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002 「序幕・幹部会議」

・竜歴二八九八年某月某日



「このままでは我々は、人の手、近代科学文明によって滅ぼされるでしょう」


 部屋にいる者達に仕えるように起立していた唯一の者が、慇懃いんぎんながら淡々と口にする。

 服装、仕草、態度、雰囲気、その全てが誰かに仕える人のそれだった。

 そして彼以外は、彼が仕えるか敬うべき者達だった。


 部屋の調度は高級で落ちついており品が良い。

 そして、十名程の人影が大きく重厚な机を囲んで椅子に腰掛けていた。

 だが部屋全体がやや薄暗い。日が落ちかける時間というのもあるだろうが、部屋の明かりは行灯でもランプでもロウソクでもない。最近普及し始めている電気による灯でもない。自然に発光する水晶のような石だけ。しかも照明は暗めにしか灯されていない。

 暗めなのは、誰もが昼間のように明るくなくとも不自由していないのが理由だった。


 暗めの明かりに映る人影達は、全員が主に頭部に何らかの特徴があった。だが、何かを付けたり被り物をしているわけではない。

 頭の上にツノのある者。獣の耳が生えた者。耳が上に長く伸びている者、もしくは小さく上に伸びている者。さらには、頭の形が獣そのものと言える者までいる。

 また、頭の形が人のものであっても、目が通常ではあり得ない光を放っていたり、肌の色が通常とは大きく異なるなど、人にはない特徴を持つ者ばかりだった。

 魔物や魔人、はたまた悪魔達の会議とでも言われれば、その通りだと多くの者が答えたかもしれない。


 その異形の者達が、衝撃的と言える言葉に反応した。

 それを議事進行役と言える起立した男が答える。その男の頭の上にも、2本の短めのツノが生えていた。

 その男に誰かが口を開く。


「だから半世紀前にまつりごとを大きく改め、連中の近代科学文明を制度や文化ごと取り入れたじゃないか。今もこうして、机を囲み椅子に座っている。昔ならば、どちらも無かったものだぞ」


「それだけでは足りません」


「戦国時代に世界を知ってから、広く世界と交易を行い、大東洋全域にも手を広げてきた。北氷州、北大東洋域、大陸東南域、南天地域、南大東洋域、極西大陸。それに黒竜国。まだ不足かね?」


「そうですな。世界の半分でもあれば、何とかなるやもしれません」


「『世界の半分をお前らにやろう』か。三百年前の昔、戦国の時代に、彼らの言う所の『魔王』がアキツに来訪した只人ヒューマンの僧侶に向けて言い放ったという。だが、我々にとって呪いの言葉に等しいな。まあ、私はそれを直に聞いた一人なのだけど」


 会話に割り込むように、銀髪を短くした耳の長い細面の青年が皮肉げに独白する。

 それに数名が不謹慎だという態度を何らかの仕草で示したが、それだけでは足りない者もいた。


「で、残り半分は、只人にくれてやるのか? 世界の盟主、救世主気取りの臆病なあいつらが、それで満足すると思うか?」


「無理に決まっている。現状でも、只人は我々への警戒を強めている。それに世界の半分も攻め取る戦争など始めては、それこそ世界の破滅。三千年前の伝説の戦の再来ではないか」


「それは良いかもな。では、只人をことごとく滅ぼすか?」


「それらも一つの策でしょう。三百年前に我が国で『魔王』を見てから、彼らの一部は真逆の事を真剣に考え続けております。だからこそ我々を超えた、「科学万能の時代」だと声高に唱えております」


「科学万能なあ。万能なら我々を恐れる必要もないやろ。それで、具体策は?」


 雑談は終わりとばかりに、上座に座る一見青年に見える銀髪の細面の男が、唯一起立している進行役の男に問いかける。

 訛りのある口調の青年の耳は上に長く伸びていた。


「只人が創り出した近代科学文明は、この百年ほどで急速に発展してきました。それ以前に、我々と最初の接触をする数百年も前から、火薬を用いた兵器が数多く登場しております」


「その力で、奴らは自分達の縄張り近くにいた他者を駆逐し、蹂躙じゅうりんし、そして従えたんだったな。滅びた亜人デミ種族も多いと聞く。果たしてどちらが悪魔だ?」


「フンッ。旧来の滑腔銃マスケットなら、公民シヴィルはともかく我らには通じまい」


「はい。ですが半世紀ほど前に登場した革新的な小銃ライフルは、かなりの脅威です」


「小銃か。あれの大量生産と使用で、極西の戦争では酷い目に遭ったな」


「当時の大砲並みの有効射程距離ですからな。戦争で使う魔法の大転換を強いられた。今では単なる攻撃魔法は、戦場で使えるのは余程の威力でなければ役立たずだ」


「大砲も後ろから籠める大砲が主流になって、射程距離が大きく変わったな」


「その先の兵器が現れる前に動かねばならない、という事か」


「左様にございます」


 人ではあり得ない長い耳を持つも銀髪を短くした者に対して、起立したままの議事進行の者が恭しく頭を下げる。

 それに、首座の席に座る長い耳の者が小さく頷き返す。そちらの銀髪は長く背中に流されていた。


「ほな、その策とやらを聞こやないか」


「ちょっと待ってくれ」


 再び始まりかけた雑談を切り上げて本題に入ろうとしたところに、別の者が態度を含めて割って入る。狼を頭に持つも温和な表情のその者に、茶化す雰囲気はない。


「何や?」


「どうせ剣呑な話なんだろ。それよりも、穏やかに済ませる事は本当に無理なのか? 軍を預かる者として、安易に兵を用いるのは容認できない」


「無理だ。対抗上、我らは勢力を広げた。数も増やした。力も持った。もはや我らは、連中にとって無害ではいられない。だからこそ、最低でも舐められないだけの状況を作らねばならない」


「舐められない程度で済むのか? 彼らの行動原理は、欲と恐れだ。底がないぞ」


「そうだな。彼らの急進的な者達は、最終的に我々を滅ぼすか、最低でも直接支配する積もりだそうだ」


 自らの首元を締める仕草をした者の断定の言葉に否定する者はいない。

 それでも異を唱えた者が食い下がった。獣の頭を持つ異形だが、その瞳には知性があり議論を楽しんでいる雰囲気がある。


「だが連中の大半は遥か西方だ。我々を『極東帝国』と呼ぶくらいに。これまで同様、地の利を活かして均衡状態を作ったり、中立的立場を取るといった策は無いのかね?」


「うちも争い事は御免やね。千代ちよの命を持つうちが、なんで戦をせなあかんのや? 金持ち喧嘩せずやで」


 その言葉に、首座に座る銀髪と長い耳を持つ美しい青年が賛同する。ただその雰囲気と目、そして声色には、隠しきれない老獪ろうかいさが滲み出ていた。

 それに対して、ギョロ目で大造りの顔に加え頭にツノの生えた大柄な男が鼻で笑う。さらに薄暗くて分かりにくいが、赤ら顔にしては顔が赤すぎるように見える。

 そしてその者は、黒を基調とした飾りの多い西方風の軍服を着用していた。


「それなら連中の靴でも舐めて命を繋ぐんですな。貴殿ら大天狗ハイエルフなら、連中も無下にはしないでしょう」


「それもええかもしれへんけど、謹んで遠慮させてもらうわ。うちは二度と誰かの風下に立ちとうはない」


「なら意見は我ら大鬼デーモンと同じだ。再びくつわを並べようではありませんか、先祖伝来の戦友殿よ」


「先祖伝来? ああ、そういえばあんさんはあいつの子? いや、孫やったか? まあ、数百年ぶりに、それもええやろ」


「決まりですな」


 二人のやりとりが終わったが、どうやらこの場で強い立場にあるらしく、穏健案を口にした者もそれ以上異論は挟まなかった。

 加えて、他の者達も肯定的で、強く頷いている者もいた。

 それを受けて、おそらくこの場の長であろう人物が、唯一起立している者に改めて問いかける。


「ほな、改めて策を聞こか」


「はい。これは予防戦争、いえ自衛戦争です。お話しする前に、この事を皆様は心に刻み込んで頂きたく存じます」



随分と時間が巻き戻りましたが、のんびり、そして多分長々と書いていく予定です。

30話くらいから、軍事一色になると思います。


また、第一話もしくは第零話は第一次世界大戦あたりがモチーフですが、日露戦争をイメージする時代から追いかけていく事になります。

近代を迎えたナーロッパに『黒母衣衆ブラックナイツ』を出すのは、えらく遠い道のりだと気付かされました(苦笑)

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[良い点] 世界観はいいと思う [気になる点] エルフやデーモンのあて字が読みづらすぎるから素直にカタカナにしたほうがいいと思う 少なくとも面倒過ぎて先を読む気になれない [一言] なんかもったいない…
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