第22話 戻れない者たちの居場所
欠けた地図の白は、
ただの空白じゃなかった。
見つめていると、
**“引き込まれる感覚”**がある。
地図が、低く示す。
【空白領域:連結反応】
【到達可能性:あり】
「……ここ、
“無”じゃない」
俺が言うと、
リーナも頷いた。
「消されたんじゃない」
「押し込められてる」
黒衣の人物が、
静かに肯定する。
「戻れない者たちは、
どこかへ落ちたわけじゃない」
「ただ――
世界から、
辿れなくなった」
俺は、
深く息を吸った。
「行けるな?」
「条件付きで」
黒衣の人物は言う。
「地図士……いや、
調整者だけが、
“暫定の行き先”を
作れる」
リーナが、
俺を見る。
「私が支える」
「魔法で、
入口を安定させる」
地図を広げる。
王都南区の地図に、
細い補助線を引く。
【描画:仮設路線】
【用途:一時通行】
空白が、
ゆっくりと“奥行き”を持ち始める。
風が、
内側へ吸い込まれた。
「……入口、
開いた」
その先は――
街だった。
だが、
どこか歪んでいる。
道はある。
建物もある。
なのに、
行き止まりが多すぎる。
「……戻れない理由、
分かった」
リーナが、
唇を噛む。
「全部、
“片道”だ」
通りを進むと、
人影が見えた。
数人。
いや、もっと。
彼らは、
こちらに気づき――
凍りついた。
「……誰だ?」
「兵じゃない……?」
「迎え、か?」
不安と期待が、
一気に押し寄せる。
俺は、
ゆっくり声をかけた。
「迎えじゃない」
「でも――
帰る道を、
作りに来た」
ざわ、と
空気が揺れる。
「……帰れる?」
「本当に?」
老人も、
若者も、
子どももいる。
「条件付きだ」
俺は、
正直に言った。
「一度に、
全員は無理だ」
「でも、
“道”は残せる」
リーナが、
一歩前に出る。
「勝手に戻すと、
また削られる」
「だから、
戻る理由を、
世界に認識させる」
黒衣の人物が、
低く呟く。
「……なるほど」
「存在を、
主張するのか」
俺は、
地図に新しい線を引いた。
【描画:生活路線】
【認識条件:役割】
「帰りたい人は、
理由を持って戻る」
「家族。
仕事。
居場所」
「それを、
道に刻む」
線が、
ゆっくりと太くなる。
すると――
一人の男が、
息を呑んだ。
「……見える」
「自分の家が……」
次々と、
声が上がる。
「市場……!」
「子どもが……!」
リーナが、
魔法を重ねる。
「帰還路、
安定化!」
だが――
空間が、
大きく軋んだ。
【干渉反応:強】
【削除者:接近】
黒衣の人物が、
即座に告げる。
「来る」
「この“削除”を
行っている者が」
俺は、
ペンを握り締めた。
「……上等だ」
「帰る道を、
消したいなら」
「新しい行き方を、
全部見せてやる」
戻れない者たちの背後で、
仮設の道が、
確かな形を持ち始める。
だが同時に――
世界の向こう側から、
**“消すための意志”**が
こちらを睨みつけていた。




