第26話 魔法街区、異変発生
王都の魔法街区は、
いつも通り――
派手だった。
詠唱の光。
実験の爆音。
失敗した薬品の匂い。
「平常運転ね」
リーナが、
周囲を見回しながら言う。
「むしろ、
騒がしすぎるくらい」
だが――
地図は、
違う反応を示していた。
【魔法街区】
【流通:正常】
【魔力循環:過剰】
【警告:局所的飽和】
「……増えてる」
「え?」
「魔力の“通り道”が、
増えすぎてる」
俺は、
視点を拡大する。
魔法街区の下。
見えないはずの
細い線が、
蜘蛛の巣のように走っている。
「……道、
引きすぎた?」
「正確には、
繋がりすぎた」
その瞬間。
ドンッ!
遠くで、
鈍い衝撃音。
続けて、
悲鳴。
「爆発!?」
「いや……
魔力逆流だ!」
街区の一角。
工房の壁が、
歪んでいる。
中から、
青白い光が漏れ――
突然、消えた。
「……消えた?」
建物が、
丸ごと無い。
瓦礫すら、
残っていない。
地図が、
即座に警告を出す。
【事象:局所欠損】
【原因:循環過多】
【整理者関与:なし】
「……整理者じゃない?」
リーナが、
信じられないという顔をする。
「ああ」
「俺のせいだ」
道を増やした。
流れを良くした。
結果――
世界の“逃げ場”が
無くなった。
「魔力が、
行き場を失って
自壊した」
通りに、
人が集まり始める。
「何が起きた!?」
「工房が……
消えたぞ!」
「事故か!?
攻撃か!?」
混乱。
噂が、
生まれる前兆。
リーナが、
俺を見る。
「……どうする?」
俺は、
一瞬、目を閉じた。
「止める」
「増やすんじゃない」
「減らす」
ペンを走らせる。
【描画:制限路線】
【目的:流量制御】
魔法街区の線を、
数本――
あえて細くする。
すると。
魔力の流れが、
ゆっくりと落ち着き始めた。
空気が、
重さを取り戻す。
「……安定、
してきた」
だが――
完全ではない。
地図の端が、
赤く点滅する。
【副作用:信頼低下】
【要因:不可視介入】
「……噂が来る」
リーナが、
苦く笑う。
「“見えない誰かが
街を壊した”」
「最悪のやつだな」
俺は、
地図を閉じる。
「だから――
今度は隠さない」
「正面から、
出る」
「え?」
「責任を、
見える形にする」
遠くで、
王都警備兵の
足音が聞こえる。
そして――
魔法街区の上空。
誰かが、
こちらを“観測”していた。
【観測強度:上昇】
【例外指定:継続】
道を増やせば、
世界は重くなる。
減らせば、
誰かが困る。
それでも――
引いた線から、
逃げるわけにはいかなかった。
魔法街区の異変は、
王都で最初に起きた異変だった。
それは小さく、
見過ごされかけた歪み。
けれどその歪みは、
やがて王都全体へと
広がっていく。




