第34話 外縁区画の異常
王都外縁。
城壁の内側、
だが中心からは
明確に外れた区域。
住宅と倉庫、
そして――
使われなくなった魔力設備が
混在する場所だ。
「ここ……
静かすぎない?」
リーナが、
周囲を見回す。
人はいる。
建物も、
壊れていない。
なのに――
音が薄い。
「地図の反応は?」
「……強くない」
「けど、
嫌な出方をしてる」
俺は、
ペンを握ったまま
歩く。
【未解析歪み】
【干渉源:不明】
【性質:持続型】
「持続?」
「誰かが
引き続けてる
わけじゃない」
「残ってる」
通りの角で、
老婆が
俺たちを見た。
「……あんたら、
調整の人かい?」
「はい」
「最近、
道が変なんだよ」
「昨日と同じ距離を
歩いてるのに、
妙に疲れる」
「逆に、
すぐ着く時もある」
俺は、
頷いた。
「誰か、
ここで
線を引いた覚えは?」
「さあねぇ」
「ずいぶん前に、
工事の魔導士が
来てた気はするけど……」
ずいぶん前。
それが、
引っかかった。
⸻
廃倉庫の裏。
地面に、
消えかけの線が
残っていた。
「……古い」
「制限路線でも、
私たちのでもない」
リーナが、
しゃがみ込む。
「これ、
いつの技術?」
「……制度以前だ」
「しかも、
未完成のまま
放置されてる」
地図が、
微かに震える。
【旧式干渉】
【再活性:確認】
「動き出してる?」
「人が増えたからだ」
「王都全体の
魔力流量が
上がってる」
「それに反応して、
昔の線が
息を吹き返してる」
リーナが、
息を呑む。
「……過去の失敗が、
今になって?」
「ああ」
「技術が進めば、
埋めた歪みも
浮かび上がる」
⸻
俺は、
ペンを構えた。
「消す?」
「消せる」
「でも――
影響が広い」
外縁区画全体。
ここを通る
人の流れ。
物流。
生活。
「強制解除すると、
反動が出る」
「じゃあ……」
「上書きする」
ゆっくりと、
線を引く。
【調整:緩和路線】
【目的:流量均等化】
派手さは、
ない。
だが――
空気が
戻った。
「……楽になった」
近くにいた
作業員が、
呟く。
「道が、
ちゃんと
同じ長さだ」
線は、
地面に残らない。
完全な修復ではない。
応急処置だ。
「……全部は、
直せないのね」
「過去は、
消せない」
「だから、
付き合う」
地図に、
新しい警告が浮かぶ。
【旧式干渉:複数検出】
【位置:王都各所】
「……一つじゃない」
「ええ」
リーナが、
静かに言う。
「王都、
思ってたより
古い傷だらけね」
俺は、
ペンをしまった。
「これからは、
新しい問題だけじゃない」
「昔の失敗も、
拾い直すことになる」
外縁区画の
夕暮れ。
街は、
何事もなかったように
動いている。
だがその下で――
過去と現在の線が、
交差し始めていた。




