第19話 調整された街道で起きたこと
問題の街道は、
街の外れから丘を越え、
隣の交易町へと続いていた。
地図を開いた瞬間、
違和感がはっきり分かる。
【未調整街道】
【通行量:過多】
【衝突予測:高】
「……人、通しすぎね」
リーナが眉をひそめる。
「商人も、傭兵も、
逃げ道として使ってる」
「だから、
事故が起きる」
俺は、
街道の先を見た。
ちょうど、
馬車が二台、
細い道で鉢合わせている。
「どけ!」
「こっちが先だ!」
怒号。
馬が荒れ、
周囲の人間も巻き込まれそうだ。
(……このままじゃ)
俺は、
すでに線を引き始めていた。
【描画:調整型】
【対象:交易街道】
道が、
わずかに“広がる”。
だが、
物理的にではない。
「……?」
馬車の御者が、
首を傾げた。
「なんだ……
進める」
二台は、
自然と速度を落とし、
互いを避ける。
無理も衝突もない。
周囲の人間が、
ざわめいた。
「……今の、何だ?」
「急に、
余裕ができた……?」
リーナが、
小さく息を吸う。
「通行量を、
時間で分散させたのね」
「ああ」
「急ぐ理由がない者ほど、
自然と足が遅くなる」
街道の先で、
別の異変が起きた。
森の影から、
魔物が現れる。
小型だが、
数が多い。
「うわっ……!」
護衛のいない商人が、
悲鳴を上げた。
だが――
魔物の動きが、
妙に鈍い。
「……進んでこない?」
リーナが、
目を細める。
俺は、
線を一本、
追加した。
【通行条件:防衛適性】
【適合者:護衛帯同】
護衛のいる馬車は、
自然と前へ。
護衛のない者は、
足が止まる。
「……なんでだ?」
「さあ……
ここ、
危ない気がして」
結果。
護衛のいる一団が、
魔物を引き受け、
短時間で討伐した。
怪我人なし。
荷も無事。
街道に、
静けさが戻る。
その様子を、
遠巻きに見ていた人々が、
ざわつく。
「……今の、
偶然か?」
「いや……
変じゃないか?」
そこへ。
一人の商人が、
恐る恐る近づいてきた。
「……あんた」
俺を見る。
「地図士、
ってやつか?」
周囲が、
息を呑む。
俺は、
逃げなかった。
「ああ」
商人は、
街道を振り返る。
「さっきの……
事故も、魔物も」
「減った気がする」
俺は、
正直に答えた。
「完全には、
消してない」
「危険は残した」
「でも――
無茶は、通らなくした」
商人は、
しばらく黙り込み――
ぽつりと呟いた。
「……それで、
十分だ」
その言葉が、
周囲に伝播する。
「全部守るより、
マシだ」
「自分で選べる……」
地図が、
静かに更新する。
【認識変化:局所好転】
【噂補正:発生】
リーナが、
俺の横で微笑んだ。
「これが、
“実例”ね」
だが――
それを、
遠くから見ている者がいた。
丘の上。
教会の使いでも、
貴族でもない。
黒い外套の人物。
地図が、
初めて示す表示。
【観測者:第三勢力】
【分類:未登録】
(……まだ、
いるのか)
風が、
新しい方向へ流れ始める。
噂は、
好転し始めた。
だが同時に――
別の“道”も、
動き出していた。




