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027 「大願成就に向けて」

「失言という程ではない。それに、他の国が魔物モンスターと様々な種族をひとまとめに呼ぶ事には私も興味がある。理由が分かる者はいるか?」


 ちょうど注目が集まった事もあり、ポラリスが話しつつ全員をゆっくりと見渡す。

 そして全員が考えるそぶりをするが、熊の半獣セリアンのアルカイドは早々に両手を上げて降参。他の者も、ポラリスに対して明確な回答を用意できないと考える。

 そうした中、短い足で立ち上がったのは多々羅(ドワーフ)のミザール。多々羅にしては短い髭より広いひたいが目立つ、技術者として以上に博識でも知られている。


「儂は仕事で何度もアキツに行ったことがある。大鬼デーモン獣人ビーストどもが支配する、以前の国があった時代にも行った。ポラリス様の思った事について儂も疑問で、よく当人たちに聞いたものだ。何故お前らは対立しないのだ、と」


「だが答えを得るまでではない?」


「うむ。だが理由は3つ、もしくは4つだと儂は思う。1つは、アキツという社会全体への帰属意識。ただ、具体的に何なのか本当に分からん。海外に多くの植民地を持つので、小さな島国だからというのも何か違う。2つは、アキツの言葉を話す事。出来れば流暢にな。もっともこの点は、世界中の国や地域も似たようなものだ。

 3つは、国を守護するとされるドラゴン、今の『竜皇』を敬う事。良いか、敬うのであって崇めるのではない。連中にとっての竜は単なる君主ではない。国や集団の、なんというか象徴的な拠り所なんだと儂は思う。竜がいなくなったら連中がどうするのか、興味があるな」


「なるほど、それは興味深い考察だ。それで4つ目は?」


「魔力。これに尽きる。只人ヒューマンが住んでないのもあるが、他から来訪した只人は、差別をしなくとも、どうあっても連中の中に溶け込めない。ある奴は『お客さん』であって『身内』じゃないと揶揄した。一見種族の違いには寛容だが、案外排他的な連中だ」


「同志ミザールはどうだったのかしら?」


 興味を持った黒い肌のメラクが、妖艶と言える眼差しを多々羅に注ぐ。彼女もアキツには何度か行っているからこそ、聞いてみたかった。


「あんたと変わらん。『お客さん』さんだ。儂は竜については、他国の国家元首として以上ではない。それに、人ですらなく竜だからな。あの国の同族連中とは何度も酒を酌み交わしたが、最後までその点で打ち解けられなかった」


「そうなのね。私はこの肌のせいでアキツの同族達に一線を引かれたけど、参考になるわ」


「そりゃどうも」


「でも私は、あなた達が、いやこの国が研究している、アキツの国を無力化するって事の方が興味があるわね。『竜殺し』だったかしら?」


 「ハッ!」。メラクの言葉に、ミザールが侮蔑の表情すら見せる。


「この国のボンクラどもから金をむしり取る為、それらしい事を吹き込んでいるに決まっているだろ。お前だって、魔術を使うなら分かるはずだ。魔術一つで、簡単に竜を殺したり無力化が出来れば苦労はない。しかも自らの手で魔法を滅ぼしたこの国の連中が、竜を殺すなど出来る筈もない」


 そこで一呼吸置いたが、それは口を湿らせるため。

 ただし口にするのは、彼にとっての水であるきつめの蒸留酒だ。


さかしいアルビオンの連中が大東国セリカで大馬鹿をやったが、あれだって魔石ジュエル欲しさに竜を従えようとしたに過ぎん。だが、膨大な魔力を溜めた呪具マジックアイテムで大魔術を行使したら、魔石の暴走で大爆発を起こしたと儂らは結論している。恐らく、アキツの連中もな」


「つまりアキツは既に対策済み。それじゃあ、竜を殺すことはともかくとして、魔力もしくは魔法の無力化もやっぱり無理なのね」


「そもそも魔人デーモン亜人デミの内から湧いてくるもんだぞ。相殺も無力化も無理筋だ。放出された魔力の相殺すら、繊細さを求められる。高い魔法技術がないと無理だ。この国が亜人に多用する魔力封じの呪具アイテムも、一定程度までの魔力を吸い上げ拡散する代物だ。化け物じみた連中に通じないのは、アルビオンや他の西方諸国も認識している。知らないのは、この国のおめでたい連中だけだ」


「タルタリアだけでなく、西方全体がそうなのでは?」


「確かにそうだな。アルビオンの悪辣な魔術師どもは、世界中で竜を殺して回ってきたから勝算があったのかもしれんが、結果はあのザマだ。セリカでの竜の消滅の時の失敗で、高度な術を使える魔術師どもは大半が滅び10人に1人も残ってないとすら聞く。実際激減したし、竜が殺される事例も無くなった。そして半世紀以上、アキツの魔石に頼る時代が来ちまった。賢いつもりで、連中はとんでもない大馬鹿だ」

 

「だが、良いではないですか。我々にとっては好都合」

 

 技術に関する事だからか言葉の多くなったミザールに、今度はドゥーベが怜悧な瞳を向ける。

 今のミザールの話があるからこそ、彼らは現実的な方向で活動が出来るようになったのだ。


「それは儂の領分じゃない」


「ええ。あなたは技術者であり、あくまで協力者。ですが志を同じくする者です」


「協力者なのは俺も同じだ。俺は今のこの国は糞食らえとしか思ってない。アキツの連中の方が、多分ウマが合うだろうよ」


 今度はアルカイドが、大きな口で祝祭日の豪勢な料理を頬張りつつも口を開いた。その口からはどう猛と言える牙が覗いている。

 その横では、寝ていると思えたアリオトが頭の上にある狼の耳を動かしつつ、「俺もー」と興味なさげに答える。


「そのウマの合うアキツの事で、一つご報告が」


 それまでずっと黙っていたフェクダが、不意に言葉を発した。話す相手は他の5人ではなくポラリスに対して。

 彼は老齢の只人だが、長い間世界各地の研究をしたというので深い見識を持っている。彼が長命の種族だったらという声は、表向きの経歴や素性の場合でだがよく言われていた。

 ただし、論文や紙面だけで十分だと他の同志たちは思っていた。

 その賢者にポラリスが頷く。


「周知の通り、竜は魔力を持つ眷属もしくは庇護下にある種族に対して、『竜の加護』と呼ばれる恩恵を与えます。これは、竜が縄張りとする地域に魔人、亜人より溢れた魔力を溜め、そしてその魔力を使い何らかの加護を与えていると従来より考えられています。

 その加護とは、より高い力を与えるのは間違いなく、彼らは自らの領域内においてより高い能力を得ます。それ以外では大規模な天変地異、自然災害を防ぐ記録がありますが、今の西方に残された記録からは判然としません。ただ、竜本来の力は天変地異の阻止または緩和にある可能性がかなりあります」


「また始まった。黙っていれば賢者なのにな」


「ポラリス様の前だから張り切ってるんだろ」


 ボソボソと半ば無視された者達が囁く。それをフェクダは無視するが、既に耳がかなり遠いとからだと当人は言っていた。


「ですが、竜を滅ぼせば加護は消え、影響下にある種族は力を弱めるのは間違いない事実。それに竜の力が衰えると、自然災害も増えると言われてもきました。力を弱める点についてはセリカの例にあるように今までの事例からも明らかで、西方列強が世界進出する際の常套手段としてきました。

 ただ、『竜殺し』の技は門外不出。アルビオン以外では、ガリアが似た魔法をかつて有していたと言われるのみ。他の国な地域でも同じ様な魔法が開発されましたが、現状でのアルビオン、ガリアの世界中での植民地支配が多くを物語っていると言えます」


「2世紀ほど前までは、ローランド連邦も似た魔術を使ったというな」


「さらに昔はヒスペリアもな。ローランドの技術もヒスペリアのものを奪ったという」


「ローランドは、アルビオンに奪われたというのが定説ではなかったか?」


「ローランドの連中は、アルビオンに身売りしたんじゃなかったか?」


「私もそう聞いている。そしてセリカで失敗して仲良く自滅だ」


 他の者たちの雑談が続く中で、全てを無視したフェクダの話は続く。


「そして時代時代の西方列強が行ってきた様に、竜は滅ぼしても構わない存在となった。終末戦争で荒れ果てた3000年前ならいざ知らず、もはや竜の加護を人は必要としなくなっているからです。

 一方で、1000年遡っても過酷な自然の我らが大地に竜はおらず、竜の加護もなし。その代わり『七連月セプテントリオネス』と呼ばれる昼間にだけ見える月が、我らの大地を温め人の住める環境にしています」


「結局あいつは何が言いたいんだ?」


「今更、ポラリス様に講義か講釈でもするつもりなのか?」


 他の5人のつぶやきながらの会話も続く。


「一方で、アキツの進出した場所では竜と竜の加護が復活するという噂が、二百年ほど前から記録されています。実際、アキツの進出した地域では竜の存在と加護が確認されています。

 ですが、アキツが進出した当初に竜はいなかった、というのが定説です。我々も長年調査と研究をしてまいりましたが、ある程度信ぴょう性が高いと結論づけられました」


「これから起きる戦争で解るというのか?」


 フェクダの言葉に、ようやくポラリスが返した。

 彼も、フェクダが何を言いたいのか、今まで計りかねていたのかもしれない。


「はい。このタルタリアの大地に、いにしえより伝わる竜が復活するのではないかと。ただし」


「アキツがタルタリア領内の奥深くに攻め込むか、最低でもタルタリアが大きく負ける必要があるのか。もしくは、タルタリアを揺るがすほどの混乱が起きるか。何にせよ、アキツがタルタリア領内で竜の復活を行う状況が作られる必要があるという事か」


「左様です。戦場ではアキツに期待するしかありませんが、我ら七連月セプテントリオネスがこの国で動く時となるでしょう。そして竜の姿を見れば、タルタリアの民を真の道に目覚めるさせる事も出来ましょう」


 最後にフェクダが恭しく一礼する。


「その時こそ『真教』が正しき姿に戻るという事か」


「「オオッ」」


 全員があげたうなり声が部屋に広がる。

 そしてポラリスはそのうなり声に応えるように、全員へと向きなおる。


「聞いた通りだ。我らが大願成就の為、今後とも皆にも存分な働きをしてもらう事になるだろう」


「「ハハッ!」」


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