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レベル1の地図士は、世界の裏側を知ってしまった  作者: あめとおと
街道調整編

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第20話 第三勢力、名乗らず

 丘の上の人物は、

 逃げなかった。


 隠れもしない。

 ただ――

 こちらを観測している。


 地図が、低く警告を出す。


【観測継続中】

【意図:不明】

【敵意:未判定】


「……気づいてるわね」


 リーナが、視線を逸らさず言う。


「ええ。

 隠す気がない」


「つまり――

 “見せたい”」


 俺は、

 あえて歩き出した。


 街道から外れ、

 丘へ向かう。


 リーナも、

 一歩遅れて並ぶ。


「不用意じゃない?」


「相手の土俵に、

 こっちから上がらないと

 始まらない」


 距離が、

 縮まる。


 黒い外套の人物は、

 フードを外した。


 年齢は、

 分からない。


 男とも女ともつかない、

 中性的な顔立ち。


 だが――

 目だけが、異様に澄んでいる。


「……地図士」


 低く、静かな声。


「いや」


 俺は、

 首を振った。


「今は、

 “調整者”だ」


 相手は、

 わずかに口角を上げた。


「やはり」


「その呼び名、

 もう地図が更新している」


 リーナが、

 一歩前に出る。


「あなたは誰?」


 黒衣の人物は、

 名乗らなかった。


「名は、

 今は要らない」


「ただ――

 所属は、ない」


 地図が、

 即座に補足する。


【虚偽反応:なし】

【所属:未確認】


(……本当に、

 どこにも属してない?)


「教会でも、

 王権でもない」


「だが、

 敵でもない」


 黒衣の人物は、

 街道の方を見た。


「今日の調整、

 見事だった」


「事故も、

 魔物被害も」


「ゼロにはせず、

 “納得できる範囲”に

 収めた」


 俺は、

 黙って聞いていた。


「多くの者は、

 救済を叫ぶ」


「だが、

 完全な救済は、

 必ず反発を生む」


「……君は、

 それを分かっている」


 リーナが、

 小さく息を吐く。


「褒め言葉?」


「評価だ」


 黒衣の人物は、

 はっきり言った。


「そして――

 確認でもある」


 地図が、

 微かに震える。


【質問予兆:重大】


「君は、

 どこまで描く気だ?」


 空気が、

 一瞬、張り詰めた。


「街道だけか」


「噂か」


「それとも――

 国家の形か」


 俺は、

 視線を逸らさなかった。


「必要なら、

 どこまででも」


 沈黙。


 風が、

 丘を吹き抜ける。


 黒衣の人物は、

 しばらく考え――

 頷いた。


「……なら」


「一つ、

 依頼がある」


 リーナが、

 即座に警戒を強める。


「依頼?」


「“頼む”じゃない」


 黒衣の人物は、

 淡々と言う。


「試験だ」


 地図が、

 強く反応する。


【提案:非公式】

【影響範囲:都市級】

【危険度:未測定】


「王都近郊に、

 一つの地区がある」


「治安は悪くない。

 貧困も、極端ではない」


「だが――

 人が、静かに消えている」


 リーナの表情が、

 硬くなる。


「誘拐?」


「記録上は、

 “移動”だ」


「住民登録は消え、

 噂も残らない」


 俺は、

 地図を見る。


 該当地域が、

 薄く、欠けている。


「……道が、

 削れてる」


「そう」


 黒衣の人物は、

 初めて、

 わずかに感情を見せた。


「誰かが、

 意図的に

 “行き先を消している”」


「教会でも、

 王権でもない」


「だが、

 放置されている」


 リーナが、

 俺を見る。


「調整者向き、

 ね」


「ああ」


 黒衣の人物は、

 最後に言った。


「成功すれば、

 私は――

 味方になる」


「失敗すれば?」


「その程度だった、

 ということだ」


 丘の風が、

 一段、強くなる。


 黒衣の人物は、

 背を向けた。


「三日後」


「王都南区」


「選ぶのは、

 君だ」


 次の瞬間。


 その姿は、

 認識の外へ

 溶けるように消えた。


【観測者:離脱】

【追跡:不可】


 リーナが、

 小さく笑った。


「……また、

 面倒なのが増えたわね」


「でも」


 俺は、

 欠けた地図を見つめる。


「放っておけない」


 道を繋ぐでも、

 止めるでもない。


 消された“行き先”を、

 取り戻す仕事。


 それは、

 調整者として――

 避けて通れない試験だった。



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