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レベル1の地図士は、世界の裏側を知ってしまった  作者: あめとおと
街道調整編

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19/25

第19話 調整された街道で起きたこと

 問題の街道は、

 街の外れから丘を越え、

 隣の交易町へと続いていた。


 地図を開いた瞬間、

 違和感がはっきり分かる。


【未調整街道】

【通行量:過多】

【衝突予測:高】


「……人、通しすぎね」


 リーナが眉をひそめる。


「商人も、傭兵も、

 逃げ道として使ってる」


「だから、

 事故が起きる」


 俺は、

 街道の先を見た。


 ちょうど、

 馬車が二台、

 細い道で鉢合わせている。


「どけ!」


「こっちが先だ!」


 怒号。

 馬が荒れ、

 周囲の人間も巻き込まれそうだ。


(……このままじゃ)


 俺は、

 すでに線を引き始めていた。


【描画:調整型】

【対象:交易街道】


 道が、

 わずかに“広がる”。


 だが、

 物理的にではない。


「……?」


 馬車の御者が、

 首を傾げた。


「なんだ……

 進める」


 二台は、

 自然と速度を落とし、

 互いを避ける。


 無理も衝突もない。


 周囲の人間が、

 ざわめいた。


「……今の、何だ?」


「急に、

 余裕ができた……?」


 リーナが、

 小さく息を吸う。


「通行量を、

 時間で分散させたのね」


「ああ」


「急ぐ理由がない者ほど、

 自然と足が遅くなる」


 街道の先で、

 別の異変が起きた。


 森の影から、

 魔物が現れる。


 小型だが、

 数が多い。


「うわっ……!」


 護衛のいない商人が、

 悲鳴を上げた。


 だが――

 魔物の動きが、

 妙に鈍い。


「……進んでこない?」


 リーナが、

 目を細める。


 俺は、

 線を一本、

 追加した。


【通行条件:防衛適性】

【適合者:護衛帯同】


 護衛のいる馬車は、

 自然と前へ。


 護衛のない者は、

 足が止まる。


「……なんでだ?」


「さあ……

 ここ、

 危ない気がして」


 結果。


 護衛のいる一団が、

 魔物を引き受け、

 短時間で討伐した。


 怪我人なし。


 荷も無事。


 街道に、

 静けさが戻る。


 その様子を、

 遠巻きに見ていた人々が、

 ざわつく。


「……今の、

 偶然か?」


「いや……

 変じゃないか?」


 そこへ。


 一人の商人が、

 恐る恐る近づいてきた。


「……あんた」


 俺を見る。


「地図士、

 ってやつか?」


 周囲が、

 息を呑む。


 俺は、

 逃げなかった。


「ああ」


 商人は、

 街道を振り返る。


「さっきの……

 事故も、魔物も」


「減った気がする」


 俺は、

 正直に答えた。


「完全には、

 消してない」


「危険は残した」


「でも――

 無茶は、通らなくした」


 商人は、

 しばらく黙り込み――

 ぽつりと呟いた。


「……それで、

 十分だ」


 その言葉が、

 周囲に伝播する。


「全部守るより、

 マシだ」


「自分で選べる……」


 地図が、

 静かに更新する。


【認識変化:局所好転】

【噂補正:発生】


 リーナが、

 俺の横で微笑んだ。


「これが、

 “実例”ね」


 だが――

 それを、

 遠くから見ている者がいた。


 丘の上。


 教会の使いでも、

 貴族でもない。


 黒い外套の人物。


 地図が、

 初めて示す表示。


【観測者:第三勢力】

【分類:未登録】


(……まだ、

 いるのか)


 風が、

 新しい方向へ流れ始める。


 噂は、

 好転し始めた。


 だが同時に――

 別の“道”も、

 動き出していた。



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