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明治日本と金ぴかアメリカ!? 現代日本のkawaiiお願いします  作者: Rj
キーキーうるさい車輪は無視できない
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恋の威力はすさまじい

 1886年 2月


 恋は落ちるもの。


 エレン・マルタンは次兄、アーネストのためにバレンタインデーのカード選びにつきあっていた。


 兄は労働問題に関わっていてその活動に参加するきっかけをつくった元教え子の姉に恋をした。


 人権などない時代なので労働者は悪条件で低賃金、長時間働かされるのが普通で、そのことに不満を持つ労働者がストライキを起こすようになっていた。


 元教え子が労働者のために新たな法をつくろうと奔走し兄に意見を求めたことから活動にかかわるようになった。


 兄が元教え子の家で仲間と集まった時に彼の姉と出会い話すようになったという。彼女は夫を病で亡くし実家に戻っていた。


「なんか年々派手になってるよね」


 エレンはリボンやレースでデコレーションされたカードを見て小さくつぶやいた。


 バレンタインデーにカードを送るのは比較的新しい習慣でカードの種類がふえ、デコレーションされるようになってときらびやかさが増している。


 兄は彼女に自作の詩を書いたカードを送ろうとしていた。詩の出来がどうかをエレンにたずねたので読むと、彼女の緑色の瞳をほめるのにカエルのように美しいと書いていた。


 微妙。演劇好きの兄なので印象に残るようにとひねりすぎた気がする。カエルはかわいいキャラクターとして広く使われているので親しみを込めたつもりかもしれないが。


 もしかしたら彼女がカエル好きなのかもと思い確認したがそうではなかった。


 それよりもエレンがおどろいたのは「結婚しようと思ってる」と兄が言ったので恋人同士なのかと思っていたが、兄は告白もしていなかった。


 恋する男の暴走はおそろしい。エレンは兄の気持ちの盛り上がりをなだめ、相手の女性に気持ち悪く思われないようにしようと決めた。


「これどうかなあ?」


 兄が選んだカードを見るとキューピッドや花束、小さなハート、リボンがちりばめられたかわいいもので悪くない。


 カードに書かれた詩は見覚えがあるので有名な詩の引用だろう。


「いいと思うよ。好意が美しく伝わる」


 それにカエルが登場しないしと言いそうになりエレンはあわてて口を閉じた。


 カードのキューピッドを見ていると「かわいくない!」と現代アメリカ黒人女性Tの意識が反応すると同時にキューピーが頭に浮かんだ。


 Tの祖母は二十世紀はじめにアメリカ人女性イラストレーター、ローズ・オニールが生み出したキャラクター、キューピーのファンでイラストや人形、キューピーが使われた商品を集めていた。


 Tは祖母の家でキューピーコレクションを見るのが大好きだった。


「私のkawaii好きはキューピーから始まってるかも」キューピーのかわいさは現代日本のkawaiiに通じるものがある。


 日本のkawaii好きになりキューピーが日本のマヨネーズのキャラクターとして使われていると知った時はおどろいた。


 もしかしたらキューピーが日本のkawaiiに影響したのかもしれない。本当かどうかは分からないが日本のkawaiiが意外なところでアメリカとつながっていたらうれしい。


 カードとチョコレートを買った後エレン達は行きつけのレストランに落ち着いた。


「兄さんが好きな人に会ってみたいなあ」エレンの言葉に兄がはじらんだ。


 兄の反応が新鮮でからかいたくなる。でも兄のかわいい反応が見られなくなるのは嫌なのでエレンは黙った。


「じゃあエレンも労働問題の活動に参加するかと言いたいところだが男しかいないからすすめない」


 女性は家を守り家族の世話をする。女性が働かなければ生活できない場合のみ女性が家庭外で働く時代だ。


 エレンのような中流階級の未婚女性が教師として働くことは受け入れられているが、結婚したら家庭にはいるのが暗黙の了解だった。


 縫製工場などで働いている女性は全体的にみると多くない。この時代のストライキは暴力行動がともなう。労働者側も鎮圧する側も武装し暴力で対抗するので女性で労働問題に関わる人の数は少なかった。


「男性しかいないなら兄さん以外にも彼女に気持ちを寄せてる人がいそうだから兄さんがんばらないと」


 兄が気弱な笑みをみせた。


「彼女は高嶺の花なんだ」


 元教え子の実家はエレンが考えているよりも裕福で権力もある家なのかもしれない。


「高嶺の花ね――。ねらってる人は多そう」


 兄が手で顔をおおった。どうやら恋のかけひきはすでに起こっているようだ。


「俺って女性から興味を持ってもらえそうか?」


 不安そうに上目づかいで質問をする兄をエレンは初めてみた。思わず兄を観察するようにじろじろ見てしまい、兄が気まずそうに視線をそらした。


「もしかして兄さんがパリに行って建築の勉強をすると言いだしたのは彼女が建築家が好きといったとか?」


 ふいにわき上がった考えを口にすると兄の顔が真っ赤になった。


 恋の威力はすさまじい。


 これまで兄は恋愛に興味がなさそうで結婚に対し


「結婚という制度があるのは、そうでもしないと家族という形を維持できないからだよな。そうやって縛りつけないと人は好き勝手をする。なんか罰に近くないか?」という人だった。


 そのような兄が好きな女性から好かれようと行動し、結婚したいという日がくるなど青い月をみるほどありえなかった。


 兄の恋を叶えたい。


 でも兄から話を聞く限りでは望みがあるように思えない。へたに希望をもたせるようなことは言わない方がよい気がする。


 とはいえ好きは理性ではなく感情なので意外な組み合わせのカップルが生まれることもある。


 エレンが兄に何といえばよいだろうと考えていると兄が大きくため息をついた。


「だから恋なんてしたくないんだよなあ。自分でも冷静になると何やってるんだと思う。


 これまで恋でおかしくなる奴らのことを馬鹿じゃないかと思ってたし、学生の頃に恋心をからかわれてもういいやと思ってたんだが……。


 理性で考えれば彼女から相手にされる確率は低い。女性の扱いがうまくて家柄も育ちも良い男に勝てない。


 でも好きだ、この人だっていう感情をどうすることもできない。彼女と結婚したいと思ってしまう」


 Tの意識が「恋って本当に人を変えるよね」と激しく反応する。


 Tの弟は音楽に夢中で女の子からアプローチされてもかわしていた。


「彼女にあそこに行きたい、これをやりたい、友達と遊ぶより私にもっと時間を使えと友達が言われてるのをみてると、付き合うのって面倒くさすぎとしか思えない。


 自分の好きなように時間を使えないだけじゃなく、彼女に気をつかって、プレゼントしたりとか何が楽しいんだろうと思う」


 恋愛に非常に冷めたことを言っていた弟だったが好きな女の子ができ付き合うようになると豹変した。


 彼女の送り迎えをし、ことあるごとに花を送り、バレンタインデーもしっかり計画してと「本当に私の弟なの?」と言いたくなるほどの変わりようだった。


 恋は人を変える。


 兄の恋がうまくいってほしい。でも……エレンもため息をつきそうになった。

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