第13話 道の先に、あるはずのない集落
再開された旧街道は、
思っていたよりも、ずっと“普通”だった。
石畳は古いが、歩きやすい。
勾配も緩やかで、
かつては多くの人が行き交っていたのだろう。
「……ねえ」
息を整えながら、リーナが言う。
「この道、
本当に“閉じられてた”の?」
「閉じられてた」
俺は即答した。
「少なくとも、
今の地図には存在しない」
地図が、静かに補足する。
【認識状態:個人限定】
【一般認知:欠落】
少し進むと、
木々の間が、ふっと開けた。
「……え?」
思わず、声が漏れる。
そこには、
小さな集落があった。
十数軒ほどの家。
畑。
井戸。
どれもが、
“生活中”の気配を持っている。
「……人、住んでる?」
リーナが、警戒を崩さずに言う。
俺は、地図を確認する。
【集落名:未登録】
【人口推定:不明】
【存在状態:部分認識】
(……部分、認識?)
「普通じゃない」
俺が言うと、
リーナは静かに頷いた。
「ええ。
結界でも、幻でもない」
「じゃあ……何だ?」
答えは、
集落の入口に立つ石碑にあった。
苔に覆われた文字。
辛うじて、読み取れる。
「……“道が閉じられし時、
我らもまた、
ここに留まる”」
リーナが、息を吸う。
「……隔離、された?」
「自分たちで、かもしれない」
そのとき。
集落の奥から、
人影が近づいてきた。
老人だった。
深い皺。
杖をつき、
こちらをじっと見ている。
「……久しぶりじゃな」
老人は、
懐かしむように微笑んだ。
「地図士よ」
心臓が、跳ねる。
「なぜ、分かる?」
「分かるとも」
老人は、
俺の足元――
再開された道を見た。
「その道を、
もう一度、
“道”として歩ける者は、
そう多くない」
リーナが、一歩前に出る。
「あなたは、
何者ですか」
「この集落の、
最後の“案内役”じゃ」
老人は、ゆっくりと振り返る。
「来なさい」
集落の中へ、
自然に誘うような仕草。
「話すべきことが、
山ほどある」
地図が、警告とも案内ともつかない表示を出す。
【危険度:低】
【重要度:極高】
(……罠、ではなさそうだ)
俺は、リーナを見る。
「どうする?」
「……行くしかないでしょ」
彼女は、小さく笑った。
「もう、
引き返せる段階じゃない」
二人で、集落に足を踏み入れる。
瞬間――
背後の森が、
音を失った。
「……静かすぎる」
リーナが、囁く。
地図が、静かに表示を更新する。
【外部追跡:遮断】
【理由:認識不能領域】
追ってきていた者たちは、
この場所を“見失った”。
だが、それは――
安心を意味しない。
集落の中心。
古い祠の前で、
老人が立ち止まった。
「ここはな」
杖で、地面を軽く叩く。
「**“消えた道の、行き止まり”**じゃ」
俺は、息を呑んだ。
「行き止まり?」
「そう」
老人は、
ゆっくりと振り返る。
「そして――
地図士が、
必ず通る場所でもある」
祠の奥。
わずかに開いた扉の向こうから、
冷たい風が吹き抜けた。
地図が、
これまでで一番、はっきりと告げる。
【次段階:到達】
【警告:選択不可】
(……選べない、だと?)
ここまで来て。
もう――
進む以外の道は、残っていなかった。




