表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

誰が誰を殺したか

作者: 相間 暖人

誰が誰を殺したか?

短い作品ですが社会的な問題だとは思ってます。

佐々木 圭吾(ささき けいご)は人を殺してしまった。


圭吾は一人、電気の点いていないオフィスで天上を眺める。

あー、ついにやってしまったな。


1か月前、圭吾には好きな女性ができた。

同じオフィスで働く24歳の朝河 絵梨(あさかわ えり)だ。

圭吾の方が先輩なので絵梨はわからない事があると、圭吾に聞いてくる。

意識する前は、「何をやっているんだ。」「こんな事もわからないのか。」などと厳しい事を言ってしまっていた。

それを後悔しながらも今は極力優しい口調で話す事を心掛けている。

ある日、絵梨と絵梨の同僚の牧村 聖歌(まきむら せいか)が取引先へ送る資料を間違えたというミスをした。

圭吾は二人を呼び出してお説教するのだが、意識しだしたらどうにも強く言えない。

「朝河さん、牧村さん、どうしてこんなミスが起こったと思う?」

二人はうな垂れながらも、

「申し訳ありません。」

と言う。

「まぁ、しっかり反省して次は二人でチェックしてから送るように。」

圭吾がそう言うと、絵梨と聖歌は二人で目を合わせて再び圭吾を見た。

「どうした?話は終わりだ。」

圭吾がそう言うと、二人は「終わり?」と言いたそうな目をしてから「失礼しました。」と言って自分のデスクに戻る。

圭吾は嫌われたくない気持ちで強く言う事が出来なくなっていった。

それに、絵梨と聖歌も毎回ミスしてくる訳ではない。

普段は二人とも率先的に仕事に取り組んでくれており、真面目で良い子なのだ。

あと、絵梨は顔が可愛い、笑った顔も圭吾を惹きつける魅力があり、雑談の時にその顔を見れるだけで圭吾の心は跳ねた。


しかし、絵梨の事を意識しだしてから観察をしているとある事に気付いた。

今まで気づかなかったけど、課長、絵梨に近すぎないか?

課長の名前は花木 裕也(はなき ゆうや)、妻子もいる61歳だ。

花木は圭吾にも仕事を教えてくれた先輩であり、仲は良かった。

けれども、絵梨の肩に手を置いて教えていたり、必ず毎日何かしら話しかけている様子を見て違和感を感じる。

課長が何かセクハラめいた事を絵梨にしているんじゃないだろうか。

そう思ったら、放っておく事ができなかった。

人が少ない時に絵梨を呼び出してこっそり聞いてみるかと考えた圭吾だが、3日たっても良いタイミングが見つからなかった。

仕方なしに聖歌と二人きりになったタイミングがあったので聖歌を自分のデスクに呼び出す圭吾。

「最近、課長がよく朝河さんと話してるようだけど大丈夫?」

「ぇ、大丈夫と言いますと…。」

聖歌は圭吾が何を言いたいかを考えているようだ。

「んー、まぁセクハラとか?」

圭吾は直接的に聞いてみると、

「あれぇ、佐々木さん、絵梨の事が気になるんですか?」

とニヤつきながら聖歌に聞かれた。

「いや、別にそんな…。」

と戸惑うと、聖歌は続ける。

「でも、最近、絵梨が佐々木さんからの視線を感じるって言ってますよ。」

聖歌の言葉にバレているのかと同様しながらも圭吾は本題に戻す。

「そうじゃなくて、課長はどうなんだ?」

そう聞くと聖歌は花木のしている事をぺらぺらと話してくれた。

絵梨だけじゃなくて聖歌も身体に触れられている事、二人だけじゃなく他の部署にいる時もお触りが多くて女性社員の中で噂になっている事。

その中でも特にお気に入りなのが絵梨のようで、だからこそ圭吾も気づく事ができたのだ。

「それは、人事に伝わっているのか?」

圭吾が聞くと、

「んー、どうなんですかねぇ。報告したってのは聞いてないですね。花木課長、お触りはあるけど基本良い人ですし。」

セクハラしといて良い人ってどうゆう事だよと思う圭吾。

まぁ、それでも情報は手にいれた。

圭吾は聖歌を自分のデスクに戻させると考える。

まぁ、実際、花木課長は自分の面倒を優しく見てくれていたし根は良い人なのだろう。

しかし、社内での過度なボディタッチを見過ごす訳にはいかない。

悩みながらしばらく様子を見たが、変わらず絵梨に触れる花木を見ていると、どんどん嫌悪感が増していく。

圭吾自身お世話になった先輩だったが絵梨に触れるのは許せなかった。

もうセクハラで訴えていいだろう。

社内で行われる花木の自由な行動に苛立った圭吾は、ある日とうとう人事課に報告をした。


直ぐに人事課は対応をしてくれたようで3日後には花木の姿は会社から消えていた。

聞く所によると聖歌に聞いた日以来、絵梨からも人事にセクハラの報告があったらしく目をつけていたらしい。

その日の仕事終わり。

圭吾は一人、電気の点いていないオフィスで天上を眺める。

あー、ついにやってしまったな。


花木を社会的に殺してしまった。

セクハラで退職となればこの会社内でも噂になるし、妻子ある家庭だ、そちらの崩壊もありうるだろう。

しかし、圭吾に罪悪感はなかった。

ただ絵梨の騎士様にはなれたかもしれないと勝手な自己満足に浸る。

悪者は対峙したし、これに絵梨にアプローチができると思った圭吾は、暗い部屋で自分のスマホを持ち上げて画面に反射する自分の顔を見た。

そこには深く皺が刻まれ髪の毛も薄くなり始めた59歳の佐々木 圭吾が映っていた。

圭吾は思う。

ああ、俺がアプローチした所で俺までセクハラで訴えられるだけか。

そう思うと圭吾は絵梨への恋心を殺すしかなかった。

実際の殺人は起こっていません。

何をもって殺人というのか、色々とあると思うんです。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ