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第7話 さよなら連休気分!? 探偵部、五月病をぶっとばせですの!

5月某日。連休明け、昼下がり。


私たち探偵部の部室には、目に見えるほど重たい空気が漂っていた。


 


「…………」


「…………」


「………………」


「………………ぷしゅー……」


 


誰ひとり、口を開かない。

椅子に崩れるようにもたれかかる私、片瀬雪を筆頭に、全員が完全に干物化していた。


 


しおりはソファにうつ伏せで「風が止まった……」と呟き、

茜は卓上のクッキーを咀嚼したまま寝落ちしそうで、

真白に至っては——


 


「ぐぬぬぬぬ……連休ロス……この私が、まさかの戦意喪失……」


 


まさかの正座で虚空を見つめていた。


 


「いや、どうした真白。そっちの方が怖いから」


「だって……連休が……楽しかったんですもの……ぐすっ」


「泣くな。大して“捜査”もしてないくせに」


 


そう、つい先日までのゴールデンウィーク。

私たちは街で遊び倒し、謎のチラシを拾い、迷子の子どもを助けたりした。


 


それはもう、連休のフルコースといってもいいぐらい濃密だった。

けれど、それも今は昔。目の前にあるのは、長〜い通常授業と、再び始まる課題地獄。


 


「私、もう……ダメかもしれない……」


真白がごろんと倒れ込む。


 


「元気なかったら、探偵もできませんのよ……犯人も逃げ放題ですわ……」


「どんな正義感だよ」


 


「ふふ……これがいわゆる、“五月病”ってやつか……」


しおりが幽玄なトーンで囁いた。


 


「確かに……わかる……」

「私もちょっと……やる気が……」

「起き上がれない……」


 


あ、全員が集団で沈んでいく音が聞こえた気がした。


そのとき——


「おーい、探偵部〜〜〜!」


 


教室のドアがガラッと開いて、風紀委員の小林さんがひょっこり顔を出した。


 


「……なに? うち今、営業停止中だけど」


私が棒読みで返すと、彼女は苦笑しながら入ってきた。


 


「いやさ、変な噂があって。**“誰かが書いた謎のノートが校内を回ってる”**って話、知ってる?」


 


「ノート?」


 


「そう。なんか“悩み事”とか“秘密”とか、正体不明の内容が書かれてて、

 誰が最初に書いたのかも、今誰が持ってるかも、よくわかんないのよ」


 


「なにそれ……ちょっと面白そう」


 


真白の目が、キラーンと光った。


さっきまで死んだ魚のような目だったのに、一気にギラついた。


 


「それはつまり、校内流通型匿名情報共有ツール。

 ふむふむ、いかにも事件の香りがいたしますわ……!」


 


「復活早っ!!?」


「連休の回復アイテム、それだったの!? カフェインとかじゃないの!?」


 


茜が言った。


「え〜、でもさ、それってただの交換ノートなんじゃないの?」


 


「かもしれないけど、正体不明ってのが引っかかるんだよねぇ」


小林さんは肩をすくめた。


 


「なんか“誰かが泣いてた”とか、“妙にエモいポエムが挟まってる”とか、色々言われててさ」


 


その瞬間——


「ポエム……!?」


 


しおりが目を見開いた。


 


「それ、風からのメッセージかもしれない……!」


「いや絶対違うよ!! やめて、それで犯人特定しようとするのやめて!!」


 


だが、こうなると止まらないのが探偵部。


 


「いいでしょう! 我々、探偵部がこの謎のノートの正体を突き止めて差し上げますわ!」


 


「連休ロスって言ってた人が一番元気だ……」


 


雪解けならぬ、連休明けの探偵魂に火がついた!


「というわけで、ノートの行方を追跡するため、各自で聞き込み調査ですわ!」


真白がホワイトボードに「謎ノート捜査本部♡」と書いた時点で、もう部室は“通常営業”に戻っていた。


 


「私は文芸部にツテがありますの。ポエム関係なら、まずそちらから」


 


「私は購買に行ってきます! おやつ買うついでに情報集めるんで!」


 


「……私は、ノートに込められた“霊の声”を……探す」


 


「よし、じゃあ私は普通に図書室と生徒会室あたり聞いてみるわ」


(ていうか最後のしおりのは情報にならなそうだけど、まあいいや)


 


 



 


それぞれ散っていった私たちは、約1時間後に再集合。


 


「進展あった?」


「ありますわ!」


真白がずいっと前に出る。


 


「文芸部の部員の一人が、先日“謎のノートを見た”と言ってましたわ!

 内容は“親友に打ち明けられない秘密がある”というもので——」


 


「おっ、それそれ! 購買で聞いた話も同じだった!」


茜が手を上げる。


「“親友と疎遠になってしまった。どうしたら仲直りできるか”って。

 やっぱり、お悩み相談系のノートみたい!」


 


「風もそう言っているわ」


「おまえの風、有能すぎない!?」


 


「つまり、そのノートは悩みを書くことで心を整理するためのツール。

 でも匿名で流通してるってことは、始めた誰かがいるはずよね」


 


私がまとめに入ると、全員がうなずいた。


 


「そうね……この“謎ノート”、元は誰が仕掛けたのか。それを突き止めれば——」


「“この話のタイトルに説得力が生まれる”ってことですわね♡」


「メタ発言やめて!?」


放課後、私たちは図書室でひとりの生徒を見つけた。


メガネをかけた小柄な少女。図書委員の一年生・小森ひよりさん。


 


「……もしかして、“ノート”を作ったのって、あなた?」


 


問いかけに、彼女は静かにうなずいた。


 


「はい。きっかけは……連休前、クラスメイトが“ちょっと悩んでるけど言えない”って呟いたのを聞いて。

 だったら、ノートで……誰にも言えないことを少しでも吐き出せたら、って思ったんです」


 


最初はクラスの本棚に、さりげなく置いていた。

誰かが拾って書き、また誰かが拾って書いて——

いつのまにか、教室を超え、部活を超え、学校全体に広がっていったらしい。


 


「私が配ったわけじゃないんです。でも、みんなが“ちょっと心を軽くする”ために使ってくれて。

 正直、こんなふうになるとは思ってませんでした……」


 


「……すごいこと、したね」


私は自然とそう言っていた。


 


「なによりも“心の事件”に寄り添ってたわけですもの。

 これはもう、“名探偵レベル”の功績ですわ!!」


真白が急に褒めるモードに入る。


 


「っていうか、ぶっちゃけ私たち、今回あんまり何もしてないよね?」


「まあまあ。気付けたってだけで意味はあるのですのよ♡」


「うまくまとめたように聞こえるけど、よくわかんない!」


 


 


その日の帰り道——


「ねぇ、これって……さ」


茜がポツリと言う。


 


「もし私たちが“謎ノート”使うなら、何書く?」


 


「私は、また肉まん10個食べたこと……親に内緒にしたいかなぁ」


「それただの暴食懺悔じゃない!?」


 


「私は……“風の声が誰にも伝わらないことがつらい”かな」


「しおり、それ“風の方”の悩みじゃない?」


 


「私は……“探偵部、そろそろまじめな事件に関わりたい”って書くかも」


私がそう言うと——


 


「えぇ〜〜!? 今日のも立派な事件ですわよ!?」


「どこが!? むしろ“心がほっこりする”系でしょ!」


 


 


部室に戻った私たちは、ノートの存在をあえて記録には残さなかった。


 


“誰かの心を軽くするノート”は、きっとそのままの方がいい。


 


だから、今日の活動記録には——


 


『謎のノート:犯人不明、事件性なし。でも、ちょっとだけ、世界が優しくなったかも?』


 


とだけ書いて、

また次の事件に向けて、気持ちを切り替えるのだった。


面白いな、気になるな、と思っていただけたら、

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