第32話 ザーレダンジョン最下層
19階、20階はモンスターが強すぎて上位の冒険者でも立ち入れない領域なので、冒険者に道案内をしてもらうことは出来ない。
騎士団が稀に訓練で行くことはあるらしいが、騎士団が行けるところだから大丈夫じゃないかとは思っている。
何にせよ、自分達で探索して正しい道を見出す必要があるので、どうしても時間は掛かってしまう。
そのため三人とも【身体強化】を使って19階までは走って降りていった。その甲斐あって、道を知っている19階までは半刻もかからずに到達できた。
階層をつなぐ階段同士は、そう遠くない場所にあることを最近学んだのだが、前回18階を探索した時に19階に降りる階段は発見していた。
19階には三級のダークスネークが出る。
闇魔法で視界を塞ぎ音もなく忍び寄り攻撃してくる。牙には毒もあるが、かなりの巨体のため尻尾の薙ぎ払い、胴体での締め上げ、頭での体当たり、そのどれもが致命傷になる。
暗闇が迫ってきたら接敵している証拠になる。
「エリー、これつけてみて」
そう言って念話の指輪を渡す。
「えっ、シル、これって!?」
「念話の指輪っていう魔導具で、指輪を持ってる者同士で念話が使えるようになるみたいなんだよね」
「あ、魔導具ね。そかそか。何か便利そう」
『どう? 聞こえる?』
「あ、頭の中に直接響いてくる感じなのね」
『なんか不思議な感じ』
おお、これが念話か。中々おもしろい。
「ちょっと、母さんだけ仲間はずれにしてズルいわ」
母さんが拗ねるが、同時に魔力を感知する。
「ごめん。母さんは後でね」
「仕方ないわね」
来たな。
周囲が暗闇で包まれた。
少し地面を摺るような音はするが、大分音は小さい。暗闇と相まって音だけだと距離が掴めない。
「「「【光球】」」」
今まで戦闘では活躍する機会のなかった光魔法を三人で使用する。
どういう原理なのかは分からないが闇魔法は光を吸収するようで【光球】を発動してもそこまで見通せない。
いたな。
丸見えだ。
とは言え三人で【光球】をそこかしこに浮かべるとダークスネークは直ぐ見つかった。
真っ黒な巨大なヘビがゆっくりとこちらに迫っていた。
デカいな。
頭だけで俺より大きい。
こいつが捕食するモンスターだったら人間なんか一口だ。
しかし【光球】は初めて戦闘の役に立ったのではないだろうか?
全員【魔力感知】スキルを持って入るものの視覚でないと掴めない情報もあるからね。
見えないより見える方が断然いい。
氷の魔石の魔法を使い周囲を凍らせる。
ダークスネークは属性持ちのモンスターだが、寒さには弱いようで動きを止めてくれた。
――ズドン――
【収納庫】から斧の刃型の石壁を落とし首を断ち切った。
爬虫類系のモンスターはこのパターンが嵌ると楽でいい。
【落雷】でも倒せるとは思うけど、蛇は亀と違ってかなり暴れるので凍らせる方が無難だ。
氷で頭を塞いで窒息させて倒すのも良いかもしれない。収集家に売れそうだし。
ダークスネークは倒し方が判明したので残念ながらただの大きな蛇に成り下がってしまった。脅威は全く感じないな。
三級モンスターは流石にわらわらと湧くものではないようで会敵頻度は18階よりも少ない。
暗闇さえ対策できたら案外18階よりも楽かもしれない。
そう思っていたら巨大な魔力を感知した。
ダークスネークよりも格段に大きな魔力。
「レアが湧いたか」
この魔力、明らかに二級だろう。
母さんとエリーもそれを感じ取ったのか表情が強張る。
そうして現れたのは炎を纏った巨大なヘビだった。
大きさこそダークスネークよりも二回り程小さいが、かなりの熱を放っている。
蛇ならば氷。属性的にも弱点のはずだ。
と、魔石から氷の魔法を発動するも凍りつかない。体に纏う炎で相殺されているようだ。
魔石の魔法の威力では足りないということだろう。でも、俺達は涼しくなったから良しとしよう。
二人に【氷結】を使ってもらえば凍らせることはできるかもしれないけど、まだ出来ることは色々ある。
が、次の手を打つ前にモンスターの魔力が急速に収束していた。
「下がって!」
――ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ――
炎を纏った蛇、フレイムスネークとでも言おうか。
フレイムスネークが魔法を放ち一瞬で俺達の周囲が炎で包まれた。
凄まじい熱気だ。
巨体に内在する凄まじい魔力。その魔力に物を言わせたような火力で肌が焼ける。
「【石壁】」
「【氷鳥】」
エリーが隙かさず防壁を張る。
母さんは氷の鳥を生み出すと、その鳥は炎を物ともせずにフレイムスネークにぶつかっていった。
――パキィィィィィン――
そして一瞬でフレイムスネークを凍らせたのだった。
えっ?
何だ? 今の魔法。
炎属性の蛇を一瞬で凍らせた?
俺は相殺されたのに?
相手は二級のモンスターだぞ?
つまり、母さんの魔法の威力は二級を凌駕してるってことだ。
「シル、油断しない」
「一瞬の隙が命取りよ」
「ごめん。母さん、エリー、助かったよ」
フレイムスネークが氷に閉じ込められると同時に周囲の炎は消えた。
っていうか、二人の反応が早すぎだ。
油断したつもりはなかったけど、二人から見たら俺の次の手が遅かったんだろうな。
「っていうか、サラさん。今の凄くないですか?」
「あらそう? 最近覚えたのよ」
しかし、やってて良かった耐性訓練。
耐性が無かったら一瞬で死んでたかもしれない。
ていうか母さん強っ。
一級目指してない人がこんなに強くなるってどうなんだ?
俺も早くレベルアップしたい。
二人の反応からしてまだレベルアップはしていないようだ。
つまりフレイムスネークは身動き一つ取れないほどに凍りついているが、それでもまだ死んではいないということ。
「とどめを刺すね。【熱線】」
アイアンゴーレムさえ貫通する熱線は容易にフレイムスネークの頭を貫通した。
「あらやだ。ワタクシまたお強くなってしまったみたいザマス」
「あら奥様、またお肌に張りがでてしまってますよ」
「やだぁ、モテモテになっちゃう〜。子持ちでもいいですか?」
「ハハハ、サラさんおもしろい」
えっと、何だろう。このやり取り。
ここダンジョンの19階なんだけどな。
何か今の戦闘よりダメージを受けてる気がする。
母さんやめてくれ。いい年なんだから。
とりあえずレベルアップは出来たようで何よりだ。
「あ、階段発見! シルどうする?」
「お、あったか。じゃあ降りよう」
階段を見つけられたので早速20階へと降り立った。
この階段を降りたら最下層。
そう思うと感慨深いものがある。
思えば辛いことだらけだった気がする。
スキルを得てからは······スキルを得てからも大変だったけど、何とかここまで来れた。
「まさか俺がザーレダンジョンの最下層に到達する日が来るなんてな······」
20階に足を踏み入れるとしみじみそう思った。
コツコツお金を貯めて神授スキルを授かる努力をした過去の自分を褒めてあげたい。
「まさかお肉目的でダンジョンの最下層まで足を運ぶ日が来るなんてね······」
「まさかサラさんをバカにした女を見返すためにダンジョンの最下層に到達する日が来るなんてね······」
うん。
二人ともそれぞれ心に感じるものがあるようだ。
何と言ってもダンジョンの最下層だからな。
「「勢いって怖いわぁ」」
そうだね。
二人とも完全に勢いでここまで来たよね。俺の感動を返してくれ。
でも賢明な俺はそれを口に出したりしない。二人の方が強いからな。
ボスのミノタウロスは「ボスの間」と呼ばれる所にいる。
ボスは「ボスの間」から動かないから一際強い魔力を感知したら、そこに向かえば「ボスの間」に辿り着く事が出来るらしい。
20階に出てくるモンスターはアーマーホーンと呼ばれる牛のモンスターだ。
土属性のモンスターで自らの体を固い土で鎧のように覆うが、攻撃には魔法を使わず体当たりしてくるらしい。
魔力を感知したのでそちらに進んでみる。
アーマーホーンの肉も当然美味いから積極的に倒していきたいモンスターだ。
「デカいな」
体高は俺の倍位ある。
オークチャンピオン並みだが、体長は更にその倍位ある。
鎧で覆われていることもあり横にもデカい。
こいつには生半可な攻撃は効かなそうだな。そして体当たりは致命傷になるだろう。
アーマーホーンは会敵するなり突進してきた。かなり気性は荒そうだ。
「【固定】」
氷では足止め出来ないと思われるので【固定】してみた。
――バリンッ――
しかし、角の先端が【固定】した空気を破壊した。
くそ、破られたか。
一瞬そう思ったが、破壊されたのは角の部分のみで突進自体は受け止める事が出来た。
さて、こいつは効くかな?
「【重力】」
――ドシィィイイン――
うん。効くな。
デカいやつほど効くんじゃないだろうか?
四本の足で踏ん張ろうとするもアースホーンの足の関節は変な方向に曲がり、地響きを立てて崩れ落ちた。
「ブオオオオオオ······」
足が折れて痛いんだろう。
アースホーンの雄叫びに痛みが感じられる。
今楽にしてやるからな。
「【熱線】」
熱線が眉間を貫くとビクンと一瞬震えた後、アースホーンは力尽きた。
ダンジョンが生み出したモンスターとは言え、別に恨みがあるわけでもないし甚振る趣味はない。
時々そういう冒険者もいるが、俺そういうのは嫌いだ。自分がこれまで虐げられてきたというのもあるのかもしれない。
まぁ、モンスターからしたら俺達は大虐殺者なんだろうが、俺の中で必要以上に痛めつけないという線引きはある。
今まで色んな二級・三級モンスターと戦ってきたけど、デカいやつは案外相性が良いというか戦える気がする。
きついのは断トツでオークチャンピオンだった。次いで死鬼蜂。死鬼蜂は俺の中では三級以上に思えるからな。
小さくてもスピードが速いやつのほうがキツかった印象がある。
さっきのフレイムスネークも動きはそこまで速くなかったから、戦いようはいくらでもあると思う。上から沢山石壁を落とすとか、【落雷】とか。
魔法さえ対処出来れば何とかなると思う。
アースホーンもデカくて強いタイプになる。特に脅威を感じない相手として認識した。
20階は19階よりも簡単に感じた。
暗くならない分やりやすかった。
しばらく肉を狩り続けていると、突如大きな魔力が湧いた。
明らかに二級だ。
一瞬ボスを見つけたのかと思ったが、そいつはこっちに向かってくる。
移動してくるということはレアだ。
感知した印象ではかなり大きい。
俺の数倍はありそうだ。
「とりあえず、初手で【重力】、ダメだったら【落雷】を撃つから耳塞いで」
「「了解っ」」
デカいやつにはとりあえず【重力】だな。
――ズシン――
――ズシン――
足音からして相当な巨体だと分かる。
アースホーンも俺の100倍位の体重がありそうだったけど、こいつは多分それ以上だ。
――ズシン――
――ズシン――
何で、こいつがここにいる?
姿を現したそいつの身長は俺の4〜5倍はあった。見上げるほどの巨体だ。
巨大な斧を手にした牛の頭を持つ巨人。
本来は「ボスの間」で待ち構えているはずのモンスター。
「ミノタウロスだっ!」
――ブオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ――
ミノタウロスの雄叫びで大気が震える。
凄まじい魔力が雄叫びに乗っている。
強烈に魔力を叩きつけられて、体が後退りする。心臓が握りつぶされそうだ。
飛びそうな意識の中、魔力を全力で発し、何とか意識を繋ぎ止めた。
ヤバいぞこいつ。
同じ二級でもさっきのフレイムスネークとはものが違う。
「【重力】」
流石にこの巨体に【重力】はきついようでミノタウロスの膝が沈む。
「ブオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ」
また雄叫びが上がるとミノタウロスの全身から魔力が噴き出した。
そして【重力】に抗って立ち上がった。
【魔法耐性】なのか【身体強化】なのか分からないが、どっちだ? もしくは両方か?
頼む。効いてくれ。
「【落雷】」
――ドガガガガァァァン――
「ブボボボボボボボ」
効いてはいる。
効いてはいるが、こいつ······耐えてやがる。
でも動きは十分止められている。
ならこいつで止めだ。
「【熱線】」
必殺の【熱線】がミノタウロスの頭を射抜く。
いや、射抜いたに見えたがミノタウロスは倒れなかった。
「【熱線】でも倒せないのか······」
どんなモンスターでも貫いてきた【熱線】が通じなかった。
『シル、手伝おうか?』
『いや、まだ試してみたいことがある』
【熱線】が防がれたことでエリーが念話してきたが、【熱線】は無効化されたわけじゃない。それなりに効いてるはずだ。
考えられる可能性としては魔法耐性があるか、高いHP、防御力に守られて貫通出来なかったか。
でも、ある程度魔法は効いてるようだから魔法耐性は持ち合わせていたとしても熟練度は低いと思われる。
むしろあの凄まじい魔力で防御力をかなり上げているんじゃないだろうか。
じゃあ、魔力勝負でもしてみようか。
「【反重力】」
ミノタウロスの巨体を浮かす。
あいつが見た目通りのパワータイプならこれで何も出来ないはずだ。
精々斧を投げつけてくるくらいだろう。
これでほぼこっちの勝ちだ。
あとは何発耐えられる?
「【熱線】」
【熱線】を撃つ。撃つ。撃つ。
「ブオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ」
ミノタウロスも負けじと咆哮を上げ魔力を噴き出す。
間違いない。あの魔力の噴出が【熱線】を阻んでいる。
魔力でそんなことも出来るんだな。
勉強になるよ。
ミノタウロスの必死ぶりから【熱線】が脅威なのは間違いない。
撃つ、撃つ、撃つ、撃つ、撃つ、撃つ。
どんどん【熱線】の発射間隔が短くなっていく。熟練度が上がっていくのを感じる。
撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ。
「ブオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオババッ······」
何発撃ったかは分からないが、かなりの速度で連射出来るようになるとミノタウロスの眉間を数発の【熱線】が貫いていた。
――ドシィィン――
【反重力】を解除するとミノタウロスは地響きを立てて地面に落ち、もう動くことはなかった。
「っしゃあああああああああ!!」
俺が【熱線】にこだわったのは理由がある。
攻撃した感じだと【落雷】の方がダメージを与えていたようにも思えた。
もしかしたら頭を重点的に守っていたのかもしれない。
それでも【熱線】にこだわったのは素材の状態を少しでも良くするためだ。
雷魔法は一瞬で仕留められれば素材の状態は悪くないが、全力の【落雷】を撃ち続けると火魔法で焼く以上に素材を丸焦げにしてしまう。
超高級肉のミノタウロスの肉だ。
そんなもったいない事は出来ない。
食材になる素材は倒し方も大事だ。
「ミノ肉ゲットォォォォ!!」
状態の良いミノタウロスの肉を得られたことに大変満足したのだった。




