第31話 最初の認定調整士
王都調整監督官――
そう呼ばれるようになって、
まだ半日も経っていない。
それでも、
机の上には
書類が積まれていた。
「……多すぎない?」
リーナが、
紙束を指で弾く。
「想定内だ」
「嘘」
「半分くらいは」
内容は、
ほぼ同じ。
「調整技術を
学びたい」
「正式に
扱えるようにしてほしい」
俺は、
ため息をついた。
「模倣者が出た以上、
止められない」
「なら――
選ぶ」
リーナが、
腕を組む。
「基準は?」
「三つ」
俺は、
紙に書き出す。
「一、
街を“守る理由”が
はっきりしていること」
「二、
失敗を隠さないこと」
「三、
自分の限界を
理解していること」
「……難しいわね」
「だからいい」
その日の夕方。
一人目の候補が、
呼ばれた。
若い女性。
魔法街区の
補助魔導士だ。
「リーナさんの
後輩ね」
「ええ」
彼女は、
緊張した面持ちで
頭を下げた。
「調整技術を
使いたい理由は?」
「……事故を、
減らしたいです」
即答だった。
「魔法街区で、
小さな逆流事故が
増えている」
「現場で止められる人間が、
必要です」
俺は、
頷いた。
「失敗したら?」
「報告します」
「隠しません」
「……怖くない?」
「怖いです」
「でも、
何もしない方が
もっと怖い」
地図が、
微かに反応した。
【適合度:高】
【倫理判定:安定】
「名前は?」
「ミレアです」
俺は、
ペンを取った。
「ミレア」
「あなたを――
最初の認定調整士にする」
彼女の目が、
見開かれる。
「ほ、本当に……?」
「ただし」
俺は、
言葉を続ける。
「できるのは、
“制限路線”だけだ」
「拡張や、
多重描画は
許可しない」
「はい!」
即答。
リーナが、
小さく笑った。
「向いてるわね」
俺は、
地図を開く。
【権限付与:限定】
【監督:地図士】
線が、
一瞬だけ繋がり――
安定した。
「……見える」
ミレアが、
息を呑む。
「道が……
細い線で……」
「それ以上は、
見るな」
「欲張ると、
壊れる」
彼女は、
深く頷いた。
部屋を出た後、
リーナが言う。
「……これ、
増えるわよ」
「ああ」
「でも――
必要だ」
一人に集中していた
責任が、
分散される。
だが同時に――
新しい変数が
増える。
地図の端に、
小さな警告が灯った。
【波及予測:不確定】
【整理者反応:再評価中】
(……世界も、
様子見か)
俺は、
ペンを置いた。
最初の認定調整士。
それは、
制度の始まりであり――
物語が一段、
広がった合図だった。




