ケニー・ボーマン
本当はわかってるんだ……新しい作品作る前に前の作品完結させた方がいいって……。
ジェイク・ボーマン
(俺は一体どうなったんだ……カツアゲしてきた奴と喧嘩になって……確か腹を刺されて……そうか……俺、死んだのか)
「…………起きて!…………!」
(母さんが俺を呼んでる……また父さんに殴られてるのか……待ってて……今、俺が守るから……)
「ケニー!生きてて良かった……。」
俺が目を覚ますと、見知らぬ部屋で見知らぬ女性に抱き抱えられていた。
「ここは……」
「頭を打って、意識がハッキリしてないのね。すぐに水を持ってくるから、待っててちょうだい。」
そう言い残し、見知らぬ女性は家の外へと急いで向かった。
「うっ!」
女性が家から出てすぐのこと、頭に激痛が走ると同時に自身とは別の記憶が流れ込んできた。この記憶はどうやら、この体の持ち主 ケニー・ボーマンの記憶のようだ。
どうやらケニーは父親による度を超えた虐待により命を落としてしまったようだ。幸か不幸か母親を守りたいという強い思いが共鳴でもしたのだろうか、まだ五歳のジェイクの体に俺の魂が入ってしまったようだ。
「ジェイク、お水持ってきたわよ。」
ケニーの母のララ・ボーマン。家庭環境が似ているからか、どこか他人のような気がしない。
「ごめんね、綺麗な水はなくて……」
そんな母親が持ってきた木の器には、泥水が並々に汲まれていた。
「ありがとう、お母さん。」
俺は泥水に口をつけた。喉の奥に土が流れないよう水だけを飲み込み、土を口に残し吐き出した。口の中から土の苦い味がいなくならなくて、水を飲んだというのに水を飲みたくなってしまった。
「……ケニー、よく聞いて。パパねケニーが目を覚まさなかった時に家を出ていったの。それでママがね、パパの借金を代わりに払わないといけなくなっちゃって、しばらく家に帰れそうにないの。お利口なケニーなら大丈夫だと思うけど一人でもお留守番できる?」
「大丈夫だよ!お仕事頑張ってね!」
「……!ごめんねケニー……ありがとう……。」
母さんは俺を強く抱き締め涙を流した。
二年後……
「アーロンさん、今日もお疲れ様でした!」
「ケニー、前も言ったがお前が借りた訳じゃないんだ、他はともかく俺にまで借りを返そうとしなくていいんだぞ?」
「それじゃ俺が納得できないので!それじゃまた明日!」
「待てケニー!今日も魚一匹やるよ!」
「ありがとうございます!」
母さんがいなくなってから数日すると、五人の男が家に押し寄せた。聞くところによると返済日になっても一向に男たちの元に母さんは現れなかったらしい。俺が代わりに働いて返すと、名乗り出ると男たちは困ったように顔を見合わせ、自分たちの仕事場で俺を働かせてくれた。
「おーい!飯の時間だぞー。」
俺は未だにスラムで暮らしている。いつか母さんが帰って来た時にいなかったら悲しむかもしれないから。そんな俺も孤独に耐えられず今はスラムに住む五人の子供と暮らしている。ブレット コリン テッド エリナ アン。
食事を分け与えているからか今日まで仲良くやれている。
「おい!ケニーがまた美味そうなもん食ってるぞ。俺たちにも分けてくれよ!」
当然、スラムで子供だけの集まりでマトモな食事を取っていると絡まれることは少なくない。
「兄ちゃん……」
「俺の分でよければお二人で食べてください。ただ、弟たちはお腹いっぱい食べさせてあげてください。」
働かせてもらっている先々で頂いた食材を煮込んだ鍋から一人前を器に取り分け手渡した。
「あ、あぁ。俺たちもそこまでは望まねぇよ。」
「なんであんなヤツらにあげちゃうんだよ!」
男たちが暮らしているボロ屋から出ていくとブレットは立ち上がり俺を怒鳴った。
「ほらブレット、お前の分だ。まずは食え。」
俺がそう言い鍋を器に取り分け手渡すと、ブレットは素直に従い床に座り食べ始めた。
「腹が減ってたらイライラするもんだ。食べるに困って襲われるよりは数倍マシだろ?それに、まだお前たちには分からないかもしれないけど。困ってるやつは助けてやれって婆ちゃんが言ってたような言ってなかったような。」
「兄ちゃんに婆ちゃんいないだろ?」
「そうだったな!まぁ、あれだ。助け合いは大事ってことだ!」
そんなことを話しながら六人で食事をしていると、先程の男が大急ぎで家の扉を開けて入ってきた。
「……これ以上はあげませんよ。」
俺は弟たちを守るように立ち塞がった。
「飯なんかどうでもいい!ケニー、お前たしか七歳だったよな!?」
「そうだけど……」
「領主様が七歳の子供を探してるんだと!早く着いてこい!」
男は俺の腕を掴み強引手を引いた。
「ブレット!みんなと家で待っててくれ!直ぐに戻る!」
弟たちが着いてこようと器を床に置いたが、俺はそれを静止した。領主に領主に呼ばれる理由に心当たりがないからだ。そういう趣味の領主という可能性もある、弟たちは連れていく訳にはいかなかった。
「領主様!連れてまいりました!」
領主と呼ばれる男の第一印象は 強者。おそらく武勲を上げ領地を与えられたのだろう、五人の護衛が必要ないであろうと思うほどの、自信とプレッシャーを感じる。
「お前がケニーか?」
「はい、間違いありません。……領主様、私が何か致しましたでしょうか。申し訳ないのですが、心当たりがなく、理由をお聞かせいただけないでしょうか。」
「なんだ、聞いていないのか。」
領主は強引に連れてきたことを知り男を睨みつけた。
「驚かせてすまなかったな。安心しろ、悪くするつもりはない。今日は私の娘と同年代の子供使用人として雇いたいと思いここに来たのだ。」
「なるほど……ですが、何故ここに?このような場所の子供でなくとも領地の子供でもいいのではないですか?」
「親と子を引き離す訳にはいかなくてな。そんな折り、この街のスラムで、六人の子供が協力して暮らしていると聞いてな。確認をしに参った次第だ。」
「説明して下さりありがとうございます。……ですが、申し訳ありません、私には父の残した借金と血の繋がらない弟と妹が五人います。放って行くことはできません。」
「ふむ……そうか。一応聞くが、その父の残した借金というのはどれくらい残っているのだ?」
「……肉屋、漁師、飯屋、酒屋、賭場に小金貨一枚(日本円で十万円)づつくらいです。」
「そうか……その歳で苦労したのだな……決めたぞ!私が代わりにその借金を返してやる。それに他の子供たちもまとめて私の屋敷に連れていく。それなら、屋敷に着いてきてくれのだな!」
「ええ、まぁ、はい。」
「決まりだな!」
領主が強引に話を進めると護衛の一人が領主に物申した。
「いけませんクレイグ様!このスラムの子供にそのような大金を使うなど!」
「シリル……お前が私の考えに口答えするのは何年ぶりだ?」
「……兵士として初めて戦場で戦った日です。その時にあなたの正しさを押し付けられました。ですが、流石にこれは……」
「なに、ただの娘と同い年の子供というだけではここまではしない。この子は私を前にしても怖気付かずかなかった。それに子供とは思えぬ言葉遣いで私の事情を聞き、なおかつ責任を果たすため、一度は私の頼みを断った。」
領主は俺の頭に手の平を置き言い切った。
「この子には何がなんでも、うちの使用人になってもらう!これは決定事項だ!」




