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レベル1の地図士は、世界の裏側を知ってしまった  作者: あめとおと
街道調整編

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第10話 選ばなかった道、選んだ場所

 宿の部屋は、静かだった。


 外から聞こえるのは、夜の街のざわめきだけ。

 笑い声と、遠くの楽器の音。


 ――平和だ。


 けれど、その平和が、

 俺にはどこか“薄い膜”みたいに感じられていた。


「……どうするの?」


 ベッドに腰掛けたリーナが、そう聞いた。


 問いは短い。

 けれど、含んでいる意味は重い。


「記すか。

 記さないか」


 昼間、彼女が言った言葉を、

 俺はそのまま口にした。


 リーナは否定もしない。


「地図は、あなたの力。

 でも――」


「でも、使えば必ず誰かに見られる」


「そう」


 沈黙が落ちる。


 机の上には、ペンと紙。

 それだけで、十分すぎるほどだった。


(選べ、か……)


 世界を変える力があると言われても、

 俺は英雄じゃない。


 誰かを救う使命感も、

 大義もない。


 あるのは――

 地図を描いてしまう、この性質だけだ。


 俺は紙を引き寄せた。


 だが、すぐには描かない。


「なあ、リーナ」


「なに?」


「もし俺が、

 本当にヤバい場所を描いたらどうなる?」


「教会、貴族、ギルド。

 全員が動くわ」


 即答だった。


「最悪、

 あなたは“保護”という名の拘束を受ける」


「だよな」


 俺は苦笑した。


「じゃあさ。

 逆は?」


「逆?」


「誰も見向きもしない場所。

 重要じゃない。

 危険も、利益もない」


 リーナは、少し考え――

 眉をひそめた。


「……そんな場所、ある?」


「ある」


 地図が、静かに反応する。


【候補地点:複数】

【注目度:極小】


 俺は、その中の一つを選んだ。


「街から半日。

 廃れた旧街道の分岐点」


「……道?」


「使われなくなった道」


 そこは、交易路から外れ、

 地図にも簡単な線しか引かれていない。


「誰も気にしない。

 誰も得しない」


 俺は、ペンを握る。


「だからこそ、

 最初に選ぶには、ちょうどいい」


 リーナは、少しだけ笑った。


「臆病ね」


「慎重って言ってくれ」


「同じ意味よ」


 俺は、線を引いた。


 ゆっくり。

 確かめるように。


【記録開始】

【対象:旧街道・未整備区間】


 空気が、わずかに揺れた。


(……反応、軽いな)


 派手な警告も、

 不穏な予兆もない。


 ただ、地図が静かに埋まっていく。


「……何も起きない?」


 リーナが言う。


「今のところは」


 俺は、線を繋げ、

 道幅、勾配、周囲の地形を書き込んでいく。


 そのときだった。


【注釈:手動追加可能】

【未認識構造:検出】


 手が止まる。


「……は?」


「どうしたの」


「いや……

 “何もない”はずなんだけど」


 地図の端。

 旧街道から少し外れた場所に、

 薄い影のような表示があった。


【構造種別:不明】

【規模:小】

【隠蔽度:高】


「隠蔽……?」


 リーナが、身を乗り出す。


「道の近くに、何かあるの?」


「ある。

 でも、意図的に隠されてる」


 俺は、ペンを置いた。


(……選んだつもりだった)


 “重要じゃない場所”を。


 “誰も見ない道”を。


 なのに。


「どうする?」


 リーナが聞く。


「……見るだけだ」


 俺は、決めた。


「記すのは、道まで。

 それ以上は、近づいてから」


 地図が、了承するように光る。


【部分記録:完了】

【未記録対象:保留】


 それだけで、

 胸の奥がざわついた。


「ねえ、カイル」


「ん?」


「あなた、

 本当に“普通の冒険”がしたかった?」


 問いに、俺は少し考え――

 正直に答えた。


「普通って何だ?」


 リーナは、困ったように笑った。


「……それを言い出したら、

 もう戻れないわね」


 翌朝。


 俺たちは、旧街道へ向かった。


 誰も見向きもしない道。

 選んだはずの、安全な一歩。


 ――けれど。


 地図は、はっきりと示していた。


【注視対象:増加】

【外部反応:遅延発生】


 遅れて。


 確実に。


 誰かが、

 俺の“選択”を追い始めている。


 そして俺は、まだ知らない。


 この旧街道が、

 **かつて“閉じられた理由”**を。



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