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【ネトコン12入賞】アキツ年代記 〜幻想世界と近代戦争〜【書籍化】  作者: 扶桑かつみ
第二部「極東戦争編(1)」

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070 「艦砲射撃の余波(2)」

 竜歴2904年4月25日の日の朝、アキツ中の大都市の街角では同じ光景が繰り広げられていた。


「号外! 号外!」


 手持ちの鐘を鳴らしつつ、新聞売りの小僧が朝なのに号外を売って回る。

 その新聞の号外は、新聞売り小僧の「タルタリアの軍艦が本土を攻撃したよーっ!」と言う呼び込みと、『太軍軍艦本土ヲ砲撃ス!』という衝撃的な見出しによって、既に情報が古い普通の新聞を差し置いて飛ぶように売れていった。

 そうした情景に代表されるように、アキツの新聞各紙はタルタリアによるアキツ本土の北部の島、北州の久寿里が軍艦から砲撃を受けた事を伝えた。


 アキツ本国以外の海外領土でも、最大で1日程度の誤差で同じ報道がなされた。世界各地も同様で、世界が事実を知る。

 半世紀ほど前に西方で発明された電信は、既にアキツとアルビオンの相互協力の海底電線綱が世界中に結ばれれる事で、世界を巡る時代となっている。

 情報伝達網は一昔前とは比較にならないほど早く、社会資本が整っているアキツ本土を情報が瞬く間に駆け抜けていった。

 同時に電信でつながっている世界各国、各地にも同様の情報が伝えられた。


 これに対してタルタリア帝国は、「海軍国、海洋大国などと自称しても、所詮は魔物モンスターの国で隙だらけ。我が海軍は、いつでもアキツ本土を攻撃できる」と新聞が書き立てる。帝国政府発表の公式声明でも、アキツ取るに足らずという趣旨の言葉が並んだ。

 ただし、西方諸国からの受けは、タルタリアが予想したほど良くなかった。


 軍事とは関係のない都市の、しかも漁港を中心に砲撃を実施したからだった。そしてその点を、アキツ側が被害写真や魔法による写憶機メモリーを用いて広く世界に伝えたからでもあった。

 勿論、戦争状態となった以上、敵国への攻撃自体は問題ない。魔物と蔑む種族相手なら尚の事だ。

 だが当時の西方世界では、「野戦軍の撃破」「主力艦隊の撃滅」などの「洗練された戦争」が行われるべきだという風潮があった。

 いわゆる「戦争芸術アートオブウォー」だ。


 実際、竜歴29世紀に起きた西方での代表的な戦争は、「洗練された戦争」が多かった。

 約100年前の「英雄戦争」は陸と海の双方において、軍隊同士の決定的な戦いが戦争の帰趨を決した。近いものだと、30数年前に起きたゲルマンとガリアの戦争がその典型例だ。


 このため、40年ほど前に極西大陸で行われた「分裂戦争」は、「素人の戦争」などと言われ低い評価しかされていない。

 何年にも渡って数十万、数百万の国中から動員された兵士による大軍が睨み合い、ぶつかり合い、多くの犠牲を出したからだ。


 そして竜歴30世紀最初の戦争としてタルタリアとアキツの戦争が始まったが、行われる場所が人口希薄な大陸辺境という事もあって、軍隊同士による「洗練された戦争」の再現が期待されていた。

 しかも人と魔力を持つ種族の国との戦争という事でも、注目度は高く期待も大きかった。

 にも関わらず、その最初の一撃とすら言える戦争報道が、タルタリア海軍によるアキツ本土の都市への艦砲射撃だった。


 亜人デミの国に対する攻撃なので、民間に死者を出しても特に文句はない。だが、何より洗練さに欠けると、タルタリアは西方世界から評価されてしまった。

 もっとも、この評価が一般的になるのは艦砲射撃から半月ほどしてから。故にタルタリアは、正当な戦争である事を示す一撃を与えた事にこの時点では十分満足していた。


 一方で、何故タルタリアが不利な海で積極的な攻撃を、しかもアキツ本土に対する艦砲射撃を行なったのかという疑問が、世界中で持たれた。

 確かに、結果はどうあれ注目を集めることは出来た。

 現実面では、アキツ海軍を振り回すという点では大きな成果を上げたと言える。だが、一時的に振り回したところで、現地のタルタリア海軍には二の矢、三の矢がない。

 しかも商船を攻撃して後方の海上交通路を脅かすのでもなく、戦略的に意味のない漁村を少し砲撃しただけに過ぎなかった。


 もう一方の攻撃されたアキツだが、何よりもアキツ本土が外国、只人ヒューマン勢力に直接攻撃を受けた事に、政府と海軍は大きな衝撃受けた。

 半世紀前の変革での国内紛争は大規模な戦争状態は回避されたし、海外勢力による本土攻撃もなかった。それ以外も同様で、過去の事例としては戦国時代に当時の西方列強の軍艦が艦砲射撃した事件があるだけだ。

 さらに以前だと、数百年前の大東国セリカの当時の王朝との戦いにまで遡る。

 つまり、歴史的に見て数百年ぶりと言える事件で、長寿の種族ですら驚き大事件として扱われた。


 もしタルタリアの目的がアキツ国民に何らかの心理的衝撃を与える事だったのなら、目的は過剰と言えるほど達成されたと言えるだろう。

 ただし劇薬過ぎたと、後に結論されている。

 最初の衝撃が収まると、アキツの国民は攻撃を許した海軍を強く糾弾した。群衆が海軍作戦本部を取り囲んだり、投石事件を起こした。

 この時点では、タルタリアとしては益のある状況だった。


 だがアキツの国民の感情は、さらに変化する。

 軍人、軍属以外、つまり公民シヴィルが戦火にさらされ死者を出した事を非常に強く怒ったからだ。

 当然だが、怒りの矛先は攻撃を実施したタルタリア帝国に向いた。

 しかも、単なる戦争の勝利ではなく、タルタリアはアキツ本土の占領、もしくは殲滅を狙っているのではないかという論までが、まことしやかに語られた。

 亜人の国の民だけに、そうした考えは非常に強かった。


 そしてアキツの国民は、自らの海軍に対して攻撃したタルタリアの軍艦を絶対に制裁を加える事を望むと同時に、攻撃を命じたタルタリア帝国を許すなと政府に強く求めるようになっていく。

 そうしなければ、いずれ自分達が滅ぼされるか、最低でも隷属させられると感情的に考えたからだ。


 もっとも、人口が密集し国が隣接し合う西方世界では、一般民衆が戦争に巻き込まれるのは「洗練された戦争」であってもごく普通に起こりうる。

 だが、アキツは違った。300年前の戦国時代以後、アキツの本国は天下泰平と言われる平和が続いていた。


 勿論、海の外では別だった。国家としてのアキツは、常に本土が安全なまま海外進出を続けた。だが、戦いがあるとしても常に海外だったアキツの民は、本土の民衆が直接戦争に巻き込まれる事に全く慣れていなかった。

 だからこその過剰すぎる反応だった。



「軍の要塞なのに新聞が読めるって、なんだか文明的だな」


「本土の新聞だから3日遅れではあるけど、普通に酒保で売っているものね」


 大黒竜山岳要塞の外れにある地下宿舎の談話室で、甲斐と鞍馬がそんな会話を交わしている。

 数日で馴染んでしまったかのような寛ぎ具合で、既に長い期間滞在しているようにすら見える。


 それもその筈で、それまで1ヶ月近くを荒野で野営してきたのだから、部屋があり、寝床があり、食事も充実しているとなれば、僅かな自由時間くらい多少寛ぎたくなるのも自然な事だった。

 ただ、甲斐が見ている新聞の内容は寛げる内容ではなかった。


「酒に甘味、前線の酒保の品揃えが本土とほぼ同じというのは、補給体制の充実ぶりを示しているんでしょうが……」


「前線にまで新聞が回ってくる時点で、戦争になったって機運が低いんでしょうね」


「そのうち来なくなると思いますけどね。報道内容によっては、兵の士気に関わりますから」


 言いつつ新聞を鞍馬へ手渡す。

 受け取った鞍馬は、一面を見た途端に軽く眉をひそめる。


「タルタリアの艦砲射撃からもう一週間。日に日に熱を増しているみたいね。最初は本土攻撃を受けたと騒ぎ、海軍を無能と罵り、やっと死者が出たと悼む」


「次は怒り狂うかもしれませんね。罪もない子供や老人が死んだ、いや、殺されたそうです。今まで国民にとって、タルタリアは遠い異国で、戦場はどことも知れない大陸の辺境でしかありませんでした。でもこれで、タルタリアは敵と認識されるでしょう。しかも向こうが一方的に因縁をつけて戦争吹っかけてきたんだから、報復して構わない相手として」


「新聞にも『久寿里を忘れるな』って煽り文句が並んでいるわね」


「投書欄とかもっと凄いですよ。『只人に報復を』や『タルタリアを打倒しろ』とか。政府も、さじ加減が大変でしょうね」


「政府の発表は、タルタリア軍艦の追跡と撃破に全力を傾けるという以外出てないわよね。陛下がお嘆きになられたという話は……」


 言葉の最後で鞍馬の声が小さくなる。

 アキツの民の慎みとして、あまり口にしてはいけない事だからだ。


「いまだに出てないですね。でも、あれだけ強い魔力の波動があったんですから、竜都にいる魔力に敏感な人は気づいているでしょう。陛下を憚っているだけですよ」


「甲斐は分かったのよね。私は感じられなかったけど」


「僕が少し変わっているだけですよ。黒竜地域は違う竜が守っていますから、アキツを守る陛下の波動を感じるのは、鞍馬でも難しいでしょう。それよりも、大佐でも話が回って来ていない事の方が問題かも。僕らに話が来ていないって事は、最低でも准将以上にしか伝えられていないって事ですから」


大隅オオスミ大将が総軍司令官として先日来られたけど、総軍司令部は流石に知ってるわよね」


「あの日以後に本土から来た将兵の多くは知っているでしょうね。政府も折を見て発表すると思いますよ」


「そうね。陛下の御心だから、慎重なだけでしょうね」


「うん。でも、竜都にいる海外の亜人は陛下の波動を感じただろうから、そこから話が先に出てくるかもしれませんよ」


「アキツに来る外交官や商人は天狗エルフが多いから、十分ありそうな話ね。と、休憩もここまでみたいよ」


「ほんとだ」


 部屋には二人だけで特に変化もないが、二人には部屋に走って来る足音が聞こえていた。

 そして簡素な扉を、第1中隊を率いる磐城が開く。今は第1中隊は待機だとはいえ、中隊長自ら来るとは余程の緊急事態だと二人も察する。


「大隊長。タルタリア軍、歩兵部隊の先鋒が要塞外縁に到達しました。後ろには、えらい数の軍列が続いているのが見えるそうです」


「来たか。ゆっくり出来るのも終わりみたいだな。では我々も、出迎えの準備をするとしようか」


「「はい。大隊長」」


 後方で、本国で多少の事が起きようとも、前線ではやることは決まっていた。

 そして双方の準備は、徐々に整い始めていた。


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