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第34話 スタンピード②

◇ギド◇


――グラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラ――


「何だっ、何が起きた!?」

「ダンジョンが揺れてやがるっ!!」

「おいっ、これどうなるんだ!?」

「ヤバイヤバイヤバイ」


「おい、皆落ち着けっ!」


 流石にダンジョンが揺れるなんて経験は初めてだ。皆が驚くのは分かる。

 でもここで僕が慌てちゃ皆はもっと混乱する。


「急いでダンジョンから脱出するぞ。何が起こるか分からんから警戒を怠るな」


――応っ――


 ダンジョンでは何が起きるか分からない。

 だからこそパニックになってはいけない。


 そして、何か得体の知れない事態が発生したなら即帰還だ。


 嫌な予感がする。

 シルは自分のせいでスタンピードが起きるかもしれないと言っていた。


 どうしてもその言葉が頭をよぎる。

 

 仮に、仮にだ。

 シルのせいでスタンピードが起きたとして、だからどうしたって話だ。


 シルが何の負い目も感じないようにすればいいだけだ。

 あいつに恩を受けた身としてはそれくらいしないとダメだろう。


 冒険者の習性として、深い階層に潜る冒険者程階段のそばで探索するものだ。

 素材を持ち帰るにも階段に近い方が楽だし、危なくなった時も時も撤退しやすいからだ。


 異変を感じた冒険者なら余程バカじゃない限り撤退するはずだ。


 !!


 おいおい待てよ。何だこれ。

 下から夥しい数の魔力を感じる。


 嫌な予感ほど、当たって欲しくない予感ほど当たるものだ。


 下から迫ってくるこの魔力。間違いなくスタンピードだろう。


「急げ、スタンピードだ! ロイ、ファング、僕達で殿だ!」

「ああ」

「分かった」


 僕達よりも下に潜ってるパーティは、いたとしてもシル達しかいないだろう。

 だから気に掛けるとしたら俺達よりも上の階層にいる冒険者だ。

 

「カイルとアークは先導してくれ。もし、引き返せない冒険者がいたら助けてやってくれ。可能な範囲でいい」

「「了解」」


 階段へ向かって走る。

 キャリーした冒険者達もレベルの壁を越えたこともあり中々のスピードで駆けることができる。


 全員の顔に不安の色が見える。

 こんな異変が起きたら普通は全力で引き返すはずだ。


 引き返さないバカに関しては放置でいいとして、怪我をして引き返せない冒険者がいるかも知れない。

 冒険者は自己責任。自分の命の責任は自分で持つ必要がある。だから、そいつらを見捨てても問題はない。

 だけど、後でシルが気に病むかも知れないからな。助けられるやつがいたら助けないと。


――ゾクゾクゾク――


 もうすぐで階段というところで大量のオーガが湧いた気配を感知した。

 目に見える範囲内にも何体か出現している。


「【氷剣】」

 キャリーしてきたパーティを守るように【氷剣】を浮かべる。


「階段まであと少しだ! 駆け抜けろ!」


 近づいてくるオーガには【飛剣】を放つ。

 オーガを一方的に屠りながら階段まで到達する。


 幸い三級のモンスターが現れることはなかった。湧いていたのはオーガだけだった。


 大量に湧くのがその階層のモンスターだけなら、ここで結界を張れば三級のモンスターは封じ込められる。


 階段を駆け上がると直ぐ様指示を出した。

 

「ロイ、ファング。僕達はここで下層のモンスターを封じ込める。カイル、アークは地上に戻り街の防衛を頼む」

「「「「了解」」」」


「【結界バリア】」

「【土壁アースウォール】」

「【強化】」

 ロイが結界を張り、アークが階段を全て満たすように土壁を築く。それをファングが強化した。


 これで早々に破られはしないはずだ。


「ギドさん。本当にここに残るんですか? 無茶ですよ!」

「大丈夫だ。勝算が無い戦いはしない。ヤバくなったら逃げるから心配するな。早く行け。直に15階にもオークが湧きまくるぞ」


「行くぞ。お前ら。ギドたちなら問題ない。土産にオーク肉を大量に持ち帰ってくるはずだ。街を守って今夜はご馳走だ」

「はい」

 

 カイルが上手いこと言って他の冒険者達を連れて行ってくれた。


「シルを見掛けたら僕達がここにいることを伝えてくれ」

「分かった。死ぬなよ」

「当たり前だ」


 とりあえずアークが地上に戻れば、街の防衛は何とかなるはずだ。

 負傷した冒険者も全員治せる。あいつが防衛戦の要だ。


 あとはシルと合流するまでは三級のモンスターを倒さないこと。テータスの【固定】を維持し続けることが重要だ。


 体力と魔力が減らないならどれだけでも戦える。戦ってみせる。


 アーク達と別れてから暫くすると次々とオークが湧き始めた。

 数は······数え切れないな。


「きたか」

「さてとオーク相手にスキルの練習といくか」

「一体どれだけのオークが湧くのやら」


 オーク達の様子は普段と少し違う。

 飢えた獣のように、狂気を帯びて見境なく飛びかかってくる。ダンジョンのモンスターは元々そうかもしれないが、今はより狂気を感じる。


 三人とも耳を塞いだ。

「「「【落雷サンダーボルト】」」」


 ただ、オークの強さに変化はないようで、【落雷サンダーボルト】で一瞬で絶命していく。

 

 目の前には次々とオークの死体が転がっていった。


·········

······

···


「ふぅ、ようやく勢いが止まったな」


 何百体オークを倒したのか分からないが押し寄せるオークがいなくなった。


 それは異常なモンスターの湧きが止まったことを意味していた。

 オークも、たまに湧き出たオークナイトも全く脅威には感じなかった。


 改めて自分たちは強くなったんだと感じることが出来た。


「なぁ、二人とも。ちょっと変じゃないか?」


 少し感慨に耽っていると、ロイが問いかけてきた。

 

「どうした?」

「別に変なことはないと思うが?」


 ロイは神妙な面持ちで気配を探っていた。


「下の階の魔力が変じゃないか?」


「下の階?」

「相変わらず相当数の魔力を感じるぞ?」


 ファングと顔を見合わせる。

 沢山のオーガの魔力を感じる。オーガ以外の魔力も感じるが、恐らく下から上がってきたモンスターも混じっているのだろう。

 中には三級のモンスターもいるようだ。


 だが、それは予想の範囲内であり、特に変なところはないと思われる。


「三級のモンスターが混じってることとかか?」


「いや、俺が気にしてるのはモンスターの数だよ」

「数?」

「沢山感じるぞ?」


 数と言われても俺とファングはピンとこなかった。


「なぁ、俺達は何体のオークを倒した?」

「何百体か、それとももっと上かな?」

「まぁ、かなり倒したよな」


「そうだよな。じゃあ、下の階には何百体とオーガがいてもおかしくないよな? その下の階からもモンスターは上がってきてるんだ。俺達が倒したオークの数以上にモンスターがいたとしてもおかしくないんじゃないか?」

「······ああ、そうだな」

「確かに」

 確かにそうだ。言われて始めて気がついた。


「なのに、下の階から感じる魔物の数は15階に来たときとそう変わらない······」

「下層のモンスターの湧きは少ないんじゃないか?」


 ファングの言う通りだ。スタンピードの際にはそういう傾向が見られるらしい。湧き出るモンスターの数は上層の方が多く、下層になるほど少なくなる。


「俺もその可能性もあると思ったんだがな。感知圏内のモンスターで突然魔力が消えたやつがいたんだよ」

「消えた? そんなバカな。あ、いや、罠にかかった可能性はあるか」


「罠ならいいんだが、今はスタンピード。ダンジョンのモンスターは外に出るモンスターと同じになってるんじゃないか? 同士討ちもするようになっているのかも知れない」


 ロイの言う通りだ。その可能性はある。

 普通、ダンジョン内のモンスターは同士討ちをしない。別種であってもだ。

 だが、ダンジョンは何が起きるか分からないからな。


「ファング、僕達も気配を探ってみよう」

「そうだな」


「あ、確かに突然反応が消える魔力がある」

「ああ、確かに」

 それはすぐ分かった。


 だが、一度発動したら二度と発動しない罠が殆どだ。

 落とし穴であれば何度もかかる可能性があるが······オーガも見えている落とし穴に落ちるほどバカではないだろう。


 すると、先程魔力が消えた付近でまた魔力が消えた。

 これは不自然だ。

 別の罠にかかったとしても罠が近くにありすぎるし、同じ罠にかかったにしては距離がある。


 毒なら付近のモンスターが同時に複数死んでいくはずだ。それに毒にかかったにしては動きが活発すぎる。


「ロイの言う通りだな。罠では説明出来ない不自然な魔力の消え方をしている。同士討ちの可能性が高いかも知れない」

「だろ?」


「まぁ、そうかもな。魔力の消え方からして俺もそう思ったよ。だが、それならモンスターが減って好都合なんじゃないか?」

「ファング、よく考えろよ。同士討ちするってことは野生と同じモンスターになった可能があるってことだろ? それなら他のモンスターを倒したら強くなってしまう可能性もあるんじゃないか?」

「「あ」」


 ロイの指摘でまた気付かされた。

 ダンジョン内のモンスターは同じ種類であれば強さは一律で個体差がない。


 だが野生のモンスターは個体差が出る。

 人間のようにレベルアップする訳では無いが、経験値を得ると体が大きくなり、強くなっていくと言われている。中には上のランクのモンスターに進化することもあるらしい。


「そうか、そういうことになるのか」

「そこまで考えが及ばなかった」


 じゃあ、何だ?

 モンスターを封じ込めるのは逆にまずいのか?


 大量のモンスターと、強くなったモンスター。どっちがマシだ?


 シルがいるなら大量のモンスターの方がマシだ。大量のモンスターを糧に強くなるとどうなる? 二級や下手したら一級のモンスターに進化する可能性もあるか?


「ロイ、ファング。ここを放棄して上に行こう。この結界を突破してくるモンスターは僕達の手に負えないモンスターになっている可能性もある。それなら今のうちに上に戻って戦力を整えた方が良い。シルもいるかも知れないしね」

「分かった」

「そうしよう」


 恐らく上の階のモンスターの湧きももうすぐ止まるはず。上に戻ってモンスターを一掃し、下層のモンスターの襲来に備えて戦力を整えるべきだ。


 今の感じなら早々に15階にモンスターが上がってくることもないだろう。


 14階に上がるとモンスターは殆どいなかった。恐らく上の階に上がっていったんだろう。


 13階に上がってもそれは同じで、5階まで同じ様な状態だった。


 4階から大量のモンスターの魔力を感知した。その中に明らかに三級のモンスターがいる。


「おい、三級がいるぞ」

「どういうことだ?」

「多分一階の入口を塞いでいるんじゃないか? それでモンスターが溜まってモンスター同士で戦い、進化したモンスターが現れた。そんなところじゃないか?」


 多分そうだろう。


 ヤバいな。三級のモンスターはまずい。

 倒せるが、倒すとステータスの【固定】が外れてしまう。


「ひとまずこのまま5階で待機だ。モンスターの同士討ちもあってか、モンスターの数は減っていってる。三級を仕留めるにしても今じゃない。もっとモンスターが減ってからにするか、下層のモンスターが迫ってくるまでは待とう」

「分かった」

「そうしよう」

 


·········

······

···


◇ダンジョン入口前∶アーク◇

「よし次!」


 スタンピードを利用してレベルアップのいい仕組みを作ることができた。


 土魔法の【土壁アースウォール】で入口を10の通路で区切り、モンスターが1体ずつ通れるようにしている。

 

 そしてモンスターが1体通ったら通路を塞ぎ、冒険者に倒させて素材を回収する。その後、冒険者は交代しまた1体モンスターを通す。それを10の通路で行っている。


 途中で冒険者が怪我を負ったらその場で治している。怪我を負っても次の冒険者が直ぐにサポートに入れるため安全性はかなり高い。

 冒険者としても普段の探索と違って体力と魔力を気にせず戦闘に全力を出せるので、普段相手にしているモンスターよりも強いモンスターにも積極的に挑戦出来る。


 素材を直ぐに換金してもらうことも出来るのでモチベーションも高い。


 その結果、低級の冒険者達のレベルがかなり底上げされた。

 

 ダンジョンを走り続け地上に戻ってきた時にはそんな仕組みを作ろうなんて考えていなかった。

 ステータスが【固定】されていれば低級のモンスターは物の数ではないので、俺とカイルを中心に殲滅するつもりだった。


 ただ、他の冒険者の安否を気にしながら帰還していたらモンスターが湧く方が早くなり、途中からモンスターを倒しながら戻る羽目になってしまった。

 とは言え道中のモンスターにやられるはずもなく無事に地上まで戻ることが出来た。


 その頃にはスライムが地上に溢れ出ており冒険者達が対処に当たっていた。


 取り敢えずその場で溢れ出ていたスライム達は殲滅したが、話を聞くと冒険者達も戦いたいと言うことだったので、レベルアップにもなるし他の冒険者達が対応できる間は彼等に任せる事にした。


 その過程でより安全に、より公平に、モンスターと戦えるように工夫していったら今の仕組みが出来上がっていった。


 問題は土魔法を頻繁に発動し続けているので、土魔法が使える他の冒険者に任せると直ぐに魔力が枯渇してしまう。そのため俺が対応し続けないといけないのだが、いざとなったら全部の通路を塞いでしまえば休憩くらいは出来るので問題はない。


 大丈夫だ。

 俺達は戦える。


 街に何の被害も出さずこのスタンピードを乗り越えてみせる。

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