第19話 探偵部、最後の事件!? 消えた部室の謎を追え!
プロローグ
その朝、探偵部の4人は揃って部室前の廊下で固まっていた。
なぜなら——ドアを開けた先に、部室は存在しなかったからだ。
「……え?」
雪の声は、やけに間の抜けた響きを帯びていた。
広がっているのは空っぽの教室。
机も椅子も、本棚も、紅茶セットも、壁に飾っていた依頼解決の写真も、ぜんぶ消えている。
唯一残されていたのは、黒いマジックで書かれた一枚の紙。
「この部室は押収した」
その下には、見覚えのないシンボルマーク。
「えええ!? 誰ですの!? 部室泥棒なんて初めて聞きますの!!」
真白が半分泣き声で叫ぶ。
「いや……泥棒っていうより、公式に押収って書いてある」
茜が紙を拾い上げ、眉をひそめる。
しおりは壁の跡を指さした。
「棚のホコリの付き方からして、持ち出されたのは昨晩のうちでしょう。
かなり計画的な行動です」
雪は深く息を吐き、言った。
「よし、最後の事件だよ。探偵部の名にかけて、この“部室消失事件”を解決しよう!」
4人は職員室に向かい、事情を聞いたが——
「そんな押収命令は出していない」という返答。
どうやら公式な学院の判断ではないらしい。
「じゃあ、犯人はこの学院の中で部室を動かせる権限を持ってる人……」
茜が指折り数える。
「生徒会、風紀委員、それから用務員さん……」
「そして、過去に私たちに恨みを持つ依頼人」
しおりが冷静に付け加える。
こうして候補は3つに絞られた。
1.生徒会長・白城麗華
2.風紀委員長・花村杏子
3.元依頼人の中で怪しい人物
「……なんか、最終回らしいラインナップですの!」
真白が拳を握る。
4人はまず生徒会室へ向かうことにした——。
生徒会室の扉を開けると、中央の机で書類を整理している白城麗華生徒会長が顔を上げた。
冷ややかな視線と完璧な姿勢——まさにお嬢様の威圧感。
「……探偵部の皆さん、突然どうしたのかしら?」
雪は単刀直入に切り出した。
「うちの部室が消えました。“押収した”っていう紙だけ残ってたんですけど、生徒会の仕業じゃないですか?」
麗華は眉一つ動かさず、涼しい声で答える。
「生徒会としては、そんな命令を出していませんわ。ただ……」
彼女は一枚の紙を取り出した。
「“特別校則・臨時第47号”。昨日、匿名で生徒会ポストに投函されていたものです」
真白が覗き込む。
そこにはこう書かれていた。
“怪しい活動をしている部は臨時的に部室を没収する”
“判断は署名のある関係者の過半数で決定する”
茜が目を細める。
「これ……過半数って、誰がどうやって集めたんだ?」
麗華は腕を組んで言った。
「おそらく、あなたたちが過去に関わった生徒たちが票を入れたのでしょう。
あなたたち、事件の解決のためとはいえ、随分と派手に動いていましたからね」
しおりが静かに呟く。
「つまり、犯人は私たちの“過去の依頼人”の中に……」
雪は机を軽く叩き、全員を見た。
「じゃあ決まりだ。全員で聞き込み開始。今までの依頼人を片っ端から当たる!」
麗華は少しだけ口元を緩めた。
「面白いですわね。最終回らしく、派手にやってらっしゃいな」
探偵部4人は、まず図書室へ向かった。
そこには、第13話「図書室に棲む怪物」事件で知り合った司書助手の桐原さんがいる。
「部室が押収された? あら、それはお気の毒。……でも私じゃないわよ。
ほら、あの事件のあと、あなたたちには感謝してるし」
雪たちはお礼を言って図書室を後にし、次に向かったのは中庭。
そこでは、一緒にピクニック事件を解決した園芸部の古谷先輩が花に水をやっていた。
「探偵部、また事件? あたしじゃないよ〜。でも……昨日、廊下で風紀委員が何か大きな荷物を運んでたのは見たかも」
「大きな荷物……部室の家具かもしれませんわ!」
真白が即座にメモを取る。
さらに、音楽棟では関わった美羽が練習室から顔を出した。
「部室のこと、私も噂で聞きました。……でも、犯人があなたたちの過去の依頼人だとしたら、ちょっと寂しいですね」
一人ひとりの顔を見て回るたびに、かつての事件の記憶が蘇る。
雪は少しだけ胸の奥が温かくなるのを感じていた——まるで“最終回あるある”の総集編みたいだ。
だが、聞き込みの最後に訪れた生徒が意味深なことを言った。
「そういえば……生徒会の裏倉庫、昨日の夜は鍵が開いてましたよ」
「生徒会の……裏倉庫?」
茜が首を傾げる。
しおりは静かに眼鏡を押し上げた。
「部室が消えた理由、そこにあります。今夜、潜入しましょう」
雪はうなずいた。
「——探偵部、最後の夜間潜入だ!」
夜の学院は、昼間の華やかさとは違う静けさに包まれていた。
人気のない廊下を、探偵部の4人は足音を忍ばせながら進む。
「……ドキドキしますの。なんだかスパイ映画みたいですの」
真白が小声で言う。
「スパイごっこじゃなくて本番だからね」
茜が軽くツッコむ。
生徒会室の裏手にある倉庫にたどり着くと、確かに鍵はかかっていなかった。
雪がゆっくり扉を開けると——そこには、見慣れた家具や本棚、紅茶セット、そして壁飾りまで、探偵部の部室まるごとが詰め込まれていた。
「……やっぱりここにあった」
しおりが低く呟く。
しかし、奥から聞こえた足音に全員が振り向く。
現れたのは——風紀委員長・花村杏子だった。
「あなたたち……やっぱり来たのね」
雪は一歩前に出る。
「部室を押収したのは、あなたなんですか?」
杏子はため息をつき、壁にもたれた。
「ええ、そうよ。でも誤解しないで。これは罰じゃなくて……あなたたちを守るためだったの」
4人は顔を見合わせる。
杏子は続けた。
「最近、匿名で“探偵部を解散させろ”という投書が相次いでいたの。
生徒会にも職員室にも届いてた。だから、まず部室を一時的に避難させて、あなたたちを落ち着かせようと思ったの」
「……つまり、犯人は外部の誰か?」
しおりが尋ねると、杏子はうなずいた。
「そう。外部といっても、学院関係者の可能性が高いわ。だけど、名前はまだ掴めてない」
雪は小さく笑った。
「だったら、最終回らしく、最後までやりきるよ。黒幕を突き止めて、部室を正式に取り戻す!」
杏子はわずかに微笑んだ。
「……やっぱり、あなたたちって面白い部ね」
翌日、探偵部の4人は杏子の協力のもと、匿名投書の差出人を突き止めるため、職員室のポストと生徒会ポストの監視を行った。
午後になり、ついに投書を入れようとする人物の姿が——。
「……あれは、以前依頼してきた手紙騒動のときの、文芸部長さんですの!」
真白が小声で叫ぶ。
文芸部長・神崎は驚いた顔をしたが、すぐに観念したように話し始めた。
「……ごめんなさい。あなたたちに恨みがあったわけじゃないの。ただ、文芸部の部室が老朽化して使えなくなって……新しい場所を確保したかった。でも生徒会に相談しても通らなくて、探偵部を解散させれば空くと思って……」
雪は苦笑しながらも首を振った。
「理由はわかりました。でも、やり方が間違ってたよね」
茜も腕を組む。
「次からは正面から交渉しなさい。こっちも協力できるかもしれないんだから」
しおりが紅茶色の瞳を柔らかく細める。
「これにて、“部室消失事件”は解決ですね」
その日の放課後、部室は元通りに戻された。
家具や紅茶セットも全員で協力して運び入れ、壁には新たに「探偵部は不滅なり!」の手書きポスターが貼られた。
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エピローグ
夕陽が差し込む部室で、4人はいつものように紅茶を囲んでいた。
真白が感慨深げに言う。
「最終回って、なんだか終わっちゃう感じがして寂しいですの」
「でも、終わりじゃないよ」
雪が微笑む。
「これからもきっと、新しい事件がやってくる。そのたびに——」
「みんなで、わちゃわちゃ解決ですの!」
真白が勢いよく言い、全員が笑い声を上げた。
——こうして、『じょしこう☆たんていくらぶ!』の最後の事件は幕を閉じた。
けれど、この学院のどこかで、また新たな謎が芽吹こうとしている。
その時、彼女たちはきっと——紅茶を片手に立ち上がるだろう。
(完)




