第30話 親の願い
「よし、勝った!」
いやぁ、これだけの人数を一度に相手にしたのは始めてだったし、全員を殺さないように威力を調整するのは中々難しかったけど何とか出来たな。
これで変に望まない結婚を押し付けられることもない。
一件落着だね。
ええっ?
エエエッ!!?
何故かバルナ様が片膝を着き頭を下げていた。
それを見たご家族や使用人の皆さんも一斉に片膝を着き頭を下げたのだ。
いやいやいやいや、何ですかこれ?
「シルフィス様、数々のご無礼をお許しください」
騎士団に勝つとこうなっちゃうの?
こういうもんなの?
「バルナ様、どうか顔を上げてください。無礼と言われても、何も気にしてませんから」
「私ごときに敬称は不要です」
「ちょっと、どういう事か説明して下さい。何で急に跪いてるんですか?」
「シルフィス様はご存知ないかも知れませんが、王侯貴族の世界は単純至極。力のある者が統べるのです。そして我が騎士団は完膚なきまでに打ち負かされました。貴方には我々を配下に置く権利があります」
えっ? 決闘で騎士団を倒したら貴族が配下になる?
原始的過ぎるでしょ。
「でも、何故それを俺に教えたんですか?」
教えなかったら頭を下げなくて済んだのでは?
「シルフィス様が使った雷魔法は一般的には知られていませんが最強格の攻撃魔法なのです。極々稀に神授スキルとして授かる者がいる以外は王家のみが修得する術を有する魔法です。その王家とて直系の男子のみにしか修得を許していないとされています。そんな魔法を貴方様は使われました」
えっ、雷魔法ってそんな魔法だったの?
それは知らなかった。
「最初は雷魔法がシルフィス様の神授スキルなのかと思ったのですが、それではあの圧倒的な魔力の説明が出来ません。恐らく、その魔力をもたらしているものこそが貴方様のスキルであり、雷魔法は自得したのではと推測しました」
すげぇ、あの一戦でそこまで推測出来るものなんだ。
「その通りです」
「やはり! いずれ貴方は王族さえ凌駕するでしょう。ですので私は頭を垂れました。何卒貴方様の配下に加えていただきたく。そして叶うならばギド殿を引き上げられたように我々も引き上げていただけないでしょうか」
そりゃ誰よりも強くなりたいとは思ってる。その可能性もあると思ってる。
誰よりもってことは王族よりもってことになるのか。そうなるとすごいこと考えてたんだな。
そして同じようにバルナ様も強くなりたいのか。
そのためだけに冒険者の配下になるってすごい決断だとは思うけど、それくらい強さへの渇望があるってことか。
でもそれって一級のモンスターを倒すってことだよね。
今の俺じゃ厳しいと思うけど、レベル3になったらいけるかな?
何にせよ配下になるってことなら変に利用されることはないか。
「分かりました。ただここではなんですから、落ち着いたところで話をしませんか?」
◇バルナ・ザーレ◇
「バルナ様、配下になりたいと言われましたが、私は冒険者を続けたいので貴族とかにはなりたくないんですよ」
貴族か、シルフィス様は貴族などに収まる器ではない。王になられる御方だ。
強さを求めるならいずれそこに行き着く。
「シルフィス様、私共に敬称や敬語は不要です」
「あ、はい。······ではバルナさんで」
あれだけの強さを持ちながら本当に謙虚な方だ。
「無論、シルフィス様の道を妨げるつもりは毛頭ありません。シルフィス様が望む道を進まれるならそれに私共は従っていくだけです。ザーレの街の統治が煩わしいのであればこれまで通り我々が統治致します」
「あ、じゃあ、それでお願いします」
「承知いたしました」
「それで、強くなりたいってことでしたけど、それって雷魔法を覚えたいってことですか? それともレベルの壁を越えたいってことですか?」
ちょっと待ってくれ。
その言い振りだと雷魔法を修得出来る可能性があるというのか?
魔法はレベルの低い時分でなければ修得出来ないはずだ。
「もし叶うならば両方ですが、魔法の修得が私では困難なのは承知しています」
「う〜ん。確かに難しいんですけど、可能性はあるかもしれませんね。ただ、雷魔法を修得しても熟練度を上げるのは難しいとは思いますよ」
か、可能性があるのか!?
いや、嘘を言われている素振りはない。
「修得出来るのであれば是非もありません」
「あ、いや言いたかったのは他の選択肢もあるかもってことなんです。ギドさん、ステータスを見せてもらってもいいですか?」
「まあ、シルの下につくって言うならいいか。ステータスオープン」
『ギド:レベル38
HP:178
体力:93
魔力:82
筋力:82
敏捷:82
頑強:73
知能:65
感覚:62
スキル∶【飛剣】、【魔力感知】、【魔力操作】、【身体強化】、【魔法耐性】、【雷耐性】、【氷剣】、【熱耐性】、【空間魔法】、【雷魔法】』
な、何だ?
このスキルの数は!?
空間魔法に雷魔法だと!?
「あ、あり得ない」
「ご覧のように、雷魔法以外にも空間魔法をギドさんは修得しています。雷魔法だけが選択肢というわけではないんです」
ちょっと待ってくれ。
何事もないように話してるがとんでもない事言ってるぞ。
「ギ、ギド殿、1つ聞かせて欲しいのだが、ステータスを得たのはいくつの時だろうか?」
「15ですね。成人してからですよ。ちなみに数日前まではスキルは【飛剣】1つのみでした。ステータスも40代が大半でしたね」
「数日······?」
数日でこれ程のスキルを得たと言うのか。
ステータスも倍くらいに増えているじゃないか。
何だこれは、私の常識が崩れていくようだ。
「バルナさんはレベルが高いので、ギドさんと同じように沢山スキルを得たり、ステータスを上げるのは難しいと思います。恐らくレベルの壁を越えるときは狙ったスキルを覚えられるかも知れませんが、覚えるスキルは吟味した方がいいと思います」
何だ?
まさか好きなスキルを覚えられるとでも?
「また、今の私では一級のモンスターに挑むのは難しいと思いますので、レベルが3に上がってからになるかと思います」
いや、レベル3?
たった3で一級に挑めるのか?
話の内容が無茶苦茶すぎる。
「シルフィス様、レベルが低ければギド殿の様な強さが得られるという事でしょうか?」
「そうですね。レベルが低ければ低いほど強くはなれます。ただ、その分訓練はキツイですよ?」
「不躾ながら、我が子の一人をシルフィス様のパーティに加えて頂くことは出来ますでしょうか?」
「それは出来ません。信頼出来る人以外は入れる気はないので。訓練の方法は教えますからお子さんのレベル上げはバルナさんが行って下さい」
くっ、流石に無理だったか。
いや、時間をかけて信頼関係を築けたならパーティに加えて頂ける可能性はある。
訓練方法を教えて頂けるだけでも良しとするか。
「ちなみにそのお子さんって誰にするつもりだったんですか?」
「長男のレオンです」
「その長男さんは今どちらに?」
「長男は今王都におります」
「じゃあ、無理か······」
「? どうされましたか?」
「いや、王都に行ってギガントタートルをオークションにかけてもらえたらなと思ったのですが······」
「しかし、私共の魔力ではマジックバッグから取り出せませんが······」
「そうですよね。なので一時的に取り出せる様にするくらいはやっても良いのかなと思ったんですけど、王都にいるんじゃ無理だなと思いまして」
取り出せるって、それは魔力量を増やすということか?
そんなことまで可能なのか?
いや、可能なのだろうな。
「では、私が責任を持ってオークションにかけて参りましょう」
「バルナさんでいいんですか? 一時的とは言え、お子さんの訓練がかなり効果的になりますよ?」
そうか。
そういう意図があるならば子に託すべきか。
「では、娘のソアラにお願い致します」
「ソアラさんですね。分かりました。また伯爵家で所有しているマジックバッグも持ってきてもらえますか?」
「承知致しました。サイモン」
「はっ」
「ところで、何故ソアラさんを選ばれたのですか?」
「今この屋敷には我が子は先程紹介した3人の娘しかいないのです。他は王都で暮らしております。ソアラ以外は婚約者がおりますので、家に長くいてくれそうなソアラになりました」
「えっ、ちょっと待ってください。さっきは婚約者がいるお嬢さんを紹介したのですか?」
「はい、シルフィス様と縁を結べるならば嫁ぎ先の家と多少拗れるくらい何でもありません」
先程もそう思っていたが、今はその比ではない。
「ちなみにソアラさんに婚約者が居ないのは何故なんですか?」
「はい、あの娘は私より強い男でないと嫁ぎたくないと申しておりまして、婚約者が見つからなかったのです。ですので先程紹介した時に3人の中で1番積極的だったのですよ。あんなソアラは初めて見ました」
親としてはそれだけに残念だ。
「そうだったんですね。それなりに本人の意志があったってことなんですね」
「残念ながら、これまで殿方を射止めようとしなかったツケが回ってきたようで大一番で空回りしてしまいましたが、あの娘は本気だったのですよ」
ま、親として出来るフォローはしておこう。
「旦那様、お嬢様をお呼びしました」
流石サイモン。早すぎず遅すぎず、絶妙なタイミングだ。
「お呼びでしょうか、お父様」
「シルフィス様の頼みでな。ギガントタートルを王都のオークションに出品してきてもらいたい」
「申し訳ありません。シルフィス様の頼みとあれば喜んでお引受けしたいところなのですが、私ではギガントタートルをマジックバッグから取り出せませんわ」
「あ、それは大丈夫です。私のスキルで解決します。ソアラさん、ステータスを出してもらえますか?」
さて、ここから何をするというのか?
「は、はい。ステータスオープン」
「後ろを向いてもらってもいいですか?」
「はい······」
後ろを向いたソアラにシルフィス様が近づいていく。
「ちょっと後から失礼しますね」
「ひあっ」
「(【固定】)」
後ろからソアラの耳を塞いだかと思ったら何か呟かれた。小さすぎて聞き取れなかったがスキルを使ったのだろう。
「サイモンさん、マジックバッグを貸して下さい」
「こちらをどうぞ」
「ありがとうございます」
シルフィス様は24体のギガントタートルを移し替えた。マジックバッグ間の移動は通常の倍の魔力を消耗するのだが、物ともしないらしい。
「ソアラさんも今は魔力を気にせず使えるようになっています。ギガントタートルも出し入れ出来るようになってますよ」
魔力を気にせず!?
増えたどころではなく無限だというのか?
一体どんなスキルであればそれが可能になると言うのか?
「これは私のスキルですから永続するものではありません。私がレベル3に上がる際には解除されてしまう可能性があります。また、三級以上のモンスター討伐に関与すると解除されますから気を付けて下さい」
「肝に命じますわ」
ソアラは平然と振る舞っているつもりだろうが顔が真っ赤だ。
「逆に言えば、四級以下のモンスターは100体くらいは倒しても問題ないはずです。上手く訓練すれば次のレベルアップの時はスキルを覚えたり、ステータスがかなり上がるはずです」
「そんな素晴らしいことが?」
恐らく、ギド殿は同じようにして強くなったのだろう。
「ただ、劇的に強くなる時は気絶するかも知れませんから気を付けて下さい」
「承知しましたわ」
「あ、それと私のスキルが解除されない限りソアラさんのレベルは上がりません。これはモンスターを倒しても意味がないということではなく、経験値を溜め続けられるということです。経験値を溜めれば溜めるほどレベルアップの時に強くなれますから頑張ってください」
「はい、頑張りますわ」
本当に何のスキルなのか分からないが、シルフィス様のレベルアップに大量の経験値が必要だという意味は分かった。
本来レベルアップする枠を遥かに超えて経験値を溜め続けているということなのだろう。
その後、シルフィス様の訓練方法を聞いて絶句した。
あまりにも魔力量に物を言わせた訓練だったからだ。
聞けばモンスターと対峙しながら雷、重力、氷、回復の魔石を用いて自身で魔法を食らいながら使い続けたらしい。
HPや体力も減らないらしく、そういう訓練が可能なのだとか。
火魔法は杖を持っているとのことなのだが、それも耐性をつけるために自ら火に近づいていたとのことだ。
道理でギド殿が火に強いわけだと納得した。
ただ問題は魔石を持っていない事だ。
特別な属性の魔石がダンジョンから産出するなど聞いたことがない。
当然市場にも出回っていない。
その事を伝えたら、雷の魔石を貸していただくことができた。
雷魔法はシルフィス様のパーティメンバーと悠久の剣の全員が既に覚えているから貸していただけるとの事だった。
王家の直系男子しか修得出来ない魔法を全員が修得しているパーティが二組も存在することに戦慄した。
シルフィス様は信頼がないとパーティに加えられないと仰られたが、耐性が無ければ完全に足手まといになってしまう。
最後に空間魔法を覚えたければマジックバッグに石壁を入れ、モンスターの真上から落とすと経験値を得られる事を伺った。
ソアラを一刻も早く王都に向かわせ、オークションに出品した後はダンジョンにて訓練をさせよう。
シルフィス様の依頼を達成すれば、ソアラは多少の信頼は得られるだろうか?
雷魔法と雷耐性を獲得したらパーティに加えて頂く可能性が少しは生まれるだろうか?
親としてはソアラの想いが通じることを願うばかりだ。




