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089 「師団編成」

 大隈大将は、要塞内の簡素な、というより必要最小限以外何もない司令官室で執務を取っていた。

 と言っても仕事の大半は総軍参謀長の北上中将と参謀達に任せているので、何か不測の事態があった際に備えて現状の復習をしているようなものだった。


(さて、戦争の序盤も序盤、この要塞戦の現状は戦力的にはタルタリアが我が方の約二倍。しかしこちらは色々と隠して戦争準備したので、タルタリアは三倍以上の戦力差だと考えている。一方でこちらは、敵の唯一の進撃路に斥候を置いてあるから、敵の陣容、物資の量が丸見え)


 思考を巡らせつつ机の上の資料や地図へと目を落とす。


(現状タルタリアは、演習として黒竜に派遣した3個師団基幹の第2軍が、いまだ戦時動員途上で要塞には殆ど配備されていないと見ている。そればかりか、不意打ちを受けたので他の部隊も本国で動員が始まったばかりとすら考えている。ここまではこちらの思惑通りだが、真実を知らなければそんなもんだろうな)


(戦時動員は兵士を充足させるという性格上、最初に編成された場所で行うべきで、遠隔地での動員は効率が悪い。そして補充兵でもない限り、平時状態の部隊を前線に派遣する可能性は低いからな。この点、連中の考えは正しい)


(だが連中は、我が方の増援が慌てて移動した第2軍の一部だと勘違いしている。こっちが情報遮断と間諜スパイ狩りを念入りにしたせいだが、我が国が総力を挙げて動員と要塞への移動を偽装、欺瞞した第4軍の移動を察知していない。連中が「知っている」要塞の敵戦力は戦前から配備されている2個師団を基幹とした要塞守備軍に、若干の増援を加えた程度と見ている)


 ここまで思考を進め、大隈の口元が少し上に上がる。

 仕込みは万全というわけだ。


(連中は攻撃側3倍の原則という軍事上の常識を満たしたと考え、この要塞に突っ込んでくる。対する我が方は、倍の師団が入念に建設された近代的な大要塞に篭っている。楽しい事になるぞ)


 なお、アキツとタルタリアの師団は、同じ師団という名称と部隊単位ながら若干違っている。


 「師団デビジョン」という兵力単位や概念が生まれたのは、人を脅かす小鬼ゴブリンといった亜人デミが西方世界から駆逐された、百数十年前に西方世界を揺るがしたガリア革命の少し前。その後「英雄戦争」の四半世紀ほどの間に、軍事概念は飛躍的に発展した。


 一世紀経った竜歴2900年頃の師団は、半世紀ほど前にゲルマンで登場したもので、騎兵の減少と砲兵の強化などの改良、改変を経ていた。

 一方でアキツでも、世界進出の影響による技術輸入や奪取で似たような軍事制度を取り入れた。

 ただし西方の編成とは少し違っている。


 アキツでは魔法が広く取り入れられ、特に偵察と情報伝達、それに負傷兵の対応が大きく違った。

 攻撃魔術を使ったり個体戦闘力が只人ヒューマンより高いが、そこはあまり問題ではなかった。

 大規模な部隊や組織を、一つの戦力単位として統一された意思で動かすのかの問題について、大きな違いはなかったからだ。

 だが一方で、魔術による遠距離間の迅速な意思疎通は大きな影響と違いを与えた。


 部隊が散開したり遮蔽に隠れた場合での戦闘は、古くからアキツでは一般的なものだった。声や楽器の音で命令を出す只人の軍隊では統率できなくなる状況だが、アキツの軍隊は魔法の使用によって常に統率が可能だった。


 西方でも、魔術が生き続けたアルビオンなど一部の国も同様で、只人だけの国、魔術を使わない国との違いとなった。

 極西の分裂戦争で国力、人口に劣る南の精霊スピリット連合コンフェデラートが勝てたのは、魔法による偵察と情報伝達の有無が大きな要因を占めていた。


 だが結局、竜歴2800年台半ばに軍事原則、つまり『敵が持つものは自分も持つ』という原則に従うように、同じような編成を各国は取るようになる。

 これは、最大で2000メートル近い戦闘距離に達した小銃が普及したこの半世紀ほどの間に顕著となった。



 戦略単位とされる「師団デヴィジョン」は、歩兵、騎兵、砲兵の異なる3兵種を基幹として様々な部隊を組み合わせて編成される。それぞれの欠点を補い、利点をさらに広げる為だ。

 また一つの戦略単位として行動できるように、数多くの支援部隊が所属する。


 竜歴2800年代終盤の各国の標準的な編成では、歩兵旅団2個、騎兵連隊1個、砲兵連隊(2個大隊編成)1個が基幹部隊となる。

 これに工兵(工兵、架橋)、衛生(衛生、野戦病院)、輸送(輜重、弾薬、糧食・炊事)など多数の支援部隊を加えて編成される。

 もちろん、師団全体を指揮する司令部がこの上位組織として存在する。


 所属する兵員数は、アキツ陸軍では2万名程度。

 部隊単位の大きさは、師団、旅団、連隊、大隊、中隊、小隊、分隊の順番で、主に3から4つの下の単位をまとめて上の単位となる。

 部隊の基本は歩兵大隊で、戦時の歩兵大隊は900から1000名程度の将兵が配属される。そして大隊もしくは大隊を幾つか束ねた連隊で、戦力の大凡が判断される。


 連隊は3個から4個の歩兵大隊を束ねて編成され、国が大きい大陸国で、4個大隊編成をとる場合が見られる。タルタリアがその典型だ。

 アキツは海洋国なのもあり3個大隊編成で、たいていの国は同様の編成を取る。

 ただし、後方警備を主な任務とする部隊や、師団という戦略単位を多く保有したい場合、国を問わず2個大隊で連隊を編成する場合もある。そうした師団を、警備師団や治安維持師団と呼ぶ場合もある。

 1個歩兵大隊はおおよそ1000名の将兵を擁するので、師団単位になると4000名もの兵員数の差が生じる。


 そしてこの時代は、歩兵と彼らが持つ小銃の数こそが戦力の目安とされていたので、単純な数字だとタルタリアの師団の方が強力という事になる。ただし部隊規模が大きいと、編成、維持にも手間がかかる。移動も手間だ。

 タルタリア陸軍でも、4個大隊編成は第一線級の精鋭部隊だけだった。広大な国土を有するので、国境防衛や治安維持の為に必要な師団数を確保するために、3個大隊、2個大隊編成の師団の方が多い。


 またタルタリアの場合、4個大隊編成の師団を狙撃ライフル兵師団と呼称し、3個大隊編成を単に師団と呼ぶ。

 この数十年の間に普及した施条銃ライフルへの更新の際に、師団数が多すぎるタルタリアでは精鋭師団を優先した時に便宜上分けて呼称していたのが、そのまま定着した影響だった。


 なお、指揮する者の階級は、巨大な大陸国家で師団数が非常に多いタルタリアと、基本的には海洋国家のアキツで違いがあった。

 西方世界一般では、師団は中将と呼ばれる階級の将軍が率いる場合が多い。

 大将、中将、少将が将軍の基本で、その上に元帥が置かれているが名誉称号や形だけの場合が多い。


 それ以外に、大規模な陸軍を有するタルタリアとゲルマンには、上級大将と呼ばれる階級が元帥と大将の間に設けられている。

 これに対して、准将という少将と大佐の間の階級を設けている国も多い。アキツも准将の位を設けていた。

 アキツの場合、多くの艦艇と多くの海外領土を統治する必要性から、海軍が部隊指揮、編成の際の必要にかられて先に准将を設け、陸軍は後追いだった。


 アキツでは、連隊長は大佐、旅団長は准将、師団長は少将、それ以上は中将が任命される。これは種族間の寿命の差があるのも影響し、少将以上の階級に昇進するには何か特殊な役職が付随する。もしくは名誉的な場合が多い。

 特殊な役職が増加するのは、軍が肥大化する大規模な戦乱の時期とされていが、変革以後のアキツでは全軍を動員する戦争は今回が初めてだった。

 そしてアキツ独自に近い制度なのだが、他にも国ごとの違いはあった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 砲撃地点を誤魔化せるのかな? 弾薬が途切れなければ無敵ですね。
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