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第29話 王家の魔法

「ちょ、ちょ、ちょっと待ってください。結婚なんて、お嬢様の顔も名前も知らないのに出来ませんよ」


 この展開は全く予想できなかった。


「娘を紹介すればいいのならいくらでもしよう」

「えっ、いや、そういう意味じゃなくて、そもそもお嬢様の気持ちも聞かず勝手に決めていいことなんですか?」


「そうか、シルフィスは貴族の婚姻についてはよく知らんか。その点は安心してくれ。全く問題はない」


 問題ないのか? 全く?

 それで貴族の娘って幸せになれるんだろうか?

 でも、今は貴族の娘の心配よりも俺の心配だ。


「では先ずは娘を紹介してみるとしよう。サイモン」

「はっ」

 うわぁ、止まんねぇ。

 

「ギドさん、どうしたらいいですか?」


 俺困ってます。

 どうしたらいいかわかりません。

 今回も間に入って!


「シル、真の強者は我を通す事ができる。本当に嫌なら受けなければいいよ。ただ伯爵家と繋がりを持つことが今後のシルにどう影響を及ぼすか分からないし、結婚は当人の問題だから口を挟むつもりはないよ。よく考えて決めたらいい」


 そうか。

 っていうか、繋がりで何で結婚になるんだ?

 てっきり専属冒険者として契約するとかそんなのだと思ってた。


「お嬢様方をお連れ致しました」


 はやっ。

 連れて来るの早っ。

 絶対隣の部屋とかに待機させてたよね?


「娘のソアラ、ハンナ、リエラだ。お前達。挨拶なさい」

「ソアラと申します」

「ハンナと申します」

「リエラと申します」


 お嬢様達は一歩ずつ前に進み出で順番に挨拶していった。

 美人揃いだと思うけど、結婚を勧める相手としては若いというか、まだ成人前の子もいるんじゃないか?


 っていうか、今気がついたけどバルナ様って幾つだ?

 二十代かと思ってたけど、もっと上だったりするのか?


「私の娘たちはどうだろうか?」

「皆さんお綺麗だと思いますが、結婚には早くないですか?」


「仕方なかろう。成人した娘はソアラを除いて既に嫁いでしまったのでな」


 あ、他にもいらっしゃったと。

 本当に幾つなんだろ?


「お待ち下さいお父様。てっきりギド様に嫁ぐように仰られるのかと思っていたのですが、こちらの方が嫁ぎ先なのですか?」

 1番年上のソアラ様がバルナ様に確認する。

 

 えっ? 

 つまり、お嬢様方はギドさんに嫁ぐものと思っていたと?


 バルナ様に勝ったからか?


 その態度からは結婚を受け入れていたように思える。親子程年の離れた人に嫁ぐのも厭わないってこと?

 

「そうだ。こちらのシルフィス殿()が嫁ぎ先になる······と、言いたいところなのだがシルフィス殿()は結婚はお互いの気持ちが大事だと仰られる」


 殿()

 何故急に殿?

 何か言い方も丁寧だし。


「これは早合点をしてしまいましたわ」


 嘘だろ?

 想定していた結婚相手が変わったのに何で落ち着いてるんだ?


「お前達はシルフィス殿()のことをどう思う?」

「何分存じ上げませんので、幾つかシルフィス様にご質問してもよろしいでしょうか?」


 様付けですか。

 なる程、お嬢様方が俺を雑に扱わないようにするために殿()をつけたのかな?


 これはこれで気恥ずかしい。

 様とかって柄じゃないからな。


「はい、どうぞ」

「レベルを教えて頂いてもよろしいでしょうか?」


 おっと、いきなりレベルときましたか。

 気になるところはそこなんだ。


「レベルは2です」

「2? 2ですの? 2と仰いました?」


 うーん。やっぱり早くレベル上げたくなってきたな。確かに2は低いよなぁ。

 低すぎて驚かれてるし。


「そうですね。2です」

「では、スキルは? スキルは何ですの?」


「いや、それを言いたくなくて決闘になったんですよ」

「あら、そうでしたわね。失礼しましたわ」


 まぁ、レベル2なんかとは結婚したくないだろうから今は好都合かも知れない。


「お父様。レベルは2、スキルも分からないとあってはこの方と縁を結ぶことにどの様な価値があるのか私には分かりませんわ」


 お、いいぞいいぞ。

 ソアラ様は結婚に反対なようだ。

 それにしても「価値」ねぇ。


「······シルフィス殿はギド殿よりも強いのだ」

「そんなことが!? とても信じられませんわ」


 普通に考えたらそうだよな。

 彼女たちにとってバルナ様は絶対的な存在、圧倒的な強者だったはずだ。


 それに圧勝したギドさんよりも強いレベル2の若造がいるなんて信じられるわけがない。


「ギド殿、貴殿はシルフィス殿によってレベルの壁を越えることができた。そう言っていたが間違いないか?」

「はい。そのとおりです」


「そして、貴殿の属する悠久の剣はシルフィス殿の傘下にあるというのも本当か?」

「はい、それも間違いありません」


「また、殺し合いであればシルフィス殿には勝てない。シルフィス殿は単独で二級のオークチャンピオンを倒している。これも間違いないか?」

「はい、間違いありません」


 バルナ様はギドさんから俺が強いという証言を引き出していった。


「あ、あり得ませんわ」

「他ならぬギド殿の言葉だ。ギド殿は決闘に勝つことで自らの言葉を証明すると言われていた。だから私は信じている」


「しかし、オークチャンピオンを倒したとなればその前に多くのモンスターを倒しているはずです。仮にシルフィス様に力があったとしてもレベルが2というのはあり得ませんわ」

「そうだな。その点は私も不思議に思っている。シルフィス殿、どうしてレベルが2なのか教えてもらうことは出来るだろうか?」


 まぁ、この疑問は当然出てくるよな。少しくらいなら答えておいた方がいいか?


「詳しくは言えませんが、私はレベルを上げるのに大量の経験値が必要なのです。ですので直ぐにはレベルが上がりません」

「そうか······よく分からんが、貴殿が特別だと言うことは分かった。ソアラ、納得したか?」


「頭では何とか。しかし心では受け入れてません。出来れば力を見せて頂きたいですわ」


 何かさっきも似たような流れで決闘になったなぁ。


「いえ、その必要性を感じません。と言うかもう十分でしょう。私としてもレベルとスキルだけで結婚相手を決めるような方とは結婚したくありませんし、お嬢様方もレベル2の平民と結婚したとあっては笑い者にされてしまいます。やはり結婚の話はなかったことに」


 何か話がズレていったが、紹介されても何も起きなかったということで終わりでいいだろう。

 ソアラ様以外のお嬢様方は一言も発していないし乗り気ではないということで。


「あ······も、申し訳ありません」

 ソアラ様が頭を下げて謝ってくる。


 もちろん、平民の結婚でも相手のレベルやスキルは気にする。それは一家の収入に関わることでもあるからな。


 でもなんというか、そこのみしか見てないという気がする。

 俺の価値観とは大分違うな。


 とは言え、ソアラ様に頭を下げさせるのは非常にまずい気がする。


「いえ、私の価値観では結婚は好きになった者同士がするものだと思ってますし、その上でお互いの持つ価値観というものが大事だと思っています。貴族の価値観が私には分かりませんし、やはり私などが貴族のお嬢様と結婚するというのは分不相応です。辞退させてください」


 よし、えらいぞ俺。

 ちゃんと断った。なんか良い感じで断りやすい流れになってくれて助かった。


「娘達をもって射止められなかったのでは仕方ない。次は、縁戚の娘達を紹介させてくれ」


 えっ!?

 そう来るか。

 まずいぞ。これって結婚相手を決めるまでこれ続くのか?

 

「ああ〜、すいません。必要性がないと言いましたが、やはり力を見せます。決闘しましょう。私が勝てばもう結婚の話を持ちかけないということでお願いします」


 決闘で条件つけて勝てばいいじゃん。

 これで結婚の話でこれ以上頭を悩まさなくて済む。


「いや、ギド殿よりも強いというシルフィス殿に並び立てる者がこちらには居ないのだが? 如何に決闘を挑まれたとは言え、単なる取引のような決闘ではこちらも応じようがない」


 あ、そうか。

 そもそも受けてもらえなかったら意味ないか。


「では、こうしましょう。そちらは何人でも構いません」


 一対多数ならいけるか?


「!!? ······シルフィス殿は、我が騎士団の人数とスキルを知った上で言ってそう言っているのですか?」


 えっ? 

 騎士団全員で相手するつもりなのか?

 いや、俺が言った条件だとそういうことになるのか。


「いえ、そう言えばどのくらいの人数がいるのですか?」


 そう聞き返したら、ギドさん以外の人の顔が戦慄していた。


「や······やはりご存知ない。つまり、我々ごときが何人いても関係ないと?」


 ああ、しまった。

 つまり「何人いるが知らんが騎士団相手に俺は勝てるぞ」そう言ったことになるのか。


「すいません。決してバカにする意味で言ったつもりではなかったのですが、勝つ自信はありますね」

「では、条件をつけさせてもらってもいいか?」


 まぁ、条件がつくくらいで受けてくれるならそれでいいか。


「どんな条件ですか?」

「まず、人が死ぬようなスキル、体が欠損したり大怪我するような後遺症が残るスキルは使用禁止。それで良ければ我が騎士団がお相手しましょう」


 そうか、それだけで良いなら問題ないな。

 元々そういうスキルは使うつもりはなかったし。


「それは私だけでなくそちらも同じということでいいですか?」

「無論そうだ」


「それなら異論はありません」

「では、こちらが勝った場合は私の娘を娶るということでいいか?」


 まぁ、そう言われるとは思ってけど、これってどうなんだろ?


「う〜ん、でもいいんですか? 私が負けるってことは弱いってことになりますけど。そんな男にはお嬢様を嫁がせる意味がないような気がしますが······」

「ギド殿より強いという男に嫁がせるのだ。是非もない」


 ちっ、そう上手くは行かなかったか。

「では決まりですね」


·········

······

···


◇バルナ・ザーレ◇

「では、これより銀凰騎士団対シルフィス殿との決闘を行う。大怪我や致命傷を与え得るスキルの使用は禁止する。我が騎士団が勝利した場合、シルフィス殿は我が娘を娶ること、シルフィス殿が勝利した場合、今後我が家はシルフィス殿の結婚に関与しないものとする。では、準備はいいか?」


 シルフィスの凄まじい迄の自信。

 多数を相手にしても勝てるスキルなのは間違いない。


 ギドの口振りからして、殺し合いでなければギドにも勝つ可能性があるようだった。

 オークチャンピオンを倒したというのであれば相当殺傷能力の高いスキルなのは間違いない。


 で、あればだ。そのスキルを封じれば騎士団にも勝つ可能性がある。


 身体能力や魔力、何よりも人数で圧倒的にこちらが勝る。


 三級以上の騎士団員125名。

 攻守に優れたスキル構成、高い練度と統率の取れた連携。二級のモンスターをも屠ることの出来る精強さを誇る。


 戦力としては恐らく互角。

 そこに殺傷能力の高いスキルを封じればこちらが有利だ。


 いける。勝てるはずだ。


「それでは、始め!!!」


「かかれっ!」

――応っ!!―― 


 よし、士気は十分。


「【落雷サンダーボルト】」

――ドガガガガガガガガガガがガガガガガガガガガがガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガァァァァァァァン――


「な、な、な、······」


 何という魔力。

 訓練場全てを押しつぶすような凄まじいまでの魔力。


 これがレベル2の魔力だというのか。

 あり得ない程の魔力量。


 シルフィスの魔力は、この魔力は、魔力だけなら二級モンスターさえも凌ぐ。


 これが······人が、たった一人の人間が有する魔力だというのか?


 精強な我が騎士団が······。


 一撃······たった一撃で······、たった一撃で······。


――バタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタ――


 精強な騎士団が次々と崩れ落ちていく。


 明らかに手加減されているが、間違いない。


 これは紛れもなく雷魔法。

 

 この国を治める王家のみが修得可能とされている魔法。王家を王家たらしめている最強の攻撃魔法。


 当然その修得は秘中の秘。

 王家の直系男子以外には修得を許されない魔法だ。


 当然そのスキルはレベル2で修得できるものではないはず。

 つまり神授スキルで授かったのが【雷魔法】ということか?


 それだとレベルアップに大量の経験値が必要だという理由に説明がつかないが、重要なのは王家の魔法を使えるということ、そしてこの尋常ではない魔力量。


 間違いなく、この男は······いや、このお方は国を覆し得る人物になる。


「勝者、シルフィス殿!」

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