第2話 お嬢様の恋文事件!? 探偵部、初の公式依頼ですの!
春の朝。澄みきった青空。風に揺れるリボン。
ここ聖ルミナス女学院は、今日も平和で優雅な時間が流れている。
「……はずなんだけどなぁ……」
私は窓際の席で、ため息をついた。
静かな朝の教室。生徒たちはみな、お行儀よく本を読んだり、お茶を飲んだりしている。
その空気を壊したくない。私は目立ちたくない。
……そう。私はただ、静かに、穏やかに、高校生活を——
「ゆっきゆき〜〜〜っ!!! 大事件発生ですのよ〜〜〜っ!!!!」
バァァァン!!!
教室のドアが勢いよく開いた。
そして、**探偵部部長(自称)**の鷺ノ宮真白が、全力ダッシュで突っ込んできた。
「出たああああああああああああ!!! また“ですの砲”!!!!!」
真白は、フリル付きの制服をなびかせながら、
私の席に思いっきり突っ伏した。紅茶カップを持ったまま。
「ですの……ですの……ごきげんよう……」
「語尾が崩壊してる!! ていうかそれ、何持って走ってきてんの!? 割れるやつ!!」
「今朝、探偵部に初の公式依頼が届きましたの!!」
「おちつけ!! 言葉の優雅さと行動の粗さが真逆すぎて情報が入ってこない!!!」
ああもう、今日もこの学校は平常運転だ。
私はそう諦めて、椅子から立ち上がると——
「——よし、話は部室で聞こうか」
すでに現れていた、筋肉と勢いの塊こと犬飼茜が、私の背中をバシィィンと叩いた。
「背骨に響いたぁぁあああああああ!!」
「……ねえ、これって夢じゃない? 幻覚?」
「ううん、電波だよ」
当然のように教室の後ろで佇んでいたのは、天然電波受信系天才少女天城しおりだった。
「じゃあやっぱり夢じゃん!!!」
こうして私は、入学から一週間足らずで、
またしても“平穏な朝”を失った。
部室。午前9時。
ふだんは「くつろぎの場」として騒がしいこの空間に、今日はやたらと緊張感があった。
なぜなら、そこに座っていたのが——
「はじめまして。1年D組の風香と申しますわ」
完璧すぎるお嬢様が、探偵部に正式な依頼をしに来たからだった。
つややかな黒髪、端正な顔立ち、凛とした瞳。
制服の着こなしも非の打ちどころがなく、立ち居振る舞いも洗練されている。
まさに“お嬢様学校に舞い降りた貴族”といった印象。
「まさか……生徒会の風香さん……!?」
「え、知ってるの?」
私が驚いて聞くと、真白がふふっと笑って、
「この方は、生徒会副書記。生徒会長の右腕にして、“鉄壁の完璧令嬢”と称されておりますのよ」
「なんでそんな人が、うちのカオス部活に依頼なんて……」
「雪さん、今回は正式依頼ですわ。つまり、我々はもう、学園の信頼を勝ち取ったということ……!」
「信頼どころか、前回生徒会から“監視対象”って言われてた記憶があるんだけど!?」
「ごきげんよう、探偵部の皆様」
風香は席から立ち上がり、深く一礼する。
「実は——私の、ラブレターが盗まれてしまいましたの」
「……」
「…………」
「はい!?!?」
一瞬、部室全体が静まり返ったあと、
私が勢いよく叫んだ。
「ラブレター!? って、生徒会の人が!? 恋!? 乙女!? しかも盗難事件!?」
「わたくしが個人的に認める、極秘任務として受理いたしますわ!!」
真白が即座に立ち上がり、謎の敬礼ポーズを決めた。
「そんなポーズないから!! どこの国の作法よそれ!!」
「……内容はこうですわ」
風香が机の上に封筒を一枚取り出す。
「これは、同じクラスのとある方に渡そうとして、まだ渡せていなかった手紙です。ですが昨日、席を離れていた数分の間に、机から忽然と姿を消しましたの」
「それ、ラブレターってバレないように封筒とか普通のにしたんですか?」
「ええ。“To My Dear Prince♡”って金の刺繍で書かれた封筒を使いましたわ」
「バレッバレだよ!?!?!?」
私は一瞬で理解した。
この人、完璧すぎてちょっとズレてるタイプだ。
「どうか、この手紙を見つけていただけませんか?
そして……できれば……誰にも読まれる前に……」
風香の頬がほんのり赤く染まる。
その表情は、いつもの優等生然としたそれとは違い、
**ひとりの普通の女の子の“恋の顔”**だった。
「これは……見逃せませんわね」
真白が真剣な声で言った。
「恋文を追うということは、愛の痕跡を追うこと。探偵にとっても名誉な任務ですわ」
「“愛の痕跡”って言い方がちょっと怖いんだけど!!」
「では、早速我々、“じょしこう☆たんていくらぶ”が調査を開始いたしますの!」
「なんでタイトル口に出したの!? 作品タイトル言った今!?!?」
私は軽く頭を抱えながら、それでも少しだけ頬が緩んでいた。
……まあ、ちょっとだけ、興味ある。
誰が盗んだのか。
なぜラブレターが狙われたのか。
そして何より——このお嬢様の“恋の行方”が、ちょっと気になる。
「よしっ、まずは現場検証だ!!」
「声が大きいよ茜……図書室じゃないけど、ここ一応お嬢様学校なんだから……!」
風香のクラスに突入した探偵部。
当然、授業中ではないが、放課後の静かな教室に突然“捜査ごっこ集団”がなだれ込んだものだから、他の生徒たちは明らかにドン引きしている。
「このあたりですわ。机の中に入れていたのですが……」
風香は慎重に、自分の席を指差した。
真白がすかさず、机の下を覗きこみ、ゴーグルを装着した。
「……うーん、これは完全な痕跡消去型の犯行ですわね……!」
「まずその装備の時点で犯人にされる側だよね!? ゴーグル持参の探偵初めて見たよ!?」
しおりは窓辺で目を閉じて、じっと風を感じている。
「……ラブのにおいがする……バニラと薔薇……」
「風香さんの香水の話じゃないそれ!? 恋のにおい嗅ぐのやめてあげて!!」
一方で茜は、教室のゴミ箱をゴソゴソ漁っていた。
「おーい、雪ちゃん! なんか破れた紙発見! 『To My Dear Pa……』って書いてる!」
「それ**“Prince”じゃなくて“Pancake”**のレシートだよそれ!!!」
「がーん!!」
「……ん?」
私は、風香の机の奥、机の裏側に何かが貼り付けられているのを見つけた。
「これ……」
剥がしてみると、それは折りたたまれた封筒だった。
金の刺繍で「To My Dear Prince♡」と書かれている。
——これだ。これが件のラブレター。
「……あった」
「ええっ!? 本当に!? どこに!?」
「机の裏に貼られてた。……盗まれたんじゃなくて、落としたのを誰かが拾って隠したのかも」
「犯人像が一気に“優しいドジっ子”になった……!!」
「なんということでしょう……想定していた10パターンのうち、“机の裏オチ”は12番目でしたわ……」
「多すぎるし、微妙に順位外だし!」
ふと、しおりがぽつりと言った。
「……でも、見て」
彼女が指差したのは、壁新聞掲示板。
「《生徒の詩コーナー》って……これ……」
「……あっ!!?」
私は目を見開いた。
そこに貼られていたのは、ラブレターの全文だった。
しかも、手書きのコピーと一緒に、
「詩的な感性に溢れた作品、匿名での投稿ありがとうございます♡」というコメントまで添えられている。
「やばい!!! すでに全校公開されてる!!!」
「な、なんてこったぁああああああ!!!」
「犯人は……風香さんの想いを“詩”と勘違いした誰か……!?」
まさかの展開に、風香が固まっている。
顔は真っ赤。目はぐるぐる。
口をぱくぱくさせながら、状況を理解しようとしている。
「……ど、どうしましょう……みんな、見てしまった……」
「いや、逆に言えば、もう読まれたってことは……」
私はそっと笑いながら言った。
「今から“本当に渡す”の、楽になるんじゃない?」
風香は一瞬ぽかんとして、
それから、ほんの少しだけ——微笑んだ。
「……なるほど。さすが、探偵さんですわね」
「私はまだそのつもりないけどね!? “見習い(仮)”だからね!?」
部室に戻った私たちは、今日の成果をテーブルに並べていた。
・封筒(本物)
・壁新聞のコピー
・しおりが勝手に分析した“恋文に含まれる成分表”(謎)
「これにて、探偵部の初・公式依頼、無事に解決ですわね!」
真白が高らかに言った。
「“無事”の定義がすごくゆるいけど、まあ解決はした……のかな……」
「雪ちゃん、いい仕事したよ!! あと、しおりの風読みもナイス!」
「……風は、真実を運ぶから」
「風じゃなくて証拠がほしかったな……!」
そして、風香から渡された封筒には、こう書かれていた。
探偵部の皆様へ
このたびは、本当にありがとうございました。
私、勇気を出して、ちゃんと気持ちを伝えてみます。
貴女たちに出会えて、本当に良かったですわ。
PS:この件、生徒会には内緒ですのよ♡
「やった! これで探偵部にもついに信頼と実績が……!」
「“生徒会に内緒”って書いてある時点で、信頼とは真逆では!?」
でも、なんだかんだで。
ちょっといいことをしたような、そんな気がする。
——探偵部、初めての依頼は無事(?)解決!
次なる事件は……メロンパンじゃないといいな。
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