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第33話 スタンピード①

「ミノ肉は手に入れたけど二人ともどうする?」

「どうせならボスも見つけて倒しちゃいましょうよ」

「そうね。お肉は沢山あっても困ることはないもの」


 宝箱が出るまで探索するのは当然として、ミノタウロスも問題なく倒せることが分かったので今日の目標はボス討伐になった。


 ステータスを確認すると魔力のブレ幅が40を超え、8までブレるようになっていた。

 二級、三級のモンスターを立て続けに倒したせいかここにきて経験値が溜まるのが加速している。


 魔力には気を付けないとな。

 魔力の枯渇だけは絶対に避けないといけない。


 その後、魔力に注意しつつ探索を続けた。

 魔法を使用するとブレ幅は大きくなるので戦闘時はかなり気を遣った。


 アースホーンを倒すとき更に3くらいブレ幅が大きくなったので、戦闘時はかなり魔力的な余裕がなくなってきている。


 その後数頭ほどアースホーンを倒した後、大きな魔力を感知した。


「ミノタウロスだな」


 先程と同じ魔力だが、今度のやつは動こうとしない。感知したときも突然湧いたような感じではなく、元々そこに居たものに近づいて行って感知できたような感じだった。


「これはボスの方かしらね」

「動かないからきっとそうね」

「よし、運がいいな」


 この時点で魔力は5までブレるようになっていた。


「ボスを倒したら、ボスの間で一旦俺にかけてる【固定】を解こうと思う」

「そうね。それが安全かもね」

「よく分かんないけど、シルがそうしたいならそうすればいいわ」


「安全のため、ボス戦は二人にも参加してもらいたいんだけど良い?」

「そうね。母さんも自分で倒しておきたいわ。じゃないと見返せないし」


 あ、そこ?


「私も。ミノタウロス倒したいわ。見返すために」


 うん。そっか。

 経験値溜めるよりもそっちの方が大事なわけね。


 それはそれでありがたい。


 ボスの間にはボスしか湧かない。

 そしてボスを倒した後は、誰かがボスの間に残っていると次のボスは湧かないと言われている。


 つまり、俺が気を失っても安全なのだ。

 

 ミノタウロスを感知した方向に向かっていくと大きな扉が見えてきた。


 扉はかなりデカイ。それこそミノタウロスでも問題なく通れるくらいの大きさだ。


 この扉開けられるのか?

 相当重そうだけど······。


 近づくとだの壁のようにしか見えない。

 手をかけるところも持つところもない。


 そもそもどうやって開けるんだ?

 そう思って手で触れると魔力を吸われる感覚があった。


――ゴゴゴゴゴゴゴゴ――


 扉は音を立ててゆっくりと横に開いていった。


「あ、触れば開くんだ」

「簡単で良かったわね」


 ボスの間の奥ではミノタウロスが静かに佇んでた。


 扉が開くと同時にまるで命が吹き込まれたかのようにミノタウロスは閉じていた目を開いた。


 ダンジョンの不思議をまた一つ目にした気がした。

 あのボスは扉が開く前は生きていたと言えるのか言えないのか。

 まぁ、いくら考えたところで答えは出ないんだけどね。


――ゴゴゴゴゴゴゴゴ――


 そして扉は開き切ると、早く入れと言わんばかりに閉じ始めた。


「おっと、早く入らないと」

「意外とせっかちな扉ね」

「あ、入りま〜す」


――ブオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ――


 ボスの間に立入ると隙かさずミノタウロスが咆哮を上げた。


 戦う段取りはもう済ませてある。


「【重力グラビティ】」

「【鼓舞】」

「【氷鳥アイスバード】」


 エリーの【鼓舞】は熟練度が上がり、ステータスを【固定】していてもある程度の効果を及ぼすようになっていた。


 具体的にはスキルの威力が強くなる効果がある。


 【鼓舞】によって強化された【重力グラビティ】はミノタウロスを完全に地面に押さえつけた。


「ブモ······」


 そこへ強化された【氷鳥アイスバード】が飛来し、一瞬で氷漬けのミノタウロスが出来上がった。


 ミノタウロスは抵抗し、全身から魔力を噴出し始めた。


「抵抗しても無駄よ。エリーちゃんのスキルも乗ってるんだから」


 しかし、氷は砕けない。


 いや、もしかしたら幾分かは砕けてるのかも知れないけど母さんは魔力を込め続け、氷はミノタウロスを封じ込め続けた。


 お前がどれだけ長い間挑戦者を待ち続けたのか、それとも意識が宿った一瞬でこうなってしまったのか分からないが、もう勝負はついた。すまんが俺達の糧になってくれ。


 そして······


「あ、レベルアップしたわ」

「倒したのね。これでバッチリ見返せるわ」


 どうやらミノタウロスは窒息し、息絶えたようだ。


 ステータスを見ると魔力のブレ幅は48になり、魔力は残り4までブレていた。 二人の【固定】がレベルアップで外れていることを加味すると本当にギリギリだ。


 危なかったな。

 本当にボスの間を見つけられて運が良かった。


 別に母さんとエリーに戦ってもらえば良いのかも知れないけど、それだと二人の経験値がたまらないからもったいないんだよね。


 二人ともそんなに気にしてないけど、なるべく経験値は溜めてからレベルアップした方がいい。

 毎回気絶するのは大変かもしれないから無理強いは出来ないけどね。


「それじゃ、二人ともステータス出して」


『サラ:レベル10

 HP:203

 体力:96  

 魔力:104

 筋力:95

 敏捷∶91

 頑強:94

 知能:97

 感覚:106

 スキル∶【精密】、【物理耐性】、【空間魔法】、【火魔法】、【水魔法】、【光魔法】、【風魔法】、【魔力感知】、【魔力操作】、【雷魔法】、【重力魔法】、【氷魔法】、【雷耐性】、【身体強化】、【魔法耐性】、【毒耐性】、【回復魔法】、【風魔法】、【土魔法】、【熱耐性】、【鑑定魔法】

 称号∶【絶望を超えし者】』


『エリー:レベル20

 HP:271

 体力:124  

 魔力:134

 筋力:122

 敏捷:118

 頑強:115

 知能:133

 感覚:119

 スキル∶【鼓舞】、【物理耐性】、【空間魔法】、【火魔法】、【水魔法】、【光魔法】、【風魔法】、【魔力感知】、【魔力操作】、【雷魔法】、【重力魔法】、【氷魔法】、【雷耐性】、【身体強化】、【魔法耐性】、【毒耐性】、【回復魔法】、【風魔法】、【土魔法】、【熱耐性】、【鑑定魔法】

 称号∶【絶望を超えし者】』


 これで母さんは八級、エリーは六級か。

 二人とも本当に強くなった。


「【固定】」


 二人のステータスを【固定】すると魔力は2まで振れるようになった。

 本当にギリギリだったな。


 俺はレベルが上がったら二人に追いつけるだろうか?


「じゃあ、俺は【固定】を解除する。迷惑かけるかもだけど後のことは頼むよ。多分痛みで叫んだりするかも知れないけど、回復系のスキルがあるから死ぬことはないはず」

「まぁ、モンスターは出ないでしょうから安心して逝ってきなさい」

「その間に私達は焼肉パーティでもしてるから」


「いや、逝ってきなさいって······」


 あ、ああ。

 これは欠片も心配されてないっぽい。


 まぁ、その方が気兼ねなく解除できるからありがたい。


 正直ちょっと怖いんだよね。

 今回溜め込んだ経験値は前回よりも相当多いだろうから。


「んじゃ、【固定】解除」


 ステータスにかけた【固定】を解除すると途端に溢れ出した経験値が身体を更新し始める。


「あがっ、があああああああああああっ」


 熱い。

 身体が燃えそうだ。


 呼吸をすると肺から痛みが走る。


 息が、息ができない。

 四肢が吹き飛びそうだ。


 骨が砕けているんじゃないか?

 筋肉が引き裂かれているようだ。


 内臓がかき混ぜられているようで吐きそうだ。


 体中を針で刺されているような痛みが襲う。


 それでも身体は吹き飛んでいない。

 骨も砕けていない。

 肉も裂けていない。

 体は至って無事だ。


 ホッとする反面、絶望も感じる。

 四肢が爆散していれば死んで楽になれたんじゃないだろうか?


 骨が砕けていれば、肉が裂けていれば、死んで楽になれたんじゃないだろうか?


 生きているからこそ絶望を感じる。

 それはまだ苦しむ時間が続くということだから。


「うああああああああああああああっ」


 熱い、寒い、痛い、気持ち悪い、身体の中のものを全て吐き出しそうだ。


 脳が燃え尽きそうだ。



◇エリー◇


「ぐあああああああああああっ」


 シルの苦しみっぷりは思っていた以上だった。

 痛みで身体が跳ね回っている。


 こんなに激しいんだ。

 

――グラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラ――


「何っ?」

「地面が揺れてる······」


 何だろう。

 すごく嫌な予感がする。


 ダンジョンが揺れるなんて聞いたことない。


 何かが起ころうとしてるんだ。


 ダンジョンで何かが起こるって、そんなの······。


 真っ先に頭を過ったのは「スタンピード」。


――ゾクゾクゾク――


 悪寒が走り、背筋に嫌な汗が流れる。


 そしてそれを裏付ける様に大量のモンスターが湧き出る魔力を感知した。これは間違いない。


「エリーちゃん! これって······」

「スタンピードが起きたのかも知れません」


 サラさんもスタンピードが起きたって気付いたんだ。


 ボスの間にモンスターは1体も湧いていない。スタンピードが起きてもここは無事だ。それは良かった。


 良かったけど、全然良くない。

 外には大量のアースホーンが湧いている。


 そして何かに導かれるようにアースホーンの魔力は移動して消えていった。


 多分地上へと向かっていったんだろう。


 よりによってシルがこんな時にスタンピードが起きるなんて。


「サラさん、どうしましょう?」

「ここに居たら安全だけど······街が心配ね」


「ギルドマスターやパパ達もいるし、騎士団もいるからなんとかなるかも知れないけど······」

「あれだけ三級のモンスターが湧き出ていると持たないかも知れないわね」


 四級以下のモンスターならパパ達が何とかしてくれるはず。

 でも三級のモンスターを倒すとステータスに掛かっている【固定】が外れちゃう。


 そうなると多分、魔力が保たない。


「でも、私達も······」

「後ろからスタンピードを追いかけて何体か倒せても魔力が切れたら終わりですからね······」


 三級を数体倒したくらいではスタンピードを止められないだろうし。


「多分、ロイドさんとファングさんが上手くやればダンジョンにモンスターを封じ込める事は出来るはず」

「そうですね。それを信じて······シルが起きるのを待つしかないですね······」


 シル······。

 シルが駆けつけたらきっと解決出来るんだろうから、早く元気になって。


「エリーちゃん、こうなったら考えててもどうしょうもないから、出来ることをして次に備えましょう?」


 そうだね。考えてても仕方ない。

 パパ達を信じて出来ることをしないと。


「それで······、今出来ることって何ですか?」

「焼肉」


 あ、食べる感じなんだ。

 そうか。そうだよね。


 食べないと力出ないもんね。


 うん。大事大事。


 大事なんだけど、サラさん切替早すぎるって。


「大丈夫よ。シルが元気になったら何とかしちゃうから」

「そうですね。シルならきっと何とかしてくれるはずですね」



「ぐわぁぁぁぁぁぁぁあっ」

 すぐそばでそのシルが叫んでますけど?

 すっごいのたうち回ってますけど?


「オークナイトのお肉、切ってもらったのがあるのよ」


 すごーい。

 完全にスルーしてる。

 スルーっぷりがスゴイ。


「ぷっ」


 思わず吹き出してしまった。

 お陰で少し元気をもらえたかも。

 変に考えすぎなくて済むし。


「大丈夫、きっと大丈夫よ」

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