好物
アシュリー様から情報を共有してもらったものの、さてどうするか……。クレイグ様から頼まれたのはマーガレット様の執事として学園に入学することであって、疑いを晴らすことではない。
そもそも疑いを晴らそうにも、周りに避けられているからには、これ以上の情報を得ることも難しい。…………ひとまずマーガレット様の執事としての務めを果たそう。
「どういうことだマーガレット!」
俺が教室の前までやってくると、マーガレット様の名前を叫ぶ男の声が少し離れた場所まで響いた。
慌てず教室のドアを開き中へ入ると、マーガレット様の前に一人の男が立っていた。
「どうかなさいましたかマーガレット様?」
マーガレット様が「はぁ」とため息をつき頭を抱えていると男が俺を睨み教室を出ていった。
「マーガレット様先程の方は?」
「……ロルフ様よ。あなたが執事として学園に来たのが気に入らないみたいね。」
「それは……私のせいで申し訳ありません。」
「……気にしなくていいわ。それよりもお腹がすいたわ。」
「でしたら食堂に参りましょう。腕によりをかけて作らせていただきます。」
この学園の食事は使用人が作る。当然、料理の腕前を見るために一流のシェフがキッチンで目を光らせている。
「……それで、どうしてこの料理を作ったのかしら。」
「ベンバートン家で食事を作らせていただいた際、マーガレット様に美味しいと喜んでいただいたので。もちろんシェフにも合格をいただきました。」
俺はマーガレット様のためオムライスに塩茹でしたブロッコリー、デザートにカットしたリンゴを用意した。
「……別にいいのだけど、私の今の状況的に他の人と同じような食事をした方が目立たなくていいんじゃない?」
「いえ、私はマーガレット様が悪いことなんてしていないと信じているので。私がこの学園に来た以上、マーガレット様に不自由な思いをさせるつもりはありません。」
俺の言葉を聞き、マーガレット様は顔を下に向け、いつもより少し長く食前の祈りを捧げオムライスを口に運んだ。マーガレット様が一人静かに食事を進めていると上級生が一人話しかけてきた。
「マーガレット嬢……で、あっているだろうか?」
「エリック先輩……合ってますが、どうかしましたか?」
「いや、そのなんだ。単刀直入に言うとマーガレット嬢の食べている料理を分けてはいただけないだろうか!」
「……はぁ?」
予想外の言葉にマーガレット様の頭に疑問符が浮かんでいる……。
「卑しいことを言っていることは重々承知している!だが!私は食べたことの無い料理を見ると、どうしても我慢ができないのだ!」
「なるほど……そういう事でしたら執事にエリック様の分も作らせます。」
「いいのか!」
「構いません。ケニーいいわね。」
「マーガレット様の命令とあれば喜んで。」
マーガレット様に許可を貰い、俺がキッチンに向かおうとするとエリック様に声をかけられた。
「ケニーくん、ちょっと待ってくれ。できれば私のメイドにも作り方を教えてやってはくれないだろうか。」
「……マーガレット様がよろしいのであれば」
「構わないわ。」
俺とメイドはキッチンに入り、お互いに自己紹介を始めた。
「お手間をおかけして申し訳ありません。私の名前はグレンダ・ブレイズ。気軽にグレンダと呼んでください。」
「ケニー・ボーマンだ。マーガレット様を待たせない為にも調理を急ごう。」
まずは、ケチャップの準備。必要な食材はトマトにニンニク タマネギ 砂糖 塩 胡椒 お酢 ローリエだ。
初めにトマトのヘタを取り、沸騰したお湯に数秒くぐらせ皮をむく。皮をむいたトマト、タマネギ、ニンニクをメキサーがないので細かく刻み、フライパンに入れトマトを木ベラで軽く潰す。
そうしたらフライパンに砂糖 塩 胡椒 ローリエを入れ軽く煮立つまで様子を見る。軽く煮立ってきたら弱火にしてトロミがでるまで、たまにかき混ぜる。
トロミが付いたらお酢を混ぜ、味見をしながら砂糖やお酢で味を整え。これでケチャップの完成だ。後はオムライス。
材料は鶏肉 タマネギ(みじん切り) マッシュルーム ご飯 バター 胡椒。フライパンにバターを加え鶏肉 タマネギ マッシュルームの順番に加熱する。
最後に加熱したマッシュルームの水分が減ってきたらケチャップと胡椒を加え、よく混ぜる。そうしたらご飯を投入しソースと絡める。完成したチキンライスは皿へ移し熱が逃げないよう器をかぶせ保温する。
卵はふわトロに作るのが苦手なので、普通のを作る。オリーブオイルで半熟になるまで火を通ししたら、卵の上にチキンライスを乗せフライパンと皿を上手く使い卵で包む。
後は塩茹でしておいたブロッコリーと別皿に移したケチャップをオムライスの皿に盛り付け完成だ。
俺は完成した品をエリック様の元に運ぶと、そこにマーガレット様の姿はなかった。
「エリック様。マーガレット様はどこに行ったかご存知でしょうか。」
「すまないケニーくん。彼女を楽しませようと話を振っていたのだが、私が食のことにしか興味がないのもあり、彼女を怒らせてしまったかもしれない。彼女は図書館に行くと言い残し出ていってしまった。」
「エリック様。あの方は長く人と話していなかったので気まずさから図書館に行っただけのはずです。エリック様はお気になさらず、どうか料理をお楽しみください。私はマーガレット様の元へ向かうので失礼いたします。」
「あぁ!マーガレット嬢にいつかお礼をすると伝えておいてくれ!」
「かしこまりました。」
俺はエリック様に頭を下げ図書館へと向かった。




