第13話 探偵部、学園に泊まる!? 夜の校舎で事件発生ですの!②
音楽室で聞こえた“カチャッ”という音は、たしかにそこにいた4人全員が聞いていた。
だが、部屋の中には誰もいない。物音の主は——不明。
「風が……風がざわついてる……これはただごとじゃない……」
「ま、まさかほんとに幽霊……!?」
「ちょ、ちょっと待って、冷静に考えましょうですの!」
しおりは手にした懐中電灯で音の方角を照らす。
向かった先は、音楽室の備品ロッカー。
「開いてる……!?」
雪がドアを押すと、ギィィ……と嫌な音を立ててロッカーが開いた。
中には指揮棒、楽譜、メトロノームなどの器具が並んでいたが、棚の鍵がぽっかりと空いている。
「あれ……? たしかこの棚、施錠されてるはずでは?」
「しかも、“合宿用に借りた仮眠室”の鍵も、もとはこのロッカーで管理されてるって……」
「つまり——仮眠室の鍵が、勝手に開けられて、今ない!?」
その瞬間、全員に戦慄が走った。
「ど、どどどどどうしますの!? これ、普通に事件じゃないですの!?」
「風が……風がめっちゃ騒いでる……“これは誰かの手によるもの”って……!」
雪は冷静に言った。
「とにかく、仮眠室に戻ってみよう。鍵が開いてるかもしれない」
⸻
4人が急いで仮眠室へ戻ると——ドアには、鍵が刺さったままになっていた。
「開いてる……!!」
「誰かが入ったってこと!?」
真白が部屋の中へ駆け込む。乱れた布団、わずかにずらされた荷物——
「私のパジャマ……ずれてますの!! いやですの! 誰かに見られたかもですの!!」
「それは、荷物が多すぎて勝手にずれたんじゃ……」
「いや、でもほんとに誰か入った形跡あるよね……」
雪はあたりを確認しつつ、再び鍵に目をやる。
「これ、鍵……無理にこじ開けたあとがある」
「つまり誰かが音楽室の鍵を持ち出して、ここを開けた?」
「だけど……目的がわからない。何も盗られてない。イタズラ……?」
「風が言ってる……“これはテストかもしれない”……」
「テストって、誰の?」
その時、しおりがぽつりと呟いた。
「もしかして……理事長代理の仕込みだったりして?」
「え?」
「合宿の許可があっさり出たこととか、いろいろ引っかかる点はあったの。
“夜の学園に慣れた探偵部に、ちょっとした試練を与えてみよう”って……あり得る話よ」
「……そ、そんな陰謀じみたことをあの人が……?」
「やると思いますの。あの人、校内演劇部に“影から全て見守る役”で出演してたことありますの」
「それただの趣味じゃん!」
「でも、もしそれが本当なら——」
雪が目を細めて呟いた。
「この事件の“真相”を解き明かせば、私たちの探偵力を証明できるってこと」
「燃えてきましたの!! 今夜、必ず真相を暴きますのよ!」
「風がささやいてる……“答えは、音楽室のもう一つの鍵”……」
「いや風、情報持ちすぎじゃない?」
こうして、探偵部の合宿は予想外の“推理戦”へと突入する。
鍵の謎、誰かの足跡、侵入の痕跡——
それは、ただのイタズラなのか? それとも、誰かの仕掛けた本物の事件なのか。
「まずは状況整理ですの!」
仮眠室のテーブルに資料と手帳を広げ、真白が探偵帽を被り直して言い放つ。
「起きたことはこうですの!
1、音楽室で“鍵”の音がした。
2、音楽室の備品ロッカーが開いていて、仮眠室の鍵が無断で持ち出されていた。
3、仮眠室に“誰かが入った痕跡”があり、鍵は刺さったまま!」
「うん、そこまでは事実で間違いなさそうだね」
雪が頷く。
「問題は、“誰が”それをやったのか。そして“なぜ”そんなことを?」
「風が言ってる……“これは演出された事件”……」
「えーと……つまり、犯人は“わざとらしい痕跡”を残した?」
「そう。仮眠室に入ったのが目的じゃなくて、“仮眠室に入った形跡を私たちに見せること”が目的だった可能性がある」
「つまり、私たちに気づかせるように、わざと証拠を置いた……?」
しおりが資料をめくりながら指差す。
「この文化祭の地図、見て。音楽室から仮眠室まで、最短ルートじゃない。普通に行くと、ちょっと遠回りになるの」
「でも、今朝——私が図書室でこっそり拾った書類の中に、“旧校舎地下の通路”っていう図があって……」
「まさか……その通路、まだ使えるの!?」
雪と真白が顔を見合わせる。
「風がささやいてる……“そこを使えば、短時間で移動できた”……」
夜10時過ぎ。4人は旧調理室の裏口から“地下通路”への扉を見つけ出した。
埃とクモの巣にまみれたその空間は、もはや使われていないはずだった。
——しかし、扉にはうっすらと“足跡”。
「誰か、最近通った形跡がありますの……!」
4人は懐中電灯を片手に通路を進む。まるで冒険のような時間だ。
途中、落ちていたのは——名札の切れ端。
「これは……“理事長代理補佐・春日”って書いてありますの!」
「え!? 理事長代理の、補佐……?」
「まさか……黒幕って、あの人じゃなくて“その補佐”のほうだった!?」
翌朝。食堂で理事長代理に直談判すると、背後からぬっと現れたのは——
春日メグミ。
理事長代理の補佐を名乗る、メガネの優しげな女性。
「ああ、ごめんなさいねぇ。ちょっとした“サプライズイベント”だったのよ」
「イベント……!?」
「はい。理事長代理が言ってたの。“探偵部の子たちにちょっとした謎解きのご褒美を用意しなさい”って」
「だからって、鍵を勝手に持ち出して仮眠室に入るのはダメじゃないですの!」
「もちろん! 本当に入ったりはしていませんよ。あの鍵、実は“偽物”だったの。中に誰も入っていないこと、昨日の時点で確認済みです」
「えっ……じゃあ、あの乱れた荷物は?」
「みなさんが騒いでいた間に、風で倒れたんじゃないかしら? 夏用毛布って滑りやすいですしねぇ」
「風、万能すぎない!?」
「というわけで、今回の事件は“部外者の犯行ではなく、探偵部のスキルテスト”だったということで……」
メグミは微笑むと、一枚の紙を差し出す。
『探偵部・合宿特別表彰:夜の校舎での対応と判断力、極めて優秀と認定する』
「……勝手にやって、勝手に褒めてる……」
「風が言ってる……“今回はまぁ許してやれ”……」
「風、急に上から目線!?」
朝焼けの差し込む校舎で、4人は並んで大きなあくびをした。
「なんだかんだで……楽しかったですの!」
「うん。夜の校舎って、ちょっと怖かったけどワクワクした」
「謎も解けたし、“探偵部っぽいこと”できた気がするね」
「風が言ってる……“青春って、こういうこと”……」
「風がしみじみしてる……!?」
合宿は終了。
でもこの夜が、探偵部の絆をちょっとだけ強くしてくれたことだけは、きっと本当だ。
翌朝。
聖ルミナス女学院の校舎は、静かで、清潔で、いつも通りだった。
だけど、探偵部の4人には——ほんの少しだけ、“昨日とは違う風景”が見えていた。
「うわぁ……眠い……でも帰る準備しなきゃ……」
雪が仮眠室で欠伸をしながら布団をたたんでいると、真白がどこからかハーブティーを持ってきてドヤ顔で差し出した。
「目覚めにぴったりですの! わたくし特製のローズ&ペパーミントブレンド!」
「えっ……ありがとう。……って、どこで淹れたの?」
「保健室のポットを……ちょこっとお借りしましたの♡」
「お嬢様がすることじゃない!」
一方、しおりは最後まで「“風が囁いてる記録”」と称して手帳に合宿中の出来事をびっしりと書き留めていた。
ページには謎の俳句や「風、全然囁いてなかった疑惑」などが走り書きされている。
「しおりさん、それあとで部誌にまとめてみようよ。ギャグ回として」
「風も喜んでる……“文芸として残すべき”って……」
「風、いつから編集者になったの……?」
そしてかれんはというと——
「……うぅ、まだちょっと怖いですの……あの夜の階段にいた“影”……夢に出てきそうで……」
「……それ、結局“マネキン”だったよね?」
「でも……“マネキン”って、動かないはずなのに……朝見たら、向き変わってたんですの……!」
「ぎゃあああああああ!!!」
4人は合宿最終日も、いつものようににぎやかだった。
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◆生徒会室前:意外な一言
帰りがけ、理事長代理に報告書を届けに行った際、通りがかった生徒会室。
そこで、冷たい視線を向けてきたのは——生徒会長・神城さやか。
「……あれが、噂の“探偵部”?」
「はい、合宿中に“勝手に校内で事件を起こした”探偵部ですの!」
「やめてそれ、言い方が完全に悪役!!」
さやかは数秒、無言で4人を見つめた後、ポツリと呟いた。
「——まぁ、退屈しのぎには、いいのかもね」
「えっ?」
「……何でもないわ」
そう言って、生徒会長は去っていった。
「な、なにあの人……ちょっとカッコいいけど、怖いですの……」
「風が囁いてる……“あの人、また出てくる”……」
「風、ネタバレしないで!!」




