法庁の老魔導士が
待っていた。
「読むと思ったよ」
「生きてるんですか?」
「……分からん」
「失踪扱いだ」
「だが、
遺体は出ていない」
老魔導士は、
城壁の方を
見やる。
「彼は、
街を守ろうとした」
「方法を、
間違えただけだ」
リーナが、
小さく言う。
「……放置された線が、
今も街を
縛ってる」
「そうだ」
「王都は、
彼の失敗の上に
立っている」
⸻
夜。
宿で、
地図を開く。
外縁区画の
反応が、
微かに揺れた。
【旧式干渉:反応増幅】
【発生源:単一点】
「……動いてる」
「線じゃない」
「人だ」
リーナが、
顔を上げる。
「まさか……」
「可能性は、
一つ」
エルディン。
過去の調整士。
線を固定してしまう男。
俺は、
ペンを握る。
「今度は、
消さない」
「……どうするの?」
「話をする」
過去の失敗と、
今の街。
それが、
同じ場所で
動き始めていた。




