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第31話 女の意地

 時間的に丁度お昼だったので、伯爵家でご馳走になった。とにかく肉が美味くて感動した。

 聞けばオークの肉だというのだが、料理人が【調理】のスキルを持っているらしい。


 オークの肉だから美味しいのは当然なのだが、桁違いに美味しくて今まで食べたオーク肉と同じ肉とは思えなかった。

 貴族になればこんな美味しい料理が毎日食べられるのかと思ったが、だからといってそれだけで貴族になりたいわけではない。

 お金はあるんだし【調理】スキルを持つ人を雇えばいいだけだからな。


 今の家じゃ無理だけど、王都に拠点を移した時には立派な台所のある家を借りて使用人を雇うのもありかもしれない。


「ギドさん、王都に拠点を移したら料理人を雇えるような家を借りませんか?」

「そうだね。こんなに美味しい料理を食べたらそう思うよね。うちのマーサも説得しやすくなるだろうし」

「でしたら、住居の手配は私にお任せ下さい。パーティメンバーが一緒に住めるような屋敷でも、個々に住める家でも手配致します」


「ありがとうございます。助かります。その際にはギガントタートルの売却金を使ってください」

「承知しました」


 そんな話をしていたらバルナさんが王都の住居の手配を申し出てくれたので、ありがたくその申し出を受けることにした。パーティメンバーで一緒に住むか個々に住むかはそれぞれの希望を聞いて決めることにした。


 王都は家の値段がかなり高いらしいから、地方からやって来る冒険者は大抵シェアハウスをして暮らすらしいけど、俺達はお金があるから大丈夫でしょ。


 バルナさんからギガントタートル3体分の代金を受け取ると、それをギドさんに渡した。

 各パーティへの支払はお任せして俺は久々に一人でダンジョンに潜ることにした。


――お疲れ様です!!――

「お、お疲れ様です」


 ギルドに入ると、また一斉に挨拶された。

 今やギルドの一大派閥を築いてしまったわけだから仕方ないのかもしれないが、これはこれでちょっと居心地が悪い。

 別に嫌な気はしないんだけど慣れない。


 昼過ぎからダンジョンに潜るパーティもいるが、大半は朝から潜る。

 魔力の大半を使い果たして帰ってくるので、午前中に戻ってきたとしてもその後またダンジョンに潜るパーティはほぼない。


 そうすると暇をしている十級の荷物持ちがいたりする。


 今日の目的は宝箱なのでついでに暇な十級冒険者をキャリーしてあげようと思った。

 と言っても俺も十級なんだけどね。


「大将、お先にどうぞ」

「お先にどうぞ」

「お先にどうぞ」


 適当に受付の列に並んだらどんどん前の冒険者と入れ替わり先頭まで来てしまった。


「シルフィスさん、どんなご要件でしょうか? 受付のアイシャと申します。デートのお誘いも受け付けておりますよ?」


 デート?

 あれ? 

 アイシャさんと話すのは初めてなんだけど?

 もしかして俺って今モテ期なのか?


「あ、荷物持ちを希望している冒険者っていますか? これから潜りたいと思うんですが」

「ちぇっ。残念。スルーされちゃったか。受付を通さなくてもシルフィスさんが声を掛けたら誰でも応じると思いますよ?」


 えっ、この人マジで俺を狙ってんのか?

 心臓ドキドキするんですけど。


「そ、そうかも知れませんが、やっぱり手続きをしっかりしている冒険者を優先したいと思いまして」

「流石シルフィスさんですね。今荷物持ちは5名程待機しています」


 そして一応仕事はしてくれるみたいだ。


「では、その5名を呼んできてもらえますか? 報酬は銀貨5枚。加えて自分で倒したモンスターも報酬に加えます」

「!!? 荷物持ちに倒させる? ということはキャリーする上に銀貨5枚も支払うんですか? 優しすぎて惚れてしまいます」


 うっ、破壊力抜群の可愛い顔だ。

 俺も惚れちゃいそうです。といってもこの人は俺が派閥の長だから狙ってるだけなんだよな。

 今までこんなことは一度もなかったし。


「た、多分往復で一刻程度潜ると思います。その条件で問題なければ連れてきてください。武器が無ければ貸すのでそれも伝えてください」

「承知しました。少々お待ち下さい」


 アイシャさんは直ぐに5人の冒険者達を連れてきてくれた。全員俺より若い。


「カーターです」

「ポールです」

「ナインです」

「ザックです」

「ボイドです」

「「「「「よろしくお願いしますっ!!」」」」」

「宜しく。シルフィスだ。じゃ行こうか」


 皆、元気だなぁ。

 やる気に溢れているというか。

 報酬がいいからかもしれないけどね。

 

 俺は自分に【重力グラビティ】を掛け、【身体強化】を発動し、魔石から回復の魔法を発動する。


「シルフィスさん、これは?」


 魔石から発動する回復の魔法は指向性がないため範囲内にいるものを回復する。

「この魔法は体力と魔力を回復してくれる。走って行くからついてこいよ」

「「「「「はいっ」」」」」



「すごい、全然疲れない」

「何時までも走ってられる」

「凄いです。シルフィスさん」


 5人を引き連れ5階まで来た。

 5階は九級と八級のモンスターが出る。

 ワイルドウルフとゴブリンだ。

 十級の彼等にとってはかなりの強敵だ。

 特に八級のゴブリンには普通に戦っても勝てないだろう。


 目の前にはワイルドウルフが一匹。


「よし、これを使ってモンスターを倒してみろ」

「はいっ」

 そう言ってカーターに炎嵐の杖を渡す。

 彼等の魔力では魔法を発動するのも難しいのだが、今は回復の魔法で魔力が供給され続けているので使用することが出来る。


「【炎嵐フレイムストーム】」

――ゴオオオオオオオオオオオオオオオオ――


 カーターが魔法を発動し呆気なくワイルドウルフを倒した。


「おお、レベルが上がりました! えっ、えっ、えっ、火魔法のスキルを覚えたんですけど!」

「よくやったな」


 ワイルドウルフは肉や毛皮が売れて、状態がいいと銀貨8枚くらいになる。

 今回のは売り物にならないので放置だ。


 そんな感じで順番にレベルアップを行い、全員が火魔法を覚えることが出来た。


 空間魔法を覚えさせても良かったのだが、そうすると上の冒険者から荷物持ちとして利用されるだけの未来が見えたのでやめておいた。


 火魔法だけでもそれなりに上に上がることが出来るはずだ。


「じゃ、今度は一人ずつ武器を使って倒してみろ」

「「「「「はいっ」」」」」


 途中、ゴブリンが現れた時は俺が瞬殺した。

 ちなみにゴブリンは素材としては売り物にならない。その代わり持っている剣が売れる。


「【重力グラビティ】。こうやって俺が押さえつけておくから、落ち着いて首を切れ。これはお前らが持ち帰る分だから丁寧にな」

「はいっ」


 カーターに剣を渡し攻撃させる。これは彼が持ち帰る分になる。

 ワイルドウルフは持ち帰れても1人一匹が精一杯だ。

 上手くやれば銀貨8枚が報酬に上乗せされることになる。


 全員が更に一匹ずつ倒したあとは、俺がモンスターを瞬殺していった。


「お、宝箱発見!」

 暫くすると宝箱が出現した。宝箱は俺の物だ。皆にもそう言い聞かせてある。

 

 皆が驚く中、宝箱を開けて中身を鑑定する。


『念話の指輪』


 中にあったのは二つの指輪だった。

 どうやらこの指輪をはめている者同士で念話の魔法を使うことが出来るらしい。


 これは中々便利な魔法だ。

 覚えられたら重宝するかもしれない。


 その後、しばらくして三級のタイラントボアが現れた。


「あ、肉だ」


 体高だけで俺の倍以上ある。

 ヒュージボアよりも何回りか大きい。

 当たりの部類だろう。


「うわぁ、何だこのモンスターは!」

「化物だ!」

「殺されるっ!」

「逃げなきゃ」

「ひぇえっ」


 まあ、十級が三級のモンスターに遭遇したらこうなるか。


「【重力グラビティ】。お前ら落ち着けっ」


 声に魔力を乗せて発すると落ち着いてくれた。


「よし、落ち着いたな。じゃあ耳を塞げ」

「「「「「はいっ」」」」」


「【落雷サンダーボルト】」

――ドガガァァァァァァァァン――

「ブゴオオオオオオオ······」


――ドシィィイイン――

 タイラントボアは雷に抗うことも出来ず地響きを立てながら倒れた。


「倒した! 一撃で!」

「うおっ、すげぇ!」

「流石シルフィスさんだ!」

「かっこよすぎる!」

「信じられないっ!」


「よし、じゃあ帰るぞ」

「「「「「はいっ」」」」」


 タイラントボアを収納し帰路についた。

 それぞれワイルドウルフ一匹を肩に担いでいる。中々に重量があるが誰も文句は言わない。


 体力は回復し続けてるし、何と言っても自分の報酬になるからね。


 まぁ、これで探索は楽なもんだと勘違いされたら困るが、たまにはこういうご褒美があってもいいだろう。


 ギルドに戻って精算したらタイラントボアは金貨25枚で売れた。


 やはり美味い肉はそれなりの値段で売れるんだな。

 と言ってもギガントタートルと比べたら安く感じてしまうけど。


 そこそこの値段になったので、約束していた銀貨5枚の報酬に加えて、ゴブリンの剣を1本ずつプレゼントした。


「「「「「ありがとうございます」」」」」

「感謝の気持ちがあるなら、お前らが上に上がった時、下の冒険者達に手を差し伸べてやってくれ」


「「「「「はいっ」」」」」


 今日の探索はそこそこ楽しかったし、中々いいものを手に入れたので俺としても満足のいくものだった。


◇翌日◇

 悠久の剣のメンバーは派閥の冒険者のキャリーをするということで今日は3人で潜ることになった。


 そこで、母さんとエリーのステータスを【固定】したのだが、二人ともかなり強くなっていた。


『サラ:レベル8

 HP:192

 体力:91  

 魔力:98

 筋力:90

 敏捷∶86

 頑強:89

 知能:92

 感覚:100

 スキル∶【精密】、【物理耐性】、【空間魔法】、【火魔法】、【水魔法】、【光魔法】、【風魔法】、【魔力感知】、【魔力操作】、【雷魔法】、【重力魔法】、【氷魔法】、【雷耐性】、【身体強化】、【魔法耐性】、【毒耐性】、【回復魔法】、【風魔法】、【土魔法】、【熱耐性】、【鑑定魔法】

 称号∶【絶望を超えし者】』


『エリー:レベル18

 HP:260

 体力:119  

 魔力:128

 筋力:117

 敏捷:113

 頑強:110

 知能:128

 感覚:114

 スキル∶【鼓舞】、【物理耐性】、【空間魔法】、【火魔法】、【水魔法】、【光魔法】、【風魔法】、【魔力感知】、【魔力操作】、【雷魔法】、【重力魔法】、【氷魔法】、【雷耐性】、【身体強化】、【魔法耐性】、【毒耐性】、【回復魔法】、【風魔法】、【土魔法】、【熱耐性】、【鑑定魔法】

 称号∶【絶望を超えし者】』


 ステータスの数値はエリーの方が高いのだが、エリーは子供の時にステータスを授かっているので母さんの方が基準値は高く、総合的には母さんの方が強い。


 母さんのステータスは数値的には悠久の剣のメンバーよりも高い。

 筋力的にはギドさんやファングさんの方が上かもしれないが、スキルも考慮すると今うちで一番強いのは母さんだと思う。


「今日は何階に行こうか?」

「シル、母さんね牛を食べたいわ」

「牛? そんなの食べに行けば良いんじゃない? お金あるでしょ?」

「ほら、母さんをイジメてた人の話したでしょ? 昨日その人と会ったのよ。その人ね、また母さんのことバカにしてきたんだけど、ステータス見せて見返してやったのよ」


 あ、見せちゃったんだ。そのとんでもないステータス。


「そしたらね。この前オークのお肉食べたとか自慢してくるわけ。オークなんか食べ切れないくらい倒してるって話したら、今度はミノ何とかっていう牛のモンスターのお肉を食べたって自慢してくるのよ。母さん悔しくなっちゃって、そのミノ何とかを倒してお肉を食べたいわ」

「それってもしかしてミノタウロスのこと? ミノタウロスって二級のモンスターだよ? 20階のボスが確かミノタウロスだったはず。三人で20階に行くのは無茶じゃない?」

「無茶じゃないわよ。全然余裕よ。鑑定魔法を発動し続ければ罠も見破れるし行けるわよ。エリーちゃんはどう?」

「私もミノタウロス倒したいわ。サラさんと買い物に行ってる時にその人と会ったんだけど、めちゃくちゃムカついたのよ。ミノタウロスのお肉はめちゃくちゃ高いし、殆ど流通してないから多分嘘ついてるんだとは思うけど、こっちはミノタウロス狩って見返してやりたいわ!」


 あ、そう。

 そんなにムカつく人なんだ。


 まぁ、母さんを病気に追い込んだ人なら俺も無関係じゃないからな。


「まぁ、二級なら悠久の皆も倒してるし、俺達も倒しに行きますか? 宝箱も上の階程良いのが出るような気がするし」

「ええ、行っちゃいましょう!」

「ミノタウロスぶっ倒してやるわ!」


 ただねぇ、確かミノタウロスのお肉って熟成させたほうが美味しくなるって言われてるから、狩っても直ぐに食べない方がいい気がするけど。


「じゃあ、三級以上はなるべく俺が倒すようにするけど、今日は悠久の皆もいないし、いざとなったら経験値溜めるよりもモンスター倒す方を優先して」

「わかったわ」

「もちろんよ」


「じゃあ、お肉目指して突っ走ろう!」

「「おう!」」


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