第18話 噂が、道を走る
街に入った瞬間、
空気が違った。
人の視線が、
わずかに逸れる。
話し声が、
途中で止まる。
地図が、
冷静に表示する。
【認識変化:進行中】
【要因:情報伝播】
「……もう来てるわね」
リーナが、
フードを深く被った。
「思ったより、
早い」
俺は、
屋台の前に立つ人々を観察する。
直接の敵意はない。
だが――
警戒がある。
「聞いたか?」
「地図士が、
街道を勝手に……」
「教会が、
危険視してるらしい」
小声が、
風に乗って流れてくる。
地図が、
補足する。
【噂内容:改変あり】
【危険度:誇張】
(……やっぱり)
リーナが、
低く囁く。
「“調整”の部分、
全部削られてる」
「残るのは、
“勝手に道を弄る男”ね」
俺は、
苦笑した。
「分かりやすい悪役だ」
通りの先。
掲示板に、
新しい張り紙が出ている。
――注意喚起。
「地図士による
未承認街道の使用は、
重大な混乱を招く恐れあり」
「教会監察部」
署名付きだ。
「……公式だわ」
リーナが、
舌打ちする。
「噂を“事実”にするやり方」
俺は、
地図を開く。
【噂伝播路線:可視化】
街の中に、
細い線が無数に走っている。
酒場。
市場。
宿。
「……噂も、
道なんだな」
「ええ」
リーナが、
即座に理解した。
「人から人へ、
最短で走る情報の道」
俺は、
ゆっくりとペンを取る。
「……止める?」
「止めたら、
逆効果よ」
彼女は、
首を振った。
「“隠蔽”だって、
また言われる」
俺は、
頷いた。
「じゃあ――
調整する」
【対象:噂伝播路線】
【方式:減衰・分岐】
線を、
少しだけ“歪める”。
真っ直ぐ届いていた噂が、
途中で枝分かれする。
過激な部分ほど、
減衰する。
同時に、
別の情報が混ざり始めた。
「……あれ?」
「地図士が、
街道の治安を
良くしたって……」
「荷馬車が、
前より安全に……?」
酒場の空気が、
微妙に変わる。
だが――
完全に好転はしない。
リーナが、
小さく息を吐く。
「これ、
時間がかかるわ」
「分かってる」
俺は、
遠くを見る。
「だから――
直接見せる必要がある」
「実例を?」
「ああ」
地図が、
新しい表示を出す。
【候補地:三】
【条件:影響可視】
その中の一つが、
赤く点滅していた。
【問題発生中:未調整街道】
「……なるほど」
リーナが、
表情を引き締める。
「放っておけば、
“地図士が止めなかったせい”に
される場所ね」
「だから、
先に行く」
俺は、
歩き出す。
「噂より早く」
背後で、
人々の声が混ざり合う。
疑念。
期待。
不安。
すべてが、
“道”となって広がっていく。
俺は、
その上に――
新しい線を、
引こうとしていた。




