プロローグ
この春から、私は聖ルミナス女学院の一年生になった。
名門中の名門、格式ある由緒正しきお嬢様学校。
親戚のおば様が「人生変わるわよ」とか言ってたし、実際ちょっとは期待してた。
上品な制服。薔薇が咲き乱れる中庭。
ティーサロンにグランドピアノ。
生徒たちの挨拶は「ごきげんよう」。
本物の令嬢たちが集う、正真正銘の“お嬢様学園”。
——だったはずなのに。
「あなた、今日から探偵部に入部しなさいませ♡」
その言葉で、私の高校生活はあらぬ方向へと転がりはじめた。
* * *
きっかけは、入学式の後。
中庭の桜が風に揺れて、まるで絵画のような空間だった。
その中で、一人の少女が私の前に現れた。
絹のような銀髪を揺らし、完璧な姿勢で立ち、優雅にスカートを翻す。
彼女はまるで舞踏会の貴族のような気品を纏っていた——が。
「貴女、なかなかに鋭い目をしていますわね。名探偵の素質、おありですわ!」
「いや、私はただの通行人なんですけど!? あと名探偵って今どき言う!?」
「ごきげんよう。鷺ノ宮真白、探偵部部長にして、聖ルミナスの名探偵(自称)でございますわ」
「自称かい!」
ツッコミが間に合わなかった。
というかツッコミが日常生活に必要になるとは思わなかった。
その後、なぜか「紅茶でもいかがですか?」と優雅に誘われ、
気がついたら部室のソファに座らされていた。
——その横では、机を素手で持ち上げて配置換えしてる女子と、
黒板に謎の模様(たぶん宇宙言語)を描いてる女子がいた。
……私の高校生活、もう詰んでない?
* * *
「……えっと、ちょっといいですか?」
「どうぞ、ご遠慮なく。部員として意見を述べるのは当然の権利ですわ」
「まだ入部してないんですけど!? 書類勝手に出さないで!?」
そうして私は、
なぜか“探偵部”なる怪しい集団に所属することになった。
目指していた静かで平和な高校生活は、
入学初日であっさり夢と消えた。
でも……なんでだろう。
この部室、少しだけ笑い声が心地よかったのを、私はまだ知らない。




