第15話 図書室に棲む怪物!? 探偵部、幻の“禁書”を探せ!
――その噂は、まことしやかに聖ルミナス女学院に広まりつつあった。
「放課後の図書室には、“本を食べる怪物”が棲んでいるらしいですの」
「はい? 怪物って何よ……」
「風がささやいてる……“その怪物、活字中毒”……」
「風、今日も健在だな……」
探偵部の部室にて、今日も女子4人はわちゃわちゃ元気に活動中。
話題の発端は、真白が聞いてきた“図書室の七不思議”の一つだった。
「怪物って、たぶん比喩だよね? 図書室で誰かがコッソリ本を破ってるとか、そういう――」
「でもね、実際に**本が1冊ずつ“消えてる”**らしいですの」
「えっ、それってつまり、盗難じゃ――」
としおりが口を開く。
「学園の先生は『棚卸しミス』って言ってるけど、図書委員の先輩が“おかしい”って気づいたみたいですの」
「風が言ってる……“これは本格的な謎の匂い”……」
「その風、毎回ノリノリだな!?」
そして今日、探偵部に正式な依頼が届いた。
差出人は、図書委員長の東雲レイナ。
高等部の2年生で、冷静沈着な文学少女らしい。
「これは、由々しき事態ですわ! 私の愛する書物が、こっそりと奪われているなんて……!」
「……めっちゃ本気の人きた……」
「風がささやいてる……“この依頼、重いぞ”……」
依頼の内容はこうだ。
•数週間前から、毎週1冊ずつ本が図書室から“消えている”
•防犯カメラにはそれらしい映像が残っていない
•消える本には“ある共通点”があるかもしれない
「今週もそろそろ1冊、消えるはずですの」
「風が言ってる……“それ、予告状みたいだな”……」
「それじゃあ――」
雪は小さく笑った。
「放課後、調査開始だね」
⸻
放課後の図書室は静まり返っていた。
天井まで届く本棚の間を、夕陽がほんのりと照らす。
「怪物が出るなら、この雰囲気、ぴったりですの……」
「ちょっとホラー入ってきてない?」
「ホラーだろうがロマンスだろうが! 本を盗むなんて許せませんわ!!」
「うお、委員長の声でかっ……」
東雲レイナ先輩の案内で、探偵部の4人は“事件の起きた棚”へと案内される。
「ここのA-7棚。中世ヨーロッパの歴史・宗教・魔術関連の本が並んでいますの」
「なんかジャンル濃いな……」
「風がささやいてる……“ここから知識の香りがする”……」
「風、とうとう読書も始めた!?」
しおりが棚を確認しながら言う。
「……本当だ。書籍コードA-7-113、114、115が連続で消えてる。日付も毎週木曜の夜……」
「じゃあ今夜も……来るってこと?」
「犯人が? それとも“怪物”が?」
「どっちにしても、張り込みの時間ですの!!」
「うわー、また残業かぁ……」
その夜、少女たちは図書室の一角に小さなカメラと無人の監視装置を設置し、
自分たちは近くの理科準備室に潜伏することにした。
「……まさか、探偵部がガチ張り込みする日が来るとは」
「風がささやいてる……“職務、果たす時”……」
「だんだん風に鼓舞されてきたの悔しい……」
しおりはリモート端末でカメラの映像をチェックしながらつぶやく。
「今のところ……動きなし。図書室、静か……」
時計は夜の8時を回った。
そして――
画面の中、図書室の入り口に何かが映った。
「……誰か来た」
「制服……高等部? 誰ですの?」
少女のように見える影が、まっすぐ“あの棚”へ向かっていく。
「まさか、怪物の正体って――あの子!?」
画面に映る影は、まっすぐに棚へと近づいていく。
その背は高く、髪は長く、制服は高等部のもの。
ただ、決して“こっそり”とはしていなかった。
堂々と歩き、棚の前で立ち止まり、本を1冊、静かに手に取る。
「え、盗る……?」
いや、違った。
その人物は、本を取り出すと――
懐から何かを取り出し、代わりに棚に別の本を差し込んだのだ。
「え……入れ替えた、ですの?」
「ちょっと、これって“本すり替え事件”じゃない?」
「風がささやいてる……“ただの盗人じゃないぞ”……!」
そのまま、高等部の人物は棚を離れ、姿を消した。
監視カメラには顔までは映らず、残されたのはただの“入れ替え”の事実。
「追いますの!!」
「夜の校舎に飛び出すとか、ホラー映画の死亡フラグ……!」
「風が言ってる……“それでも行け”……!」
四人は理科準備室を飛び出し、図書室へ急行した。
だが、廊下は静まり返り、既に“その人影”は消えていた。
「……でも、棚に戻された“本”はありますの!」
真白が手に取ったそれは、タイトルも著者名もない、無地の革表紙の本だった。
ページを開くと――そこには見たこともない古文調の文字が。
「“禁忌に触れし時、ページは閉ざされるべし”……?」
「なにこの胡散臭い呪文書!?」
「風がささやいてる……“やばいやつの気配”……」
しおりはその中の数ページを写真に収めながら言う。
「……これ、もしかして“古書”じゃない? 市販されてないし、蔵書記録にも載ってない」
すると、静かに声が響いた。
「――それは、元々“うちの学園”の本じゃありませんの」
驚いて振り返ると、そこにいたのは東雲レイナ先輩だった。
「さっきの影……先輩だったんですの?」
「はい。……本当は、言うつもりはありませんでしたの」
レイナ先輩は、革表紙の本を見つめながら言った。
「これは、先代の図書委員長が“個人的に持ち込んだ”本ですの。
内容はとても専門的で、難解。でも同時に……とても貴重な文献でしたの」
「じゃあ、それを勝手に棚に置いたってこと?」
「ええ。正式な蔵書ではないから、記録にも載っていない。
でも、ある日――図書室から勝手に“処分対象”になってしまったのですわ」
「……だから、毎週“元に戻しに”来てた?」
先輩はコクンとうなずく。
「毎週木曜は、図書委員が夜間当番をしていましたの。
その隙を縫って、“廃棄予定の文献”の中からこの本を救っていたのです」
「風がささやいてる……“それは怪物ではなく、守り人だ”……」
「名言出た!!」
雪がやわらかく言う。
「……だったら、最初から相談してくれたらよかったのに」
「……そう思いましたの。でも、どうしても私個人の“想い”で動いていたので……。
“怪物の仕業”とされていたのは……多分、私ですのね」
「図書室に棲む怪物、の正体は――
“本を守る人”だったんですの」
「そして、禁書の正体は――
“記録されていない、大切な知識”だったのよね」
少女たちは、そっと革表紙の本を見つめる。
⸻
後日、その“禁書”は、生徒会の許可のもと、図書室に“特別展示”として登録されることになった。
蔵書番号は与えられず、ただ“特別寄贈品”として扱われる。
「これで、誰でも読めるようになりますの」
「本ってさ、不思議だよね。言葉の形をして、気持ちが詰まってる」
「風がささやいてる……“本は記憶のタイムカプセル”……」
「風、ほんとにどこから出てくるの!?」
探偵部は、今日も図書室の一角でほっとひと息。
窓から差し込む光の中で、革表紙の本がやさしく光っていた。
そして、少女たちはまた、次の“謎”へと歩き出す。




