レルネン学園 貴族校舎エーデル
「……あなたがどうしてここに?」
自己紹介でマーガレット様の執事と名乗ったからか、マーガレット様が嫌われているのか、はたまたその両方か、席に座るマーガレット様とその隣に立つ俺の傍には誰も近づこうとはしなかった。
「先月に辞めたメイドの代わりにやってまいりました。レルネンの貴族校舎は主と従者が共に学ぶ場所。従者がいなくては学べるものも学べません。」
平民が騎士になるため通う校舎シュヴァリエとは違い 、貴族校舎エーデルには授業をする教師というものが存在しない。その代わりに校舎には採点官として各分野の一流が目を光らせている。
採点官は常日頃の立ち振る舞いだけではなく一ヶ月おきに試験を開く。試験の内容は当日に発表され、誰もが家名に泥を塗らないために必死に勉強している。
「……そうよね。これ以上お父様に迷惑はかけれないものね。よろしく頼むわ。」
マーガレット様は館にいる時と同様に表情を変えずに淡々と俺の授業を受けた。授業といっても小学生が習うようなもので、高校に通えてなかった俺でも用意に教えることができた。
「あら、ようやくあたらしい使用人が来てくださったのね。田舎貴族は学園から遠くて大変ね。」
マーガレット様に勉強を教えていると、いかにもな令嬢がマーガレット様に声をかけてきた。
「アシュリー様、マーガレット様に声をかけるのは如何なものかと……」
「あら、オスカー。あなたも彼らのようなことを言うのね。よくって、彼女らの言葉には信ぴょう性がないわそれに彼女らの言葉を信用して国に多大なる貢献をしたベンバー家の一人娘を遠ざけたとなれば、その方がお父様の顔に泥を塗ることになりますわ。」
「……!流石アシュリーお嬢様です!」
アシュリー・オークスということはオークス家のご令嬢か……オークス家は戦で貴族になったベンバートン家とは対照的に金で伯爵の地位についた家柄。だが今はそんなことより……。
「お初にお目にかかりますアシュリー・オークス様。マーガレット様の執事のケニー・ボーマンと申します。」
「ご丁寧にどうも。私のことは当然知っていたようね。あなたも自己紹介なさい。」
「アシュリー様の執事のバーナビー・ジョンソンだ。……お嬢様は俺をバービーと呼ぶが、できればジョンソンかジョンと呼んでくれると助かる……。」
「いいと思うわよバービー。可愛いじゃないバービー。」
「勘弁してくださいお嬢……」
「まぁ、お遊びはこの辺りにしてケニー。あなたに話があるわ少し顔を貸しなさい。」
「マーガレット様。」
マーガレット様に伺いを立てる。
「……いいわ行ってきなさい。」
「かしこまりました。」
俺はアシュリー様に連れられ人気の少ない屋上への階段へと連れていかれた。
「それでお話とは?」
「あら?私にはあなたの方が私に聞きたいことがあるように見えたのだけれど。」
流石はオークス家のご令嬢といったところか……顔に出したつもりはなかったんだが。
「……先程の話に登場していた、彼女たちがマーガレット様の今の状況に関係しているのでしょうか。」
「前にいたメイドよりは優秀そうね。そうね……どこから話せばいいかしら……。」
「できる限り全て教えていただけると助かります。」
「まぁ、あの子が話してるわけないものね。いいわ私が知っていることは全て話してあげる。事の始まりは二ヶ月前の四月。新しい一年生が入学してからすぐのこと。貴族校舎では一人の女の子が話題になっていたわ。」
「その子の名前はレイラ・シモンズ。どこかの貴族の妾の子らしくて、特別に入学を許されたとか。品行方正、純真無垢、清廉潔白、男なら誰もが惚れてしまうような子よ。」
「当然何人もの男が接触してロルフ様も例外ではなかったらしいわ。それから少し経って四月の中旬頃に今度はレイラ・シモンズがいじめを受けたと話題になったの。」
「実行犯はイザベル・フライデイとリタ・モーフェット。二人はマーガレットの取り巻きで、彼女らが言うには「マーガレット様に命令されて逆らえなかったそうよ」それを周りが信じ込んで今に至るって感じね。」
「……馬鹿げてますね。」
「えぇ馬鹿げてる。けど肯定も否定もしなかったマーガレットにも問題はあるわね。」
「……情報提供ありがとうございました。このご恩は必ずお返しします。」
「えぇ、期待しているわよケニー。」
俺はアシュリー様にお礼を述べ、マーガレット様の元へと戻った。




