第11話 閉じられた道の、足跡
旧街道は、
思っていた以上に“静か”だった。
踏み固められたはずの道は、
ところどころ草に覆われ、
石畳も割れている。
「……本当に、使われてないのね」
リーナが周囲を見回しながら言った。
「半世紀以上前に、
正式に放棄されたらしい」
地図が示す年代情報を、
俺は口に出す。
【最終利用記録:57年前】
【放棄理由:未記載】
未記載。
それが、一番気持ち悪い。
街道が使われなくなる理由なんて、
戦争、災害、魔物――
だいたい決まっている。
なのに、理由だけが空白だ。
(……隠してる、な)
歩き始めて、三十分ほど。
地図の端にあった“影”が、
少しずつ、輪郭を持ち始めた。
【未認識構造:接近】
【隠蔽度:高 → 中】
「見えてきた」
「何が?」
「建物……いや、遺構だ」
旧街道から外れた、
林の奥。
注意していなければ、
絶対に気づかない位置にあった。
「……小屋?」
リーナが首を傾げる。
確かに外見は、
朽ちかけた山小屋のようだ。
だが――
(違う)
【外装:擬装】
【内部構造:石造】
【用途:検閲・封鎖】
「封鎖……?」
声に出した瞬間、
空気が、ぴしりと張り詰めた。
「カイル」
リーナが短く呟く。
詠唱に入る直前の、張りつめた声だった。
「中に、誰かいる?」
「……いや。
“今は”いない」
俺は、慎重に近づいた。
扉は、鍵がかかっていない。
いや――
(鍵が、いらない?)
触れた瞬間、
地図が警告を出す。
【侵入判定:許可制】
【条件:地図士】
「……は?」
俺が、扉を押す。
抵抗は、なかった。
中は、予想外に広い。
壁一面に、
古びた地図が貼られている。
「……これ」
リーナが、息を呑んだ。
「全部、道ね」
しかも、どれもが――
途中で、線を断ち切られている。
旧街道。
山道。
街と街を繋ぐはずだった道。
すべてが、
**“途中で終わっている地図”**だった。
【用途特定】
【施設名:道止めの間】
「……道を、止める?」
床には、
無数の削り跡。
意図的に、
線を消した痕跡だ。
「誰が、こんなことを……」
その答えを、
地図が先に示した。
【関与者:地図士(複数)】
【状態:全員 行方不明】
背筋が、冷たくなる。
「……やっぱり」
リーナが、低く呟いた。
「地図士は、
世界にとって便利すぎた」
俺は、壁の一枚に目を留めた。
そこだけ、
まだ消されていない線がある。
旧街道の先――
**“この小屋より奥”**を示す線。
【未消去理由:未到達】
【到達条件:現在の地図士】
「……俺、か」
線は、
俺が来るのを待っていたかのようだった。
その瞬間。
外で、枝を踏む音。
「誰か来る!」
リーナが、小声で言う。
彼女は即座に、
指先に魔力を集め、
感知魔法を周囲へ広げる。
【魔力反応:複数】
【距離:中】
地図が、同時に反応する。
【接近反応:3】
【所属:不明】
【意図:探索】
(……早い)
選んだはずの、
“誰も見ない道”。
けれど、
この場所そのものが、
**“監視されるべき痕跡”**だった。
「カイル」
リーナが、真剣な目で俺を見る。
「ここ、
もう隠せないわ」
俺は、壁の地図に手を伸ばし――
覚悟を決めた。
「だったら、
俺が続きを描く」
ペンを取る。
消された道の、
その先を。
【記録再開:許可】
【警告:歴史干渉】
――道は、
止められたままで終わるものじゃない。
それを証明するために。




