第6話 これが真の捜査合宿!? 探偵部、GWに大はしゃぎですの!
「というわけで、捜査合宿を決行いたしますわ!!」
放課後の部室。
勢いよく立ち上がった鷺ノ宮真白が、なぜか地図をバサッと広げた。
「明日からゴールデンウィーク。学校はお休み!
つまり、“現地調査”の絶好のチャンスですわ♡」
「ねぇ、その“現地調査”って何するの?」
私、片瀬雪は、すでに察している。たぶん、ろくでもないことになる。
「もちろん! 街の“事件”を調査して、解決して、名声を高めますの!」
「つまり……街ブラってことね」
「違いますわ! これは偉業の第一歩ですのよ!」
「名声より前に、お出かけ許可とか取ったの?」
「ええ、もちろんですわ♡」
真白は胸を張る。
どうやら、保護者からの外出許可も学校からの届出も、完璧に通していたらしい。
こういうところだけ無駄に有能なのが彼女である。
「というわけで、探偵部の皆さま!
明日は早朝9時、駅前集合ですわよ!」
「朝早っ!!」
「ちゃんと私服で来てくださいましね? お嬢様らしく、品よく可愛く!」
「……まぁ、せっかくだし。たまには気分転換、いいかもね」
天城しおりは、本を読みながらふと顔を上げる。
「……街に、“風”が吹いてる気がする」
「……何も始まってないけど!?」
「はいはーい! 私は“肉”の気配がするお店を調査したい!!」
犬飼茜は、すでにお腹を鳴らしていた。
「それただの食い倒れ旅行じゃない!?」
翌日、天気は快晴。
駅前に集まった私たち4人は——
まずその服装のギャップに、1分くらい沈黙した。
「……え、なんでみんな、ちゃんと私服可愛いの……?」
しおりは黒のレースワンピースに、日傘というゴシックモード。
茜はスポーティーだけど動きやすいデニムとパーカーで元気全開。
真白は……なぜかフリル全開の白ドレスに帽子という“完全なる令嬢スタイル”。
そして私は……無難なシャツにパンツ。
「なんか私だけ、親に連れられてきた引率の保護者みたいなんだけど!?」
「落ち着いた雰囲気で素敵ですわよ、雪さん♡」
「褒めてない!! それもう“学園長”寄りのテンションでしょ!!」
というわけで、向かったのは——
学校から数駅先にある、観光地でもあるレトロな商店街エリア。
「おお〜〜! めっちゃにぎわってるじゃん!」
「屋台がたくさんありますの! これは……事件の匂い♡」
「それただのタコ焼きの匂いじゃん!」
まず向かったのは、地元名物・“たい焼きアイス”。
真白が「これは冷凍された人魚の密輸に違いありませんわ」とか言ってたが、
冷たくて甘くておいしかったので、全員一致で秒で完食した。
次に茜が引っかかったのは、ガチャガチャコーナー。
「うわ、見てこれ! “謎の鍵シリーズ”!? え、これ絶対なんかの伏線だよ!」
「いや普通に意味ないヤツだから!! 世界観に飲まれないで!!」
しおりはというと——
「……この石、喋ってる」
「それ買っちゃダメ!!!!」
(※占い系のパワーストーン店で、ガチで買おうとしていた)
そして、真白は真白で——
「この商店街……何か隠されてますわね……」
「ただの人混みだよ!! 隠されてるのはアンタの常識だよ!!」
でもまあ、笑って食べて、騒いでツッコミして、
それなりに楽しい時間が過ぎていく。
そんな時——
「……あれ?」
茜が足元の紙に気づいた。
それは、一枚の薄汚れたチラシだった。
「“失われしトレジャーを探せ……?”」
「なにこれ、イベントの案内? それとも……」
「来ましたわね……事件の匂いですわ♡」
「うわ、こいつら全員スイッチ入った!!」
「“失われしトレジャーを探せ”って……どっかで見たことある気がするけど?」
私がチラシを受け取って、裏返すと——
「あ、これ。フリーマーケットのイベントだよ。今日の午後から開催されるって書いてある」
「……なんだ、ただのイベントか」
「いやでも、“失われしトレジャー”って名前つけるの、厨二心くすぐるよね〜!」
茜が目をキラキラさせる。
「ふふふ……これはただのフリマではありませんわね」
「真白、もう“ただの”って単語が聞こえなくなってるでしょ!?」
そのまま、商店街の端にある広場エリアへ。
すでに多くの人が集まっており、出店とステージ、そして子ども向けの謎解きイベントが始まっていた。
「えっ、なにこれ楽しそう!」
「“参加者には豪華賞品あり”って書いてありますの!」
「えっ、私、謎解きやりたい!!」
茜が走りかけたその時——
「……お姉ちゃん、知らない……」
ぽつんと立っていたのは、小さな男の子。
手にはバラバラのパンフレット、目には涙。
「えっ、まさか——」
「迷子発見!!」
「うおっ、出た、探偵部の正義スイッチ!」
私たちはすぐにしゃがみ込み、男の子に声をかける。
「大丈夫、迷子になっちゃったんだね。お姉ちゃん、何て名前?」
「……さなえ、お姉ちゃんの名前……」
「ふむ、さなえさんというお姉さんとはぐれてしまったようですわね」
しおりがスッと立ち上がる。
「……風が言ってる。“姉は近くにいる”って」
「根拠薄っ!! あとその風、たぶん屋台の焼きそばの匂い!!」
ひとまずイベント本部に連れていくことに。
スタッフさんに事情を話すと、「お姉さん探しますね!」とマイクを握り——
『ただいま、さなえ様というお姉さまをお探しの……あっ、いらっしゃいましたー!』
驚くほど速くお姉さんが見つかり、無事再会。
「ありがとうございます……! 本当に、助かりました!」
彼女は恐縮しながら、私たちに紅茶専門店の割引券を差し出した。
「よければ、お礼にどうぞ……!」
「これは……任務成功の証、ですわね♡」
「うわー、なんか今回、珍しくちゃんと役に立った感ある……!」
夕暮れ。
あれこれ歩きまわって、全員ヘトヘトになって帰路の電車に揺られていた。
「……足、棒……」
「ソフトクリーム4本はさすがにやりすぎたかも……」
「でも、今日……楽しかったね」
しおりがぽつりとつぶやく。
「うん、遊んで笑って、ちょっとだけ誰かの役にも立てたし」
私もそう思う。
「さすが我が探偵部。遊びも事件も手を抜かないのがポリシーですわ!」
「でも今回は事件じゃなくて完全に“迷子の保護”だからね?」
「いえ、心の迷子を救ったとも言えますわ」
「言いすぎだわ」
帰りの駅前で全員集合写真を撮って、
「また行こうね!」と約束して、解散。
その夜——部のグループチャットに、真白からひと言。
『次は温泉捜査合宿ですわ♡』
「行かないからね!!!」
私は秒でツッコミスタンプを押した。
面白いな、気になるな、と思っていただけたら、
ブックマーク、評価していただいたら嬉しいです!