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【ネトコン12入賞】アキツ年代記 〜幻想世界と近代戦争〜【書籍化】  作者: 扶桑かつみ
第二部「極東戦争編(1)」

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086 「秋津陸軍騎兵」

 ・竜歴二九〇四年六月初旬



 6月5日、特務旅団第1大隊、第2大隊は、新装備を携えて千々原から最前線に復帰した。

 平原から山岳要塞へ、山岳要塞から後方での装備更新からの再び平原という、3ヶ月に満たない間でこれだけ動くのは、軍隊としては慌ただしい。だが、それだけ柔軟性があり、動きやすい兵力単位という現れだった。

 頭数が少なく、『浮舟』があるおかげだ。その『浮舟』の一部には新しい黒い甲冑も搭載されていた。


 新たな配置場所は、第1大隊がタルタリア国境から大黒竜山岳要塞へと続く主街道の南側から、おおよそ南へ30キロメートルほどの地点。第2大隊は、同じく主街道の北側。

 しかし同じ平原でも、開戦前に陣取った場所よりかなり東寄りになる。前線に近い東側に、タルタリア軍がより多くいるからだ。


 主な任務は、既に現地に展開しているアキツ騎兵の支援。また、タルタリア軍が大挙して南北に進出してきた場合の牽制や遅滞防御戦闘の展開。可能ならば撃破。

 そして甲斐達より先に展開しているアキツ陸軍の騎兵の斥候情報、軍中央が掴んだタルタリア軍の国内での移動状況から、最低でも騎兵1個師団が新たに侵攻してきている情報を掴んでいた。

 だから現地に着くと、すぐにも現地に展開している友軍の騎兵部隊と接触。野営地を開く前に最新情報の入手と、今後の友軍同士の連携を図ることとした。



「特務旅団第1大隊、大隊長の『凡夫』特務大佐です。今回はよろしくお願いします」


「第11師団、第11騎兵連隊、連隊長の田中大佐です。こちらこそよろしくお願いします。開戦以来の活躍、聞き及んでおります」


 田中大佐は、騎兵らしいと言える快活さだ。

 そうした軍人とは無縁だった甲斐は内心感心すらしていた。


「恐縮です。ですが、任務を果たしたまでです」


「任務であっても大したものですよ。それに、最初に敵騎兵を叩いてくれたお陰で、我々は随分と楽をさせてもらっています」


「それは何よりです。では早速ですが、現状をお聞きしても構いませんか?」


「はい。中尉、説明を」


 甲斐達が接触したのは、この時点で活動していた名乗り通りの騎兵部隊。本来は師団の偵察、警戒を行い、状況によっては遊撃部隊としても活動する。だが師団の方が要塞に篭っているので、独自任務に就いていた。

 そして挨拶の帰り道、甲斐に付き添った大隊本部小隊は雑談しつつ帰路につく。


「ねえ鞍馬、なんか少なくなかった?」


「何が?」


 鞍馬は雑談かと思い小首を傾げる。


「お馬さんの数、いや騎兵の数が。タルタリアと比べると半分くらいじゃない?」


 その言葉で合点のいった鞍馬だが、朧の知識不足をたしなめるより常識を詰め込む機会だと感じた。


「アキツ陸軍の騎兵は西方各国の半分の3個中隊編成だからよ。中隊は1つで160騎。連隊本部を足して500騎ってところね」


「半分でも500いるのか。馬は人の何倍もあるし臭いも強いから、随分と多く感じはするんだけどなあ」


「見た目は壮観よね。迫力もあるし。それに馬に乗って走るのも気持ちがいいわ」


「鞍馬、馬が好きなの?」


「蛭子は自分の足の方が速いからって乗らない人が多いけど、趣があって私は好きよ」


 そう言って鞍馬は笑顔付きで返す。

 もっとも、朧は関心は薄そうだ。


「フーン。僕は別にいいかなあ」


「アキツでは半獣セリアンには人気がないけど、大陸の草原に住む半獣に遊牧民も多いし、長期任務に備えて周辺の遊牧民を金銭を払って雇い輸送任務に充てているわね」


「駅とかに沢山いたよね」


「ええ。それにタルタリアが半獣を虐げるから、アキツは人気あるわよ。この辺りに多い蒼狼族が代表ね。だいたい、騎兵の数の倍くらいは雇うと資料にあったから、この近くの安全な場所に荷物を積んだ輜重の馬の集団がいる筈よ」


「雇うんだ。軍の輜重兵は使わないの?」


 本当に知らないと朧の顔には書いてあり、朧の関心のムラの大きさを鞍馬は感じた。


「アキツ陸軍の輜重兵は馬車が基本でしょう。それに安全な場所での輜重や物資の運搬、荷下ろしは、本国を含めて周辺の住民を雇うのが基本よ。結果的にその方が安くつくから」


「なるほどねえ。でも、この辺の遊牧民ってタルタリア側にも住んでいるよね。間諜スパイとか大丈夫なの?」


「契約は守るそうよ。それにどちらの側って意識を持っている遊牧民はいないわよ。アキツもタルタリアも雇い主にはなっても、支配者とは思わないわね」


 その後も鞍馬の話を朧はなんとなく聞いたが、「そんなもんだろうなあ」と思えた。

 半獣なので只人ヒューマンに対して白兵戦能力で優位があったが、彼らは戦うことはしない。

 戦うとしても、本当の自衛の為だけ。そういう契約になっているし、可能な限りアキツの騎兵が彼らを守る事になっていた。装備の殆ども伝統的な刀槍や弓だけだ。

 ただし、似たような種族、部族がタルタリア領内にも住んでいて、彼らも一部が金で雇われタルタリア騎兵の後方支援をしている。


 この為、半ば同士討ちの可能性もあるが、今回の戦争に関係なく彼ら同士で戦う事もあるのであまり気にしていなかった。

 その一方で只人の遊牧民もいるが、種族の違いから対立する事もあるので、敵対した場合は戦闘に及ぶ可能性もあった。


 そうした者達を現地で雇うようにアキツは本国が島国な上に山国で、騎兵以前に馬の利用が発展する素地が貧弱だった。

 加えて、亜人デミ魔人デーモンは、魔力の恩恵により只人より身体能力に優れているので尚更発展を阻害した。


 一方世界では騎兵や遊牧民族が世界史を作るほど活躍してきたが、時代の進展とともに変化していく。鉄砲や大砲が登場し、騎兵の攻撃力、突撃を、火力で阻止、撃退できるようになってきたからだ。

 そして、極東戦争から100年ほど前に行われた西方全土を巻き込んだ「諸国民戦争」を事実上の最後として、騎兵の大規模運用は行われないようになる。

 突撃の際の損害が大きくなりすぎ、費用対効果に似合わなくなった。騎兵は維持するのに金がかかるからだ。


 もっとも、アキツで騎兵が貧弱なのは経費のせいではない。アキツが亜人の国で、さらには島国で山国なので、騎兵の運用に向いていなかったからだ。

 それでも相応に軍事にも使われ、主に移動と偵察、それに支配階級の権威を示す手段として用いられた。騎兵としても、弓を主武装とする弓騎兵が活躍している。

 だが、大陸のような大規模な騎兵の運用には至らなかった。


 それが、戦国時代が終わる頃に変化が訪れる。

 300年ほど前から世界各地に出向くようになり、大陸国家や遊牧民の騎馬運用を目にする。特に、大陸北方で出会ったタルタリアの放浪者の騎兵運用に対抗する必要性が出てきた。

 加えて海外進出した先は広大な場所が多く、魔力の恩恵で身体能力に優れていようとも、馬という地上での移動手段、運搬手段は必要不可欠となった。


 そうして軍でも、西方列強で一般的な騎兵の導入が進められるようになった。だが、魔法があり、只人相手だと歩兵同士の白兵戦を好み、大規模な地上戦を行う機会が少ないなどから、攻撃兵器としての騎兵の普及は進まなかった。

 結局、変革後の近代陸軍建設においても、騎兵は偵察任務が重視され、用途に合わせた編成が行われたアキツ陸軍の騎兵連隊は、西方諸国の半分の規模が標準編成とされた。


 ただし、問題もあった。

 純粋な騎兵同士の戦闘となると、数で二倍の差は大きな不利をもたらす。しかも馬に乗るという事は、魔力の恩恵による優位を活かしにくい。


 さらに構成される兵士の面で、アキツ陸軍の中で騎兵の価値を下げていた。

 アキツ人の7割はオーガで2割が半獣。知覚能力に優れる半獣は、身体能力にも優れるのであまり騎兵にはなりたがらなかった。

 それ以外となると、天狗エルフは馬を好むも絶対数が少なく、多々羅(ドワーフ)は体型的に普通の馬に乗れない。

 また支配階級の魔人は、馬は貴人の嗜みとして巧みに乗りこなすも、変革以後のアキツでの騎兵の成り立ちから騎兵になりたがらなかった。それに大柄な大鬼デーモンは大型種の馬が必要だった。

 

 こうして騎兵は、公民シヴィルの鬼が多くを占めるようになる。陸軍は偵察力を高める為に半獣を積極的に勧誘したが、それでも10人に1人以下だった。

 また偵察力を高める為、偵察に関連する魔術を持つ者が組み込まれたが、術者の不足から十分な数は配属出来なかった。

 

 そして偵察重視なので騎兵戦術自体が未熟で、アキツの騎兵は白兵戦が他国の騎兵より少し強いという程度の中途半端な存在と見られていた。

 他国の騎兵より弱く数も少なく、特に騎兵が強いタルタリアに対して劣勢、というのが一般的な評価だった。

 これは、歩兵は最強、砲兵は平凡という評価に対して、騎兵は貧弱という評判になった。

 要するにアキツ軍での騎兵は、他国の陸軍とは違って花形ではなく日陰者だった。

 

 これは、西方列強ばかりか大東国セリカなど東方の大陸にある国家で、伝統的に騎兵は強く、名誉であり、精鋭と考えられる兵種である点と大きく違っていた。

 アキツ陸軍は騎兵は必要だと考えていたが、将兵の側からすれば物好きか仕方なく選ぶ兵種だった。


 甲斐と話す連隊長の田中大佐も、公民の鬼出身の将校だった。比較的若いのは、陸軍の拡大に伴う騎兵の拡大に将校の供給が追いついていないのと、騎兵連隊の規模が他国に比べて小さいからだった。


 そして彼らと合流したのは、地面を浮く舟を操る、初戦で大戦果を挙げたという蛭子達だった。


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