第28話 条件付き承認
扉の向こうの議論は、
思ったより長引いた。
声は聞こえない。
だが――
気配だけは、重い。
「……胃に悪いわね」
リーナが、
小さく肩をすくめる。
「慣れろ」
「慣れたくない」
その時――
扉が、ゆっくりと開いた。
評議員たちが、
席に戻る。
全員、
表情を崩していない。
王城代表が、
静かに口を開いた。
「結論が出た」
俺は、
一歩前に出る。
「地図士」
「あなたの申し出――
監督下での活動を、
条件付きで承認する」
空気が、
一段重くなる。
「条件は?」
「四つある」
指が、
一つずつ立てられる。
「一、
王都内での調整は、
事前申告制とする」
「二、
重大影響が予測される場合、
評議会は
停止命令を出せる」
妥当だ。
「三、
調整内容と結果は
全記録・全公開」
これも、
想定内。
そして――
最後。
「四、
責任者は、
あなた個人とする」
リーナが、
僅かに目を見開いた。
「……組織じゃない」
「逃げ道はないな」
「ええ」
王城代表は、
淡々と言う。
「失敗すれば、
あなたが責任を負う」
「王都は、
庇わない」
俺は、
頷いた。
「承知しました」
即答だった。
評議席に、
小さなどよめき。
魔法庁の老魔導士が、
面白そうに言う。
「……後悔は?」
「ありません」
「責任が
見える方が、
調整しやすい」
教会の男が、
低く言った。
「では、
王都はあなたを――」
一拍置く。
「観測対象兼、
協力者として扱う」
地図が、
微かに反応する。
【状態更新】
【公式認定:条件付き】
【例外指定:公的接続】
(……世界と、
繋がったな)
王城代表が、
続ける。
「ただし」
「王都に不利益を
もたらすと判断した場合――」
「即時、
活動停止」
「場合によっては、
拘束もあり得る」
「当然です」
俺は、
視線を逸らさない。
「その時は、
理由を示してください」
「示せない停止命令は、
受けません」
一瞬、
沈黙。
やがて――
王城代表が、
短く頷いた。
「……交渉成立だ」
リーナが、
小さく息を吐く。
「よくやったわ」
「まだだ」
「ここからが、
面倒になる」
評議会は、
正式文書を提示した。
署名欄は、
一つだけ。
俺は、
迷わず署名する。
インクが、
乾いた瞬間。
地図に、
新しい線が刻まれた。
【接続先:王都評議会】
【性質:公的干渉路】
王都と、
俺が――
正式に繋がった。
だが同時に。
【警告】
【観測強度:上昇】
【整理者反応:再計測中】
(……当然、
見られるよな)
リーナが、
俺の横で呟く。
「敵、
増えた?」
「増えた」
「でも――」
俺は、
地図を閉じる。
「味方も、
増えた」
評議会の間を出る。
廊下の窓から、
王都が見えた。
人が歩き、
物が動き、
魔法が光る。
その全部に――
手を出せる立場になった。
条件付き承認。
それは、
自由ではない。
だが――
引いた線を、
最後まで守れる立場だった。




