第36話 スタンピード④
◇アーク◇
「次のモンスター通すぞ」
「お願いしまーす!!」
威勢のいい返事が返ってくる。
もう夜中だというのに戦っている冒険者達の士気はまだ高い。
冒険者達は交代しながら戦っているため余力はまだある。
モンスターのランクは段々と上がり、今は四級のモンスターと戦っている。
冒険者達のレベルもぐんぐん上がっている。下級の冒険者であれば10以上レベルを上げている者が殆どだろうか。
中堅どころの冒険者達もほぼ全員が昇級していると思う。
スタンピードはそれほどの経験値をもたらした。そのため夜中であっても冒険者達の士気は高い。
怪我を負うものはいても今のところ死んだものはいない。そのためスタンピードを嘆く者はまだ出ていない。不平を漏らす者もいない。
とは言え、もう余裕は殆どない。
ダンジョンの入口は【土壁】で10に区切り、大型のモンスターは出てこれないようにしてある。
ただ、これで絶対に三級のモンスターを防げるわけじゃない。
15-16階の階段は土で埋め尽くしたが突破されたとロイが言っていた。
モンスター達がどうやって突破したのかは分からないが土属性の魔法を使えるアースホーンあたりが土をどかしたのかも知れない。
それに三級の中でも小柄なモンスターは通路を通れてしまう。10に区切った通路のうち既に9本は三級が出てきそうな気配を感知したため今はもう塞いでいる。
残す通路は1本のみ。
最後の通路は三級が出て来ても塞がずに、上級の冒険者や騎士団で三級のモンスターに対応することになっている。
「次は三級が来るぞ。バッジ、待機しとけ」
「はいっ」
三級のモンスターと言えど出てこれるのは小型のモンスターだけだ。大勢で囲んで遠距離から叩けば特に問題なく倒せるはず。
倒すのが厄介なアイアンゴーレムやギガントタートル、被害が出てしまいそうなポイズンリザード等は大きすぎて出てこれない。
三級のモンスターであっても1体ずつであれば被害を出すことなく倒すことができるはずだ。もし被害が出そうになったり、冒険者達に疲労が見えてきたら通路を塞げばいい。
三級が一体ならばまだ俺達が相手をしなくても対応できる。問題は二級のモンスターだ。
二級のモンスターでも騎士団ならば倒すことは可能だが、被害を出さずに倒せるとは限らない。だから二級のモンスターとは積極的に戦わない。闘うとしたら【土壁】を突破された時だろう。
その二級のモンスターの気配が外からでも感じられる。それも1体や2体ではない。
明らかにヤバい魔力を放つモンスターが1階に何体もいる。
「よし、次は三級だ。お前ら準備は気合入れろよ!!」
――はいっ――
【土壁】で土を操作し、1体だけモンスターを通す。
出てきたモンスターはオークジェネラルだった。ダンジョンの外では仲間を呼べないため、脅威度は大分落ちる。とは言え単体でもオークジェネラルは弱くはない。
それでも多勢に無勢。上級の複数パーティーから一斉に攻撃が放たれる。
避けることも出来ずオークジェネラルにできるのは防御だけだった。
そうなると後はもう時間の問題で、オークジェネラルは手も足も出ず力尽きた。
よし。よし。よし。
問題なく倒せた。
バッジ達が頼もしく見える。
今みたいに危な気なく三級モンスターを倒せるなら最後の通路は塞がないほうがいいだろう。
·········
······
···
空が白んできた。
もうすぐだ。もうすぐシルフィスは来てくれるはず。
そうだよな。
こっちはちゃんと持ち堪えてるぞ。
早く戻ってこい。
何度も三級のモンスターを相手にしたことで皆の魔力が枯渇してしまい、既にダンジョンへの入口は全て塞いでいる。今はもうシルフィスが帰ってくるのを只々待つことしか出来ない。
皆は体を休めつつ魔力の回復に専念している。
――ゾクゾクゾクッ――
不意に背筋に悪寒が走る。
慌ててダンジョン内部を感知すると、入口を塞いでいた大量の土が凄まじい勢いで除かれていくのを感じた。
「【土壁】」
慌てて土を生み出す。
「アーク、大丈夫か?」
「ああ、何とかな。·····いや、やっぱりヤバい。急いで、【土壁】を使える奴らを呼んできてくれ」
「分かった」
ファングに応援を頼む。
土を補充したら隙かさず向こうの出力が上がった。
魔力量なら負けんだろうが、向こうのほうが明らかに上手だ。それとも手数が多いのか土を退かされる方が早い。
ジリジリと入口に迫ってくる。
「アーク、連れてきたぞ」
「助かった。土でも石でも何でもいいから埋めてくれ。モンスターが迫ってきてる!」
――応っ!!――
応援に来てくれた騎士団と冒険者のお陰で、押し戻すことができた。
だが、これは長くは保たない。
「ファング、ここから正念場だ。戦えるやつら全員集めてくれ」
「分かった」
必死に維持している【土壁】が突破されるのは時間の問題だ。
こちらの手数を増やせても一時しのぎにしかならない。
俺以外の土魔法の使い手の魔力には限りがある。相手は二級三級のモンスターだ。一体一体が人の数倍、数十倍もの魔力を有している。
いずれ押し負ける。
そうすると壁の向こうにいる二級、三級のモンスター共が一斉に押し寄せてくることになる。
しかし、街に被害を出すわけには行かない。
マジでシルフィス、早く戻ってこい。
こっちはもう限界だぞ。
一瞬一瞬がやたらと長く感じる。
必死に維持しているつもりでも、もしかしたら大した時間は稼げていないのかもしれない。
時間の感覚がよく分からん。
一人、また一人と魔力切れで脱落していく。
そして誰かが脱落する度にグッと押し戻される。
どれだけ時間耐えたのか分からないが、再び勢いはモンスター側に傾いてしまった。
こうなるともう相手の勢いをもう覆せない。
「アーク! 大丈夫か?」
「いや、悪いが限界が近い。長くは保たん」
ギドたちが来てくれた。
ここから先はもう切り札を切るしかない。
「いよいよ後がないか、それなら作戦通り僕が迎え撃つよ」
悠久の剣の尽きない魔力を以って攻撃すればそれなりの数を減らせるはずだ。
しかし、それは最後の手段。俺達は三級以上を仕留めたら気絶して戦線復帰は出来ない。
しかし、入り口が崩壊したら一気にモンスターが溢れ出す。それを阻止するため最大の殲滅力を誇るギドを使って可能な限りモンスターを減らす作戦となっている。
もちろん、ギドだけで足りないならロイ、カイル、ファングと順次投入する必要があるが出来れば温存したい。
「だが、感じんだろ? 桁が違うのが何体いかいるぞ?」
しかし、二級のモンスターの中でも明らかに桁が違う魔力を放ってる奴らが何体かいる。
「アーク、準備に時間をもらえるんだ。何とかしてみせるよ」
ちっ。
こういう時のギドやたらと頼もしいんだよな。
不思議と何とかなるって思えちまう。
まるで俺がビビってたみたいじゃねぇか。
「期待してるぜ、リーダー」
「ああ、任せろ」
ギドは一人、入口の前に進み出て構える。
「【氷剣】」
ゾクッ。
ギドから強烈な魔力が放たれると、人の背丈程の氷剣がいくつも浮かび上がる。
尽きない魔力に物を言わせ、剣の数はどんどん増える。
数が多すぎて何本の剣を生み出したのかもはや分からない。
下手したら数百位あるか?
その一本一本の剣に魔力がこれでもかと詰め込まれていき、次第に青く光を放ち始めていく。
「ギドのやつとんでもねぇな」
思わずロイがそう呟いた。
「ああ、うちのリーダーもバケモンだったな」
ファングもギドを賞賛する。
いくらでも魔力を使えるからといって、使いまくれば脳への負担は相当なものになる。
ギドの鼻からは血が垂れていた。
「おいおいマジかよ」
カイルが驚いて声を上げる。
俺も驚いた。
あのバカの負荷がシルフィスの【固定】を上回ってるってことだろ?
「ははっ、これ程の力を操れるなんて自分でもビックリだよ」
ギドの表情には驚きと歓喜が交じっていた。こりゃ鼻血には気づいてないな。
この土壇場でスキルがまた一段上にいったか?
だとしたら嬉しい誤算だ。
「ギド、準備はいいか? そろそろおれも限界だ」
「ああ、アーク。いつでもいい。あと鼻血拭いとけよ」
あっ? 鼻血?
下を向くとポタポタと血が滴っていた。
ちっ、壁を維持するのに必死で、俺も鼻血出てたのかよ。かっこわりぃな。
「その姿を見て、俺も力を振り絞れたよ。この防衛戦の英雄は間違いなくアークだ」
英雄?
何言ってんだよ。正念場はここからじゃねぇか。
「悪いが後は頼む」
――ドガァァァァン――
入り口の壁を突き破り、モンスターたちが一斉に溢れ出した。
歓喜とも狂気ともとれる叫びがモンスターから響き渡る。
「【飛剣】」
その叫びを切り裂くようにギドは剣を振り下ろした。
――ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ――
ギドの動きにならい氷剣が同時に振り下ろされると、ダンジョンを破壊し尽くさんとする数百もの剣閃がモンスター達を飲み込んでいった。
あまりの破壊音にモンスター達の叫び声は全てかき消されていった。




