第12話 探偵部、学園に泊まる!? 夜の校舎で事件発生ですの!①
聖ルミナス女学院——通称「ルミ女」。
お嬢様たちが集う名門女子校の一室で、今、ある部活動が前代未聞の提案をしていた。
「合宿ですの!! 我ら探偵部、強くなるために夜を共に過ごす合宿を行いますの!!」
真白が立ち上がり、プリント片手に高らかに宣言する。
「合宿って……この学校で?」
雪が半信半疑で尋ねると、真白はどや顔で頷いた。
「はい! 校内宿泊許可が……理事長代理の印で通ったのですの!!」
「え、理事長代理って……あの、うさんくさいメガネの?」
「風が言ってる……“その人、たぶんヒマだった”……」
「理由が雑すぎない!?」
ともかく、理事長代理の許可が出たことで、正式に“校内合宿”が認められた探偵部。
目的は「探偵力の強化と絆の再確認」——そして何より「楽しいから」。
「泊まりとなれば、怪談、肝試し、夜の探索、枕投げ、夜食……!」
「なんか目的がブレてない!?」
「風がささやいてる……“全ては計画通り”……」
こうして、少女たちはひと晩だけの“非日常”へと足を踏み入れるのであった。
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「まずは持ち物チェックですの!」
合宿当日の放課後、探偵部部室はすでにわちゃわちゃ大混乱。
部屋の片隅には寝袋や毛布、ライト、双眼鏡、スナック菓子、謎のステッキなどが積み上げられている。
「えっ、それなに持ってきたの!? その“ぬいぐるみ爆弾”みたいなの何!?」
「これは“動体検知型ぬいぐるみ(しゃべる)”ですの。誰かが近づくと『不審者ですの〜!』って鳴きますの!」
「うるさいし怖い!!」
「私は……これを」
しおりがスッと取り出したのは、分厚いミステリー小説と、風の音が録音されたCD。
「夜の校舎に、風は不可欠……」
「風にこだわりすぎだよしおりさん……!」
「私はパジャマ! おニューのチェック柄!」
「私はネグリジェですのよ〜。これ、フリルがいっぱいで可愛いんですの!」
「お、お嬢様っぽい……」
そして雪は……
「私、ふつうのTシャツとジャージで来ちゃった……」
「……一周回って、それがいちばん正解感ある」
女子4人、合宿前の準備ですでに大盛り上がり
午後6時。夕焼けが校舎をオレンジ色に染める頃、探偵部の4人は荷物を仮眠室に置き、軽装で校内探索へと出発していた。
「ふふ、いよいよ“夜の学園探検ツアー”ですの!」
真白はテンション高く、フリル付きの探偵帽を被っている。誰が見てもコスプレだ。
「真白、それ普通に浮いてるから……」
雪が呆れ顔で突っ込むと、しおりが校内地図を広げて言った。
「この地図、去年の文化祭で使われてた“謎解きラリー”のルート付きだよ」
「ルート? それって……」
「つまり、“怪談の舞台になってる場所”が全部マークされてるってこと」
——図書室、音楽室、旧調理室、倉庫裏の非常階段。
「全部“夜に一人で行ったらヤバいランキング”の上位ですの……!」
「だからこそ行ってみたくなる!ってことでしょ?」
「うぅぅ、怖いですのぉ……!」
先頭は真白、地図係はしおり、観察役に雪、最後尾はビクビク震えるかれん。
まるで探検パーティのように、彼女たちは校舎の影の中を進んでいく。
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◆旧調理室:封鎖されたキッチン
最初に向かったのは、使用禁止になった“旧調理室”。
「ここ、昔ガス漏れ事故があって閉鎖されたって噂……」
「その時の“カレーの匂いだけがまだ残ってる”っていう怪談もありますの……!」
雪が扉に手をかけると——
「……開いてる?」
キーッと音を立てて、重い扉がゆっくり開いた。
内部には古びた調理台やサビついたオーブン。うっすらとホコリが舞っていた。
「匂い……は、特にないかな」
「けど、この雰囲気……ちょっとゾクッとするね」
「風が囁いてる……“この部屋、まだ誰かが使ってる”……」
「ねぇ!? それ普通に怖いってば!!」
だがしおりは、スッと調理台の隅にある“手書きのメモ”に気づいた。
『明日の分、仕込んだ。冷やしといて。——G』
「え……これ、最近の字だよ」
「誰か……この旧調理室、今も使ってるの!?」
「っていうか、明日の分て何!? 何仕込んだの!? 怖っ!」
緊張が走る中、物音に驚いた真白が足を滑らせて転び、
ゴミ袋に突っ込んで「ぎゃあああ! モンスターの口!!」と絶叫したのは内緒である。
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◆旧校舎の非常階段:夕暮れの亡霊
次に向かったのは、旧校舎の裏手にある“非常階段”。
数年前に老朽化で使用禁止になり、今ではほとんど誰も近づかない場所だ。
「ここが“夕暮れの亡霊”って怪談の現場ね」
雪がそう呟くと、かれんは震えながら雪の袖を引っ張る。
「ねぇ、どういうやつだっけ、その亡霊って……?」
「夕焼けの時間になると、階段の中段に“誰か立ってる”らしいの。制服姿で、でも顔が見えないんだって」
「ぎゃぁああああああ!! 絶対ダメですの!!」
「……っていうか、今まさに夕焼けじゃない?」
その瞬間——
風に吹かれて、階段の上の方に吊られたロープが揺れ、ガラガラと音を立てた。
「うわっ、いたっ!? なに今の影っ!」
「だ、誰か立って……る……?」
4人が固唾をのんで見上げると、そこにあったのは——
「……マネキンだ」
制服を着た古い展示用のマネキンが、階段の踊り場に置かれていた。
「文化祭の……演劇部の道具?」
「たぶん、保管の都合で一時的に置かれてたんでしょうね」
「はぁぁぁぁ……心臓止まるかと思ったですの……」
「風も静まってる……今のは単なる物理現象……」
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◆音楽室:静寂の鍵盤
最後に訪れたのは、昼間でもどこか静かな空気をまとう音楽室。
「ここは“夜中になるとピアノが勝手に鳴る”って噂のある場所ですの」
真白が少しビビりながらも扉を開けると、淡い夕日の残照がピアノに反射してきらりと光った。
「でもやっぱり、こういう部屋って、音がなくなるとちょっと怖いよね……」
静かに歩み寄ったしおりが、ポンとピアノの鍵盤に手を置く。
——ポロン。
その音と同時に、どこからか“別の音”が返ってきた。
「えっ……?」
「今、奥から……“カチャッ”て音、聞こえなかった……?」
一同、顔を見合わせた。
「……誰か、いる?」
——“それ”は、事件のはじまりだった




