第5話 占い部の呪い!? 探偵部、運命に挑む!
朝の聖ルミナス女学院、探偵部部室——
「ぎゃあああああああああっ!!!!!」
絶叫から始まる、いつもどおりの朝である。
「な、なになに!? 火事!? 血!? 爆発!?」
「ちがうよ!! 見てこれ!!」
テーブルの上には……ぐっしゃりと潰れたパン。
中から流れ出したイチゴジャムが、見事に血のように広がっている。
「……いや、ただのメシ事故だよね!?」
「違うの雪ちゃん!! これは呪いだよ!!」
「お菓子が潰れただけで呪い認定すんなよ!」
イチゴジャムまみれの制服で泣き叫ぶのは、元気脳筋代表・犬飼茜。
「今日ね! 朝、通学路の門のところで、占い部の人に会って!
“運命が赤く染まります”って言われて!!
それでこれ!! ジャムまみれ!! 染まってる!!」
「それ、単にフラグ回収力が高いだけでは!?」
そこへ、すっと紅茶を置いたのは、電波発言代表・天城しおり。
「……これは、運命の歪みだね。
赤い運命に導かれ、茜さんはきっと今日——破滅する」
「そんな事後報告みたいに言わないで!!」
その横で、もうひとりの異常な人——鷺ノ宮真白が、深刻な顔でつぶやく。
「占い部……あの“校内オカルト系クラブ”が、ついに牙をむいたというのですわね……」
「いや別に敵対してるクラブじゃないよ!? 何その裏の組織感!?」
その日の昼休み。食堂で——
「うわああああああああああああああ!!!」
またしても叫ぶ茜。今度は何かというと、
「オムライスのケチャップ、**“×”の形になってるぅぅぅ!!!」
皿の上のオムライスに、絶妙な偶然で描かれたバツ印。
「ほら見て!? 見てこれ!? 呪いの印だよこれ!?!?」
「いや偶然だって! ケチャップってそういうもんだよ!?」
「絶対“×”って、なんか意味あるって!!」
「……“×”は、拒絶。
——天に見捨てられた印だね」
「しおりちゃんがそれ言うと怖さ100倍になるからやめて!!!」
真白はオムライスを神妙に見つめていた。
「ふむ……これはもはや、ただの“気のせい”の域を超えていますわ」
「いやまだ気のせいで済むレベルだよ!? せめて客観的に見ようよ!!」
「だいたいさぁ、そもそも“呪い”って何?
仮に占い部がそんな力持ってたら、もう国家転覆できるレベルでしょ」
私はハンバーグ定食を食べながら冷静に反論していた。
が——
「ふふっ……知らないの?」
近くの席にいた噂好きの二年生が、唐突に割り込んできた。
「“占い部に×を出された人は、3日以内に不幸になる”って……
これは去年からの都市伝説よ。
実際に、財布をなくした子も、ノートが真っ黒にインクまみれになった子もいるの」
「いやそれ、普通にドジっただけじゃない!?」
「でも、妙に重なるのよ……“×”の印と、その後の不幸が」
テーブルの空気が、一気に冷える。
茜は泣きそうな顔で、
「わ、私……明日、体育の持久走あるんだけど……。
もし、足がもげたらどうしよう……」
「さすがにそこまで呪われないよ!?」
「わかりましたわ……!」
真白が勢いよく立ち上がる。
「占い部の呪いの謎——探偵部が解き明かしてみせますの!!」
「よし来た! 久々に“ちゃんと探偵っぽい”やつ!!」
「そして呪いの正体を暴き、我が探偵部の名声を世に知らしめるのですわ!」
「……まぁ、最終的に自分の評価に繋げるのはいつものことか」
放課後、探偵部一行は学園旧校舎の一室へ。
そこは——薄暗く、香が漂い、カーテンが常に閉じられている。
占い部部室である。
「いかにも……怪しい!!」
「静かにしなさい真白、そういうの言うと怒られるから」
部室の奥には、占い部部長・**紫乃宮星**がいた。
銀髪に紫の瞳、妙に滑らかな手つきで水晶玉を撫でている。
その横には後輩らしき、占い部員が数名。どれもゴスロリや民族風ドレスなど、個性豊かだ。
「ようこそ、探偵部の皆様。……風があなたたちを導いてくれましたのね」
「……また風かよ!!!」
(※天城しおりがニヤリと微笑む)
真白が前へ出る。
「貴女たちが、“呪い”をかけているという噂が流れていますの! どうお考えですの!」
星は、ふっと笑った。
「呪い? それはただの受け取る側の問題ですわ。
わたくしたちは“象徴”を読み取って、未来を示しているだけ」
「でも、“×”が出た人だけ不幸が続いてるんです!」
茜が涙目で叫ぶと、星は静かに水晶玉を撫でて言った。
「“×”は、注意を促すサイン。
それが不幸を呼ぶのではなく——注意深くなれない心が、不幸を呼ぶのですわ」
「な、なんか名言っぽいこと言われた!?」
「いや言ってること正論じゃない!?」
「……でも確かに、×をもらってから私、ずっと緊張してて……」
茜がポツリと呟く。
「転んだのも、ジャム潰したのも、全部“何か起こるかも”って焦ってたせいで……」
しおりがぽそっと口を挟む。
「つまり……“呪い”は、心の中にあったってこと?」
星は静かに頷いた。
「運命は、いつだってあなたの心に寄り添っています。
読み取るのは、私たちの役目。動くのは——あなた自身」
「めっちゃいいこと言ってる!!」
「な、なるほど……!」
真白も感銘を受けた様子で頷く。
「では、この呪いの騒動——我々探偵部が、責任をもって“誤解でした”と広報いたしますわ!」
「え!? 広報!?」
「うちの部の名誉のためにも、宣伝しておきますの♡」
「結局それが目的かよ!!!!」
次の日の朝。
探偵部による「占い部の呪い事件・誤解でしたレポート」は校内でそれなりに注目を集めた。
「ねぇ見て見て、これ読んだ? “呪いじゃなくて自己暗示”って!」
「わたしも“×”もらったけど、なんかちょっと安心した〜」
昼休み、茜は元気に体育着で飛び跳ねていた。
「みんな!! 無事に走りきったよ〜〜〜〜〜!!!」
「よかったじゃん!! 足ももげてないし!!」
「もげないで当然だけど、うれしいよぉ〜〜〜!!」
しおりがふと、空を見上げた。
「……風も、祝福してるみたい」
「出たな、天城の風語録」
そのとき、部室のドアが開いた。
占い部部長、紫乃宮星が、ふらりと現れた。
「……あの、先日はどうも。お礼に、これを」
差し出されたのは——1枚のタロットカード。
「それは、貴女に今必要な“未来のヒント”ですわ。
でも、信じるかどうかは……あなた次第」
星はそれだけ言って、すっと去っていった。
私は手元のカードを見つめる。
——【The Fool(愚者)】
「……“愚か者”、ね」
「雪ちゃんにはお似合いですわよ♡」
「うるさい!! むしろ一番まともなの私だってば!!」
「でもねー、愚者って、**“無限の可能性の始まり”**って意味もあるんだよ!」
茜が笑いながら言う。
私はもう一度カードを見つめて、ポケットにしまった。
「……ま、運命なんて、自分で切り拓くものだしね」
今日も探偵部は元気です。
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