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第4話 部活停止通告!? 探偵部、活動報告書をでっちあげろ!

朝の聖ルミナス女学院。

花壇には季節の花が咲き誇り、廊下にはピアノの音が流れる。


この学園で過ごす生徒たちは、皆、上品に、静かに——


 


「どぉぉぉぉぉしてですのぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?!?!?!?」


 


その静寂を、見事に粉砕したのはもちろんこの人、

探偵部の“絶叫お嬢様”、鷺ノ宮真白だった。


 


「うるさい!! 声が廊下に響いてる!! ガラス割れるよ!!」


私はソファから半身を起こし、真白が振り回す紙をひったくる。


 


そこには、こう書かれていた。


【通告書】

貴部の活動内容が不明瞭かつ、学園秩序に支障をきたしているとの複数の報告を受け、

当生徒会は貴部に対し、活動停止の仮通告を行います。

猶予期間は3日。期間内に正当な活動報告を提出された場合、継続審査に移行します。


 


「うわぁ……ガチのやつだこれ……」


「こんなの不当ですわ! 私たちは清く正しく、時に意味不明に活動してきましたのに!」


「“意味不明”は誇っちゃダメだよ!?!?」


 


部室の隅では、犬飼茜が真剣な顔でプリントを眺めていた。


「活動停止ってことは……この部室、撤去されちゃうの!?」


「いやさすがにそこまではいかないと思うけど!? でもヤバいのは確かだよね!?」


 


そして、ひとりだけ静かに紅茶をすする天城しおり。


「……これは、運命の風が試してるのかも」


「運命の風は書類で来ないよ!!!」


 


こうして、探偵部は危機を迎えた。


生徒会からの“停止通告”——

それを覆すために与えられた唯一の手段。


 


「活動報告書を提出せよ」


 


……私たちに、“ちゃんとした文章”が書けるのかは別として。

「報告書……って、なに書くの?」


茜がノートを開きながら、眉をひそめる。


「そりゃあ、今までの活動内容を、ちゃんと文章にするんでしょ」


「って言ってもさ、今までやったことって……」


 


・カレー失踪(※食材室に移動されただけ)

・恋文騒動(※本人が机に置き忘れてただけ)

・白い影調査(※落とし物の返却途中だっただけ)


 


「……うん、どう考えても、報告できるほどの成果ゼロだよね」


 


「いえ、わたくしは違いますわよ!」


真白がバッと立ち上がる。


「名探偵たるもの、報告書もまた芸術。この鷺ノ宮真白、全身全霊を込めて、愛と推理の記録を記しましょう!」


「その時点で、“事実を伝える”から遠ざかってる!!」


 


「……ねぇ、雪ちゃんはどうする?」


しおりが、既に便箋を手にしていた。


「私は、風に聞いたことを書く予定」


「それただのファンタジー小説だよね!? ていうか風に取材すんな!!」


 


「まぁ、何はともあれ!」


茜が拳を握りしめる。


「3日以内に出せばいいんだよね!? よーし、レッツ作文タイム!!」


「そんなノリで行けるの!?」


 


私はため息をつきながら、ペンを握る。


静かに過ごしたかった高校生活は、今日もまた無理だった。


だけど——


「……負けるわけにはいかないんだよな」


なぜだか、ちょっと燃えている自分がいた。


 


探偵部、存続のための戦いが始まる!



探偵部部室。午後三時。紅茶の香りが漂う中——


 


「報告書、完成いたしましたわ♡」


最初に提出してきたのは、もちろんポンコツ部長こと鷺ノ宮真白である。


封筒から出されたレポート用紙は、なぜか便箋。しかもバラの香りつき。

そしてタイトルがすでにおかしい。


 


『華麗なる名探偵の記録〜事件と紅茶と、あと少しの愛〜』


 


「事件と紅茶はまあ……わからなくもないけど、愛って何!?」


「雪さん、探偵とは、いつだって愛に飢えているものですのよ」


「そんな設定、探偵小説界でも初耳だよ!!」


 


中身を開くと、以下のような文章が続いていた。


〜あの日、白い影が校舎を駆け抜けた。私は確信した。

あれはただの落とし物ではない。“想い”が、風に乗って走っていたのだと。


私は紅茶を啜りながら、そっと微笑む。

「事件は、解決されるべきではない。味わうものですの」——


 


「全部ポエムじゃん!!!!」


 


「次、私のね!」


元気いっぱいに提出してきたのは、脳筋担当・犬飼茜。


その報告書は、なぜか手描きのイラスト付きだった。


 


「わたしのかつどう(かれー・かいだん・ことば)」


 


「“かつどう”の分類がすでに雑すぎる! しかも“ことば”ってなに!?」


「これは、“犯人がしゃべったっぽい雰囲気”のことだよ!」


「雰囲気なの!? 証拠じゃなくて!?!?」


 


中身の文章(というか感想文)を読んでみると——


わたしは かれーのなぞを おいかけた。

かれーは なくなっていたけど うらやすみに しまわれていただけだった。

でも そのなかに ゆめがあったと おもう。


 


「……ねぇ、これって」


「うん、小1の作文レベルだね」

 


「……できた」


静かに紙を出してきたのは、天城しおり。


彼女の報告書のタイトルは——


 


『風は、今日も見ていた』


 


「……うん、いやな予感しかしない」


案の定、最初の一文からしてこうだった。


午後二時十三分。風が語った。

“白いものは、落ちたが、戻った。

それは、心がつながった証拠——”


わたしは紅茶を飲んだ。風は、沈黙した。


 


「風しか登場してないんだけど!?!?」


「……だって、一番しゃべってたの、風だったし」


「違う意味で幽霊出てきてるからね!? 見えない存在に頼らないで!?」

 


「はいはい、そこのカオス3人組! 提出ありがとう! 全部ボツ!!」


私、片瀬雪は、机に広げられた三人分の“報告書”らしきものに頭を抱えていた。


「はあああ……結局、私が全部書き直すんじゃん……」


 


でも、なんだかんだで。


「まぁ、慣れてきたかもな」


手を動かしながら、小さく笑ってしまう。


 


——ということで、完成した“まともな報告書”のタイトルは:


『探偵部活動記録報告書・第1号』


 


●活動目的

校内における小規模な異変・誤解・誤認に対し、現場調査を通して

円満な解決を図ることを主目的とする。


●主な活動記録

・カレー食材消失騒動(調理室への移動)

・匿名恋文紛失(当人の置き忘れ)

・白い影の謎(落とし物返却中の人影)


●活動の意義

調査結果は小さな出来事ばかりだが、いずれも誰かの“気持ち”や“優しさ”に関わる内容だった。

探偵部として、学園の平和と日常を守る一助となっている自負がある。


 


「……うん、これなら大丈夫なはず!」


私は封筒にレポートをしまい、生徒会の提出ボックスへと向かった。



 


——翌日。


生徒会室前に貼られた掲示。


 


『探偵部・仮停止処分、保留。継続審査中』


※なお、提出された報告書の一部にポエム・童話・風との対話が混在しており、

書類選考中の審査委員の精神が不安定となったことを付記します。


 


「……誰だ、私の報告書すり替えたの」


「ふふっ♡ しおりさんが“風に送った”って言ってたから、つい……」


「おい真白ぉぉぉぉぉ!!!!!」


 


探偵部の未来は、風まかせである。

面白いな、気になるな、と思っていただけたら、

 ブックマーク、評価していただいたら嬉しいです!


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