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第28話 計算

 どうしよう。ギドさんが貴族と決闘することになっちゃったんだけどいいのかこれ?


 何で素材を売りに来ただけでこんなことになる?


「ああ、すまんなシルフィス。これは貴族としての流儀だ」

「流儀······ですか?」

「そうだ。ザーレ家は自らレベルを上げその力によって統治している自負がある。故に私は貴賎の別なく強者には敬意を払う。強者の反感を買うのは愚の骨頂だろう?」


 確かにバルナ様は最初からそう接してくれていた。


「だが、時には力を示すことも必要なのだ。誰がこの街を治めているか知らしめるためにはな」


 なる程。それが流儀と。

 お山の大将は自分だと主張するようなもんか。


「だからギドのことを無礼だ等と思ってはいないし、寧ろ私はギドのことを好ましく思っているよ。力を得ると横柄になる者が多いが彼はそうではない。だから安心してくれ。この決闘は単にどちらが上かを示すためのものだ」


 そう言うバルナ様の顔は笑っていた。

 決闘にワクワクしているのだろうか?


「もしかして、戦うことがお好きなのですか?」 

「勿論だ。そして私の強さを分かっていてなお引かなかったギドの強さが楽しみでもある」


 道理で簡単に決闘になるわけだ。


 それを分かってたからギドさんも強気だったのかな。

 いやぁ、貴族がこんなに好戦的とは知らなかった。

 いや、皆が皆そうとは限らないかも知れないけど。


「失礼ですが、レベルを伺っても?」

「失礼ではない。貴族にとってステータスは晒すためにあるようなものだ。ステータスオープン」


『バルナ・ザーレ:レベル44

 HP:421

 体力:176  

 魔力:217

 筋力:183

 敏捷:172

 頑強:150

 知能:201

 感覚:195

 スキル∶【威圧】、【火魔法】、【土魔法】、【炎耐性】』


 むしろ見せつけてきた。

「おお、ステータスが高いし、スキルが4つもある」

「そうだろう?」

 

 なる程。こうやって自慢するのか。

 貴族のステータスを初めて見たけど確かにステータスは高い。

 レベル44ということは二級の上限までレベルを上げている。


 それに魔法スキルを得るためにどれだけ研鑽を積んできたのか。


 土魔法で防御にも自信があるから【飛剣】のギドさん相手にも負けない自信があるんだろうな。


 数値的にはギドさんの倍くらいのステータスがある。


 でも基準値は低いんだろ?

 ギドさんは成人してからステータスを得たと言ってたし、基準値を掛け合わせたらギドさんの方が上なんじゃないか?


 それにスキルの数も構成的にもギドさんの方が上だ。


 しかも今はギドさんのステータスは【固定】してるから負けないだろうな。


「さて、ギド。我々よりも強いと言ったがどちらとやる?」


 スキルの【威圧】を使っているからか、それとも単に闘気が漏れ出ているのか、バルナ様の迫力が凄まじい。


「お二人一緒で構いませんよ?」

 そのバルナ様の迫力をギドさんはものともしていない。


「何だと貴様っ!! バルナ様を愚弄するか?」

 バルザックさんが吠える。


「いえ、スキルは飯のタネと言ったではないですか。闘う相手にステータスを晒すのは不利になります。バルナ様は敢えてその不利を背負われたのですから、私も不利を背負ったまでです」


「私としてはステータスを見せることでギドが身を引く機会を与えたつもりだったんだがな」

「お気遣いありがとうございます。では、私からも1つ。昨日何体ものギガントタートルを倒しましたが、その殆どを悠久の剣のメンバーの二人、または一人で戦って倒しております」


「何だと!?」

「嘘に決まっている!!」

 バルナ様の眼つきが変わり、表情から余裕が消えた。

 バルザック様は信じていないようだ。


「加えて言えば、昨日は二級のモンスターも悠久の剣5人で倒しております」


「たった5人で二級のモンスターを倒せるはずがないだろうがっ!」

「それが本当であればその余裕も頷けるが、私はハッタリは好まんのだ。一体何のモンスターを倒したというのだ?」


「ミスリルゴーレムです」


「ボロが出たな。ザーレダンジョンにミスリルゴーレムなんぞ出んわっ!!」

「私も少しガッカリしたよ」


 こりゃ二人とも信じてないな。

 とは言え、ここで【収納庫ストレージ】からミスリルゴーレムを出す訳にはいかないからな。


「言葉で幾ら言ったところで信じていただけないでしょう。自分の言葉は力で証明します。怖気づいたならどうぞ引いてください」


 ギドさん、かっこいい。

 かっこいいけど、マジでいいのかこれ?

 ま、バルナ様も単なる力比べ程度にしか思ってないみたいだし、もういっか。

 気にするのやめた。


「吐かせっ」

「では望み通り2人で相手をしようじゃないか。サイモン、ルイーザと子供たち、あとはカールを呼べ」

「はっ」


 サイモンさんとお付きの従者が駆けていった。


「ご家族をお呼びになって良いのですか?」

 ギドさん煽ってない?


「家族も皆決闘を観るのが好きでな。だが、残念ながら私と決闘しようという気骨のあるものは存外少ないのだ」

 まぁ、そうでしょうね。


「この機会に呼ばぬとあっては、後で何を言われるか分からぬのでな」




 程なくしてバルナ様のご家族とカール様がやって来た。カール様は騎士団の副団長らしい。


「まさか、お二人をまとめて相手にしようってバカがいるとはね」

 カール様はやれやれといった感じでギドさんを見つめる。


「まぁ、そんなバカは嫌いじゃないけどね」

「カール何を言うか、こいつはバルナ様を愚弄したのだぞ?」

「いや、バルザック。私も嫌いではないぞ」

「うっ」

 バルザックさんの言葉が詰まる。


「それに団長。ギドは慎重な男だ。もし愚弄じゃなくて本当のことを言っているだけだとしたらどうするんですか?」

「そんなことは有り得ん!」


「いや、でもこのギガントタートルを見せつけられるとねぇ。強ち嘘って感じもしないというか······」


 訓練場の端にはギドさんが勝った場合に買取ってもらうギガントタートル3体が並んでいる。

 待ってる間に並べておいたのだが、かなり迫力がある。


「カール、皆揃った。そろそろ始めよう」

 訓練場には伯爵家のご家族だけでなく、騎士団の方々やメイドさんたちも沢山見学に来ていた。


「はい。では、これからバルナ様、バルザック団長対三級冒険者ギドの2対1の決闘を行います」

 あ、バルザック様って騎士団長だったんだ。


「バルナ様側が勝てばシルフィスのスキルの明示、ギドが勝った場合はギガントタートル3体を伯爵家で買取ることとします。無理することなくヤバいと思ったら降参するように。それでは双方準備はいいですかね。いいようですね。では······始め」

 カール様って何か淡々としてるなぁ。

 でも、副団長なんだから凄い人なんだと思う。


 「【石壁ストーンウォール】」


 バルナ様が初手で防御用の壁を築く。

 【飛剣】の対策かな?


「ギド、死んでも知らんぞ。【獄炎ヘルフレイム】」

 バルザック様から巨大な炎の塊が打ち出される。


「バカな避けんのか!」

 しかしギドさんは避けようともしない。

 炎の塊はそのまま炎の柱にとなりギドさんを飲み込んだ。



「いやぁ、流石に熱いですね」

 炎の中から平気そうな声が聞こえてくる。


「熱いって、平気なのか!?」

「信じ難いな」


 その直後、炎の柱は一瞬で掻き消えた。


「剣? ······氷の剣だと?」

 ギドさんの周りには氷の剣が数十と舞っている。


「あれで【獄炎ヘルフレイム】を防いだのか」

「新しいスキルを身につけていたか。言うだけある。バルザック合わせろ」

「はっ」


「「【獄炎ヘルフレイム】!!」」

 バルナ様とバルザック様が同時に【獄炎ヘルフレイム】を放った。


 巨大な二つの炎の塊が打ち出される。


「【飛剣】」

 しかしギドさんの一振りで生み出された数十もの刃が【獄炎ヘルフレイム】を打ち消した。


――ズババババババババババババババン――

「くっ」

 それだけでなく、幾つもの刃が石壁を切り裂きバルザック様の腕から血飛沫が舞った。


「バルザック手数で攻めるぞ」

「はっ」


「「【火弾ファイアショット】!!」」

 幾つもの火の玉が宙に浮かび次々と撃ち出される。

 その一つ一つは俺の【火弾ファイアショット】よりもはるかに強力に見えた。


「【飛剣】」

 しかし、ギドさんは一振りで数十の刃を生む。三度振るうと全ての【火弾ファイアショット】を掻き消し、残りの刃が二人を襲った。


――ズババババババババババババババン――

――ズババババババババババババババン――

――ズババババババババババババババン――


「ぐあっ」

「くはっ」

 

 石壁は崩れ落ち、二人は幾つかの斬撃を受けていた。


「バルナ様!」

「「「お父様!」」」


 ルイーザ様と子供たちが声を上げて駆け寄ろうとするが、それをカール様が制した。


 傍目にはギドさんが圧倒しているように見える。


「バルナ様、まだ続けますか?」

 ギドさんが問いかける。

 もう勝敗は決しているようなものだ。


 攻撃の要の火魔法がギドさんに通じない。

 石壁の防御も突破されてしまう。


「何の、まだかすり傷だ」

 しかし、バルナ様はまだ諦めていないようだ。

 ここから逆転する手があるのだろうか?


「では遠慮なく。【氷剣】」

 ギドさんの真上に二本の巨大な剣が生成された。

 大きさは俺の身長の2倍はある。

 その二本の剣が振り上げられた。


「【石壁ストーンウォール】」

 慌ててバルナ様が石壁を生み出す。

 分厚くて巨大な壁だ。


「【飛剣】」

 

――ズガガァァァァァン――

 二本の剣から発せられた桁違いに大きな魔力の刃は石壁を物ともせずに破壊した。

 もはや斬撃と言うより攻城兵器の一撃だ。


「ぐはっ」

「がはっ」


 壁に隠れて外れたのか、そもそも外すつもりだったのかは分からないが、二人に斬撃は当たらなかった。


 しかし、破壊された石壁の礫に二人は吹き飛ばされていた。


 バルナ様とバルザック様のダメージはかなり大きい。特にバルザック様はバルナ様を庇って大きなダメージを受けていた。


 ふらふらとしつつもバルナ様は立ち上がる。バルザック様はもう立ち上がれないようだ。


 ようやく立ち上がったバルナ様が破壊された壁の向こうに目をやるも、そこにギドさんの姿はなかった。


「まだやりますか?」


 後ろからギドさんが声を掛ける。

 ギョッとして振り向いた次の瞬間、バルナ様は氷の剣で囲まれていた。


「いや、参った。我らの負けだ」


「勝者ギド」

 カールさんが淡々と勝者を告げるとバルナ様を覆っていた氷の剣は一斉に地面へと落ちた。

 その際に幾つかの剣がバルザック様に当たって鈍い音がしていたけど見なかったことにしよう。


「バルナ様、大変。【治癒キュア】」

 ルイーザ様がバルナ様に駆け寄ると回復魔法をかけた。


 ちゃんと回復の手段があったんだな。

 流石貴族だ。

 もしものときは俺が回復の魔法を使おうかと思ってたけど、余計な心配だったようだ。


 もしかしたらルイーザ様はギドさんを治すために呼ばれたのかも知れないな。


·········

······

···


 あ〜、気まずい。

 誰もがバルナ様達が勝つと信じて疑わない中、ギドさんが勝ったもんだから雰囲気が暗いのなんの。しかも圧勝してたからね。


 でも、支払いもまだだし帰るわけにもいかず、サイモンさんに案内されて客間でお茶をいただいていた。


「ギドさん、勝っちゃいましたね」

「そうだね。シルを守らなきゃと思ったら熱くなっちゃってね。つい」

 ついって。ついで貴族にケンカ売ったらいかんでしょ。


「決闘になったのは計算だったんですか?」

「まぁ、そうだね。バルナ様は戦いを挑んで来るやつを好む性格だし、決闘に持ち込めばギガントタートルを3体買ってもらえるんじゃないかとは思ってたよ。ギガントタートルの売値が予想外に高過ぎて3体も買取って貰えないんじゃないかと思ってたから上手くいって良かった」


 やっぱりわざと決闘に持っていったんだ。

 何かギドさんらしくないなとは思ったんだよね。


「それで、貴族に勝っちゃったわけですけど、この場合どうなるんですか?」

「それは僕も分からない。平民が貴族に勝ったという話は聞いたことがない。普通はある程度強くなると騎士に取り立てられるけど、この場合もそうなるのかな? 僕は騎士になるよりも一級を目指したいけどね」


 何か嫌な予感がするもののなるようにしかならないからな。


「でもお陰で一級以上の力があることが分かったし、力があれば大抵のことは何とかなるから大丈夫でしょ」


 うわぁ、めちゃくちゃ前向きだ。

 やっちまった本人が一番前向きだ。


 ていうか、二級相当の二人に勝ったから普通に喜んでるよね?


 そんな話をしていたらサイモンさんに呼ばれて再びバルナ様の所へと案内された。




「······」


 案内されたものの空気重いんですけど。

 誰も口を開かないし。


 まぁ、怪我はバッチリ治ったようだしそれは良かった。


 とは言え、早く喋って欲しいなぁ。

 こっちから口を開くわけにはいかないし。




 暫く経ってバルナ様は漸く口を開いてくれた。

「······ギド。完敗だった。君は嘘を言ってなかったのだと今なら分かる。疑って悪かった。本当に倒したのだな。ミスリルゴーレムを」

「はい。嘘ではありません」


「一応聞くが、騎士になるつもりはないか?勿論、悠久の剣の皆もだ。もし受けてくれるのなら騎士団長として迎えたい」


 ちなみに、この場にはバルザック様はいない。いてもギドさんに対する抑止力にはならないし、さっき揉めたからね。


「申し訳ありません。我々はシルフィスについていくと決めております」


「まぁ、仕方ない。私が君でも断ったと思うから気にしなくていい。いい意味でも悪い意味でもこの世は弱肉強食だ。強者は我を通す権利がある。弱い者の下につくことなど普通はしない。だからこそ幼少期から訓練に明け暮れてきたのだがな······」

 

 そうか、バルナ様にとって敗北とは人生そのものの否定に近いのかも知れない。


「ギド、君は鬼神の如き強さだった。だからこそ不思議でならない。シルフィスは本当に君よりも強いのか?」

「そうですね。もし、ルールを定めた模擬戦などであれば私が勝つこともあるかも知れません。しかし、殺し合いならばまず勝てません。彼は単独で二級のオークチャンピオンを仕留めています」


「なんと······オークチャンピオンをだと? 信じ難いが······ギドの言葉だ。信じよう。となると決闘の相手がギドだったのは運が良かったのかも知れないな。はは」


 バルナ様は一瞬遠い目をして現実から逃避したようだった。


「しかし、貴族の手に負えない強者が野放しで存在するのは国にとって脅威なのだ。申し訳ないがある程度の繋がりを持たせてくれないだろうか?」

 まぁ、言いたいことは分かる。

 でも問答無用で騎士団に入れられるとかじゃなくて良かった。


「繋がりって何でしょうか?」

「シルフィス、私の娘を嫁がせてもらえないだろうか?」


 はっ? 嫁ぐっ?

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