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プロローグ

気分転換です。

プロローグ


「岩崎 善司!」


 教室に響く教師の声に返事を返す生徒はいなかった。

「岩崎は今日も休みか……川口。悪いんだが、今日は職員会議で忙しくて先生届けてやれないんだ。プリントを届けてやってくれないか。」


「……わかりました。」


 (昔の岩崎くんは優しかったけど、最近の岩崎くんっていい噂聞かないから会いたくないな……)


 放課後に川口は重い足取りで岩崎の家へと向かった。

「はーい」


 インターホンを鳴らすと顔に青アザのできた岩崎の母親と思われる人物が申し訳なさそうに玄関の扉を開けた。

「あの……小林先生に言われてプリントを届けに来ました……」


「あら、わざわざありがとうね。本当は善司にもお礼を言わせたいんだけど、今あの子家に居ないのよね。」


「いえいえ!お構いなく。プリントを届けに来ただけなので!では!失礼します!」


 川口は岩崎の母親にプリントを手渡すと、そそくさと岩崎の家を後にした。帰宅中、川口が子供の頃よく遊んだ近所の公園の前を通ると、公園の中から一人の男が声をかけてきた。

「よぉ、川口くん!」


「……三上くん。」


 中学まで大人しかった三上は、高校に入り素行の悪い生徒と絡むようになると川口によくお金をせびりに来るようになった。

「遊んでばっかいたら親が今月お小遣いくれなくてさぁ。悪いんだけど金貸してくんない?」


「……ごめん三上くん、今月は欲しいゲームがあって……」


「そっか……だったらしょうがないよな!」


 (納得してくれたみたいでよかった……!)


「そういえば!話は変わるんだけどさぁ。確かお前って二つ年下の妹いたよな?名前は確か……ミツキちゃん!」


「いるけど……」


「いやさ、結構可愛かったよな〜って。今の女にも飽きてきたし俺に紹介してくんね?」


「……一万で大丈夫?」


「欲しいゲームあるんじゃないの?」


「お願いだから妹には関わらないで……」


「うわ、何それ傷つく!まぁ金くれるならなんでもいいけど。じゃあありがたく!」


 三上が川口から一万を受け取ろうとした時、家に不在だった男が通りかかった。

「川口に三上じゃん。こんなとこで何してんだ?」


「善司……」


「ん、それって……あぁ、なるほど。」


 川口が三上に手渡す一万を見て岩崎は状況を理解した。

「俺さ、母ちゃんからのメールでプリント届けてくれたから、会えたら川口にお礼言えって言われてんだよね。」


 岩崎は二人の前に立つと三上の手を全力で握り一万から手を離させた。

「それと困ってる人がいたら助けてやれって田舎の婆ちゃんが言ってたかも。」


 岩崎は落ちた一万を広い川口に手渡した。

「嫌なことは嫌って言わなきゃダメだよ。三上もこんなダサいこと辞めて、早くアイツらと関わりを切った方がいいぞ。」


「善司……お前は、俺の心配してる場合じゃないだろ。聞いたぞ、うちの先輩たちのことボコったんだろ?」


「あれはカツアゲを断ったらアイツらが殴りかかってきたから仕方なく……。」


「お前にどんな理由があったにせよ、川口みたいに大人しく従わないから、お前、先輩たちに目をつけられてるぞ。」


「忠告どうも。忠告ついでに俺に関わらないように言っといてくれ。」


「ハッ!カツアゲを邪魔された俺が、なんでお前のためにそんなことしないといけないんだよ。……親切心で、もう一度忠告してやる。次に先輩たちに会った時は迷わず金を渡せ。今度断ったらあの人たちが何するか分かんねぇ」

 

三上はすれ違いざまにそう言い残し、家へと帰っていった。

「肝に銘じとくよ。さっ俺たちも帰ろっか!ここら辺、最近治安悪いし家まで送るよ。」


 川口は岩崎と共に帰路に着いた。

「えっと……岩崎くん、助けてくれてありがとう。」


 無言に耐えかねて川口が口を開いた。

「助けたって程のことじゃいなよ。困ってる時はお互い様だろ。」


「……なんだか岩崎くんって想像してた感じと違うんだね。もっと怖い人かと思ってた。」


「俺はただの不登校だよ。あの学校じゃ不登校=不良なんだろうな。」


「……聞いていいのか分からないけど、岩崎くんはどうして学校来なくなったの?ひ弱そうには見えないけど。」


「うちの家、父親がクズでさ。働かないくせにギャンブルするわ、生活費にも手を出すわで俺が働かなきゃ生活できないんだよね。」


「なんか……聞いてごめん……。」


「いいよ別に。だからこそカツアゲとか渡せないし許せないんだよ。お金を稼ぐ大変さも千円のありがたさも、幸せな環境で育った奴らには分からない。」


 (岩崎くんと話していると、言われるがままお金を渡していた自分が恥ずかしくなる……父さんと母さんが必至に稼いで、僕へのお小遣いとしてくれたのに赤の他人に渡してしまうなんて……僕も岩崎くんみたいに強くならなきゃ!)


「今日は色々とありがとう!」


「こちらこそプリントありがとな。じゃ!」


「善司くん!」


 岩崎が、振り返り来た道を戻ろうとする足を川口の声が止めた。

「今度うちに遊びに来てよ!色んなゲーム持ってるから、きっと善司くんが気に入るゲームもあると思うから!」


 岩崎は照れくさそうに頭を数回搔き、頷き。家へと帰っていった。


 数日後。善司くんが殺されたことを学校で聞かされた。死因は刺傷による失血死らしい。どうやらカツアゲを断った善司くんに腹を立てた不良グループと揉めて最終的に腹部を二回刺されたらしい。


 善司くんは五名の不良に襲われたのにも関わらず、腹部の刺傷こそあるものの他は綺麗なもので、不良たちの怪我の方が大きかったらしい。


 善司くんの死から数日が経つと、善司くんの家の前にパトカーが集まっており、善司くんのお母さんが自殺したことを聞いた。善司くんが死んでしまったことにより心の支えがなくなってしまったのだろう。


 (善司くん……せっかくパーティーゲーム買ったのに一人じゃ面白くないよ……)


善司くん、僕も善司くんのように強い男になれるかな……。


 

 


 

 


 



 

 

 


 

 

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