第23話 道を消す者、姿を現す
仮設の帰還路が、
淡く光りながら揺れている。
人々は、
その光から目を離せずにいた。
「……本当に、
戻れるんだな」
「今度こそ……」
希望が、
空間を満たしかけた――
その瞬間。
音が、消えた。
風も、
人の息遣いも、
すべてが一拍、途切れる。
地図が、
異常な反応を示した。
【警告】
【路線干渉:極大】
【概念削除:発動中】
「……来た」
黒衣の人物が、
低く告げる。
空間の奥。
道の終わりでも、
始まりでもない場所に、
**“人の形をした何か”**が
立っていた。
外套はない。
装飾もない。
ただ、
輪郭だけがはっきりした、
無色の人物。
「――また、
線を引いたのか」
声は、
近くからでも、
遠くからでも聞こえた。
「……お前が、
“削除者”か」
俺の問いに、
それは首を傾げる。
「そう呼ばれることもある」
「正確には――
整理者だ」
リーナが、
一歩引きながら言う。
「整理……?」
「余剰を消す」
「重複を消す」
「行き先の無い者を、
世界から切り離す」
淡々とした声。
「それが、
私の役割だ」
黒衣の人物が、
怒気を含んだ声で言う。
「人は、
余剰じゃない」
「役割を失った存在は、
世界の負荷になる」
整理者は、
そう断じた。
足元の道が、
ぱらりと崩れ始める。
「帰還路が……!」
人々が、
悲鳴を上げる。
俺は、
即座に地図を広げた。
【描画:多重分岐】
【目的:存在保持】
「無駄だ」
整理者が、
静かに手を振る。
「一本引けば、
一本消す」
「世界は、
均衡を保つ」
「……違う」
俺は、
ペンを止めない。
「お前は、
“減らす”ことで
均衡を取ってる」
「俺は――」
線を、
重ねた。
【重複定義:許容】
【存在理由:相互参照】
道が、
一本ではなく、
“束”になる。
整理者が、
初めて目を細めた。
「……冗長構造」
「非効率だ」
「人は、
効率で生きてない」
リーナが、
魔法を展開する。
「存在固定、
詠唱開始!」
光が、
人々の足元に宿る。
それを見て、
整理者が言った。
「地図士」
「お前のやり方は、
世界を重くする」
「その“重さ”が、
人だ」
俺は、
真正面から答えた。
整理者は、
しばらく沈黙し――
やがて、言った。
「……理解は、
できない」
「だが――
観測する価値はある」
その身体が、
霧のように薄れる。
【干渉停止】
【削除:一時中断】
空間の軋みが、
収まっていく。
人々の周囲に、
帰還路が、
しっかりと残った。
「……行った?」
リーナが、
息を吐く。
「ああ」
黒衣の人物が、
俺を見る。
「君は、
目を付けられた」
「でも――
もう消されない」
俺は、
地図を閉じた。
「消すなら、
全部来い」
「一本ずつ
相手してやる」
仮設の街に、
朝のような光が差す。
人々は、
順に帰還路へと向かっていった。
そして――
世界のどこかで。
整理者が、
初めて記録を残す。
【観測対象:地図士】
【評価:例外】
道を消す者は、
まだ終わっていない。
だが、
道を増やす者も、
確かにここにいた。




