戦闘試験
図書室での会話から数週間が経ち。俺とマーガレット様は試験の日を迎えた。
「ケニー。使用人のテストは上手くやったんでしょうね?」
「抜かりなく。料理 掃除 一般などをテストされましたが、完璧だったと自負しております。マーガレット様は……聞くまでもありませんね。」
「当然よ」
マーガレット様は優秀だ。心配入らないだろう。残すは主人と使用人が協力して受ける戦闘試験だが……。
「む……?時間よりも早く来るとは関心だな!」
「お疲れ様ですジャスパー試験官。時間まで、ここで待機させていただきます。」
「なに、構わんさ!今年の生徒は骨のあるやつがいなくてな。時間よりも早く終わって暇をしていたところだ。お前たちさえよければ試験を時間よりも早く開始してもいいぞ」
ジャスパー・クロウリー試験官 元 王国騎士団 団長。戦闘試験は彼から主をいかに守るかが問われる試験。一見、執事のみが試されているように見える試験だが、襲われた際の、主の行動も試されている。
「如何なさいますかマーガレット様」
「時間通りにしましょう。」
「かしこまりました」
試験会場に到着してから十分が経過し、試験の時間になった。
「試験番号八十八番マーガレット・ベンバートン!これより戦闘試験を始める。試験には木剣を使用する。十分間、私の攻撃からマーガレット・ベンバートンを守りきれたら試験は合格だ。」
「かしこまりました。マーガレット様、準備はよろしいでしょうか。」
「えぇ、問題ないわ。」
「それでは、試験開始だ!」
開始の合図とともにジャスパー様が俺に襲いかかった。
「ほう……初撃を止めたか。だが、これはどうかな!」
ジャスパー様は剣を両手から片手に持ち替え、空いたでマーガレットに炎の魔法を放った。
「うぉっ!」
俺はすかさず腹部に強力な蹴りを入れ魔法の軌道をマーガレット様から逸らした。ジャスパー様は、蹴りの衝撃を後ろに飛ぶことで逃がし、遠距離からの攻撃に切り替えた。
「これはどうだ!」
ジャスパー様から放たれた強力な火炎は見えない壁に阻まれ俺へと当たることはなかった。
「ありがとうございますマーガレット様!」
(いい防御魔法だ。それに、私から目を離さず油断もみえない。どうやら他の生徒とは違うようだ。ならば、どこまでできるか試してみるか。)
「そこの執事。主人を全力で守れよ。」
そう言うとジャスパー様の体が少し大きくなった。おそらく強化魔法によるものだが、体格に影響するほどの強化魔法は見たことがない。
「マーガレット様!私はいいので、ご自身にだけ防御魔法を!」
俺の判断は正しかった。ジャスパー様は先程と同様に間合いを詰めたかと思えば、俺の防御ごと体が横に吹き飛ばされた。
「安心していい。この学園の回復魔法使いなら、その日のうちに元気を取り戻すだろう。だが……試験でこれを使うのは、やはりやりすぎだったか……」
ジャスパー様が反省していると、マーガレット様から驚きの言葉が放たれた。
「まるで試験が終わったような言いぶりねジャスパー試験官。私はまだ攻撃を受けていないわよ。」
「マーガレット・ベンバートン。君たちは合格だ。」
「何を言っているのかしら?試験は十分が経過するか、私に攻撃ができたらじゃなくって?」
「……わかった試験を続けよう。」
ジャスパー様はマーガレット様の防御魔法を破ろうと拳を強く握り殴りつけた。
(破れない……!確かにマーガレット・ベンバートンに当たらないように寸止めをするつもりではあったが、なんという硬さの防御魔法だ。)
「何を驚いているのかしら。それによそ見していいのかしら。」
「何……」
俺はジャスパー様の顔面を全力で殴りつけた。
「……申し訳ありませんマーガレット様……少々意識を失っておりました。」
「ええ、問題ないわ。命令よケニー・ボーマン。私の守りを捨て、ジャスパー試験官を倒しなさい!」
「!かしこまりましたマーガレット様。」
俺は折れた木剣を投げ捨てた。
(なんだ……執事の雰囲気が変わった?)
先程までは主を守るという試験に囚われていたが、マーガレット様のおかげでようやく攻撃に転じられる。
「いきます!」
俺は自身に強化魔法をかけ、ジャスパー様の懐へと一気に入り込んだ。
「甘い!」
ジャスパー様は木剣の間合いで俺を吹き飛ばした時と同じように横に剣を強く振り払った。
「……」
俺はその一撃を余裕をもって躱し腹部に強力な一撃を叩き込んだ。
「グッ……!」
ジャスパー様は一瞬怯む様子を見せたが、すぐに立て直し距離をとろうと後ろへと飛んだ。
「……!!」
それを読んでいた俺は間合いをすぐに詰めジャスパー様の頭を地面に叩きつけた。
「……待て待て!降参だ降参!」
叩きつけたジャスパーの体を踏み抜こうとした瞬間、ジャスパー様の声で試験の終了を迎えた。
「あら?ジャスパー試験官。試験は十分耐えるか、私に攻撃を加えるまで終わらないんじゃなかったかしら?」
「意地の悪いことを言わないでくれ、マーガレット・ベンバートン。確かに、まだ二分残っているが。これ以上続ければ殺し合いになってしまう。文句なしの合格だ。」
マーガレット様は小さくガッツポーズをして勝利を喜んだ。




