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レベル1の地図士は、世界の裏側を知ってしまった  作者: あめとおと
街道調整編

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第16話 二つの勢力、同時到達

 祠の外が、

 ざわりと揺れた。


 音ではない。

 認識そのものが、上書きされる感覚。


 地図が、即座に警告を出す。


【外部干渉:発生】

【接近勢力:二系統】

【到達予測:数分】


「……速すぎる」


 リーナが、低く言った。


「第三方式、

 描いた瞬間に“見られた”わね」


 老人は、

 杖を床に打ち付ける。


「当然じゃ」


「調整型は、

 世界全体に“揺らぎ”を作る」


「気付かれぬ方がおかしい」


 祠の入り口方向から、

 足音が分かれた。


 重い靴音と、

 規則正しい歩調。


 俺は、

 地図の表示を確認する。


【勢力A:王権側貴族】

【勢力B:教会監察部】


(……両方か)


 リーナが、

 小さく舌打ちする。


「最悪の組み合わせね」


「どっちも、

 “管理したい側”だ」


 老人は、

 静かに笑った。


「だからこそ、

 同時に来た」


 祠の扉が、

 ほぼ同時に開いた。


 左から、

 豪奢な外套を纏った男。


 貴族だ。


 右から、

 白と金の法衣を着た女性。


 教会監察官。


 互いに、

 一瞬だけ視線を交わす。


 ――敵同士。

 だが、今は共通目的。


「……地図士」


 貴族が、

 ねっとりとした声で言う。


「随分と、

 勝手な真似をしてくれたな」


 監察官が、

 即座に続く。


「許可なき描画。

 前例なき方式」


「説明を求めます」


 俺は、

 一歩前に出た。


「説明はする」


「でも――

 “取り消し”はしない」


 場の空気が、

 ぴり、と張り詰める。


「……は?」


 貴族が、

 目を細めた。


「取り消さない?」


「君は、

 自分が何をしたか――」


「分かってる」


 俺は、

 遮るように言った。


「だから、

 やった」


 教会監察官が、

 俺を観察する。


「あなたは、

 “遮断”でも

 “接続”でもない」


「第三の方式を、

 確立した」


「……危険です」


「便利でもある」


 リーナが、

 横から口を挟む。


「一気に流れ込む災厄も防げるし、

 完全遮断による停滞も避けられる」


「教会が守りたい“秩序”にも、

 都合がいいはずよ」


 監察官の眉が、

 わずかに動く。


 貴族が、

 苛立ったように言う。


「だが、

 我々の“裁量”が減る」


「王権が管理する街道を、

 誰が決める?」


 俺は、

 はっきり答えた。


「現場だ」


 ざわ、と

 二人の後ろが揺れる。


「街道を使う人間」


「守る人間」


「通すかどうか、

 その都度、

 調整される」


 貴族が、

 怒りを隠さない。


「そんな不安定なもの――」


「不安定だからいい」


 俺は、

 真っ直ぐ見返した。


「世界は、

 固定された線で

 回るもんじゃない」


 監察官が、

 静かに息を吸う。


「……あなたは、

 地図士の権限を超えています」


「そうかもな」


 俺は、

 肩をすくめる。


「でも、

 前例がないってだけだ」


 沈黙。


 張り詰めた空気の中、

 老人が一歩前に出る。


「地図士は、

 元々“世界の調整役”じゃ」


「それを、

 都合よく

 “線引き屋”に

 押し込めたのは、

 誰じゃ?」


 監察官が、

 目を伏せる。


 貴族は、

 唇を噛む。


「……提案がある」


 監察官が、

 静かに言った。


「第三方式を、

 教会管理下に置く」


「我々が、

 監督する」


 即座に、

 貴族が被せる。


「王権も、

 共同管理だ」


 俺は、

 即答した。


「断る」


 二人の顔が、

 同時に歪む。


「管理されるために、

 作ったわけじゃない」


「これは、

 “縛る道”じゃない」


「流れを、調整する道だ」


 リーナが、

 俺の隣で

 小さく頷いた。


 地図が、

 最後に表示を出す。


【対立状態:確定】

【関係性:敵対(管理拒否)】


 老人は、

 静かに呟く。


「……始まったな」


 教会と王権。


 どちらにも属さない、

 新しい“描き方”。


 それは、

 世界にとって――

 異物だ。


 だが、

 異物でなければ、

 世界は変わらない。


 祠の外で、

 風が鳴った。


 調整された道が、

 ゆっくりと、

 世界に馴染み始めている。



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