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第24話 美容目的

 リガデルに勝利した後、沢山の冒険者が派閥に加わりたいと申し込んできた。


 ただ、俺は夜通し見張りをしていたので眠たかった。

 体力は【固定】していて疲れないはずなのに頭の疲れは取れないらく、眠気は感じるのだ。


 派閥のことはギドさん達に任せて俺は休ませてもらうことにした。


 俺が派閥の長か······と自分の状況を不思議に思いつつ帰途についた。


 全く実感はわかないが多くの冒険者に影響を与える立場になったんだと思う。


 まだ良くわからないけど、リガデルみたいな奴にはならないようにしようと心に決めた。


 そしてベッドで横になりながらどんな派閥にしたいか考えていたらいつの間にか寝てしまっていた。



◇翌日、聖神教会◇


「······ってことがありまして、何か、よく分からないうちに派閥の長になっちゃったんですよ」


 司祭様にいつものように報告をすると笑ってくれた。俺なんかの話を楽しんで聞いてくれるから、ついついまた話したくなるんだよな。


「はははっ、シルフィス君らしいですね。それで派閥はどうするのですか?」


「そうですね、まだよく考えてないですけど底辺冒険者に優しい派閥になるといいなと思ってます」


 俺みたいに辛い思いをするやつが減ってくれたらなと思っている。


「へぇ、それは良いことです。上が変われば派閥も変わります。上から搾取されなければ下から搾取する冒険者も減るでしょう」


「そうですね。なので派閥の冒険者には下から搾取するのを禁止したいと思っています。その代わり生活が厳しいならレベルアップを手伝って自立出来るように助けたいと思います」

「素晴らしいですね。派閥に入るのを希望する冒険者はより一層増えるでしょうし、ギルド全体が変わるかも知れませんね。冒険者の質が上がれば街の物流は増え、消費も多くなり、活性化します。いい事だらけですね」


 そうなってくれたらいいな。

 飢えで苦しむ人は少なくなるだろうか。もしそうなったら嬉しい。


「ただ、気になってることもあるんです」

「ふむ。スタンピードですね?」


 まぁ、司祭様はお見通しだ。


「はい、今までの流れからして、もしスタンピードが起きるとしたら、それって俺が原因になるんじゃないかなって最近考えてます」

「······オークジェネラルやオークチャンピオンが出現してはそう考えるのも無理はないですね。······では、今後ダンジョンに潜るのは控えるのですか?」


 街のことを考えるなら控えるべきなのかも知れない。

 既にお金は十分稼げているし、生活のためにダンジョンに潜る必要には迫られていない。


 でも、だからといってダンジョンに潜らないのかと言うとそんなことはない。


「いえ、俺はどうやら我儘な人間のようです。強くなる為にダンジョンにこれからも潜りたいんです。スタンピードが起きても問題ないくらい強くなって、他の冒険者も強くして、街を守ってみせます」


 俺の答えを聞くと司祭様は大きく笑った。


「はっはっはっ。これは愉快な答えです。震えましたよ。どうぞこれからも気にせずダンジョンに潜って下さい。スタンピードは過去至る所で起こってきました。スタンピードを止めるために任じられているのがギルドマスターです。バーンズがいますからシルフィス君は安心してダンジョンに潜って下さい」


 そうなんだ。

 ギルドマスターってスタンピードを止めるための盾だったんだ。それは知らなかった。


 道理であの人強いわけだよ。


「ありがとうございます。気が楽になりました」


 毎度思うけど話せて良かった。


「ところで、今は魔力のブレ幅はどれくらいになっているんですか?」

「そうですね。素の状態で20半ばまでブレてる感じですね。今はパーティメンバーや悠久の剣の皆さんのステータスを【固定】しているのでブレ幅は30を越えてます」


「結構進みましたね」

「はい。やはりオークチャンピオンを倒したこともあって相当経験値が蓄積されたようです」


「しかし、前回レベルアップしたときも死にかけたと言ってましたが、相当経験値を溜め込んでいるようですし次はその比ではないのでは?」

「そうですね。それを考えると怖さもありますが、回復関連のスキルもありますから何とかなるのではと期待してます」


「あまり無茶をしないでくださいね。少なくとも森の中で一人で気絶する、なんてことにならないように気を付けて下さい」


 それを言われると耳が痛い。


「これは手厳しいですね。勿論気を付けます」



◇冒険者ギルド◇


 司祭様に報告を終えた後、冒険者ギルドに向かった。今日は皆で今後派閥をどうしていくか話し合う予定だ。


――おはようございます!!――

――おはようございます!!――

――おはようございます!!――


 ギルドに入ると大勢の冒険者から挨拶が次々と飛んできた。


 お、おぅ。


「おはよう···ございます······」


 今まで冒険者から絡まれることはあっても挨拶をされることはなかった。だから正直戸惑う。


 すると一人の冒険者が俺の前に進み出てきた。


「今まで大変申し訳ありませんでした!!」

――申し訳ありませんでした!!――


 その冒険者が大きな声で俺に謝罪をすると、他の冒険者達も一斉に頭を下げる。


 その声の大きさに冒険者ギルドが揺らいだようにさえ感じた。


 何だこれ?


「シル、この冒険者達は君に今まで酷いことしてきた奴ら。んで、派閥に入りたいんだって」


 ギドさんが戸惑う俺を見て状況を説明してくれた。


「あぁ······」


 そういうことか。

 それで筋を通すために先ず謝ってきたと。


「あぁ、いいですよ。昨日も言ったけど今までのことは水に流します。謝罪は受け取りました」


 そう言うと、冒険者達の緊張は解け、肩から力が抜けたようだった。


「派閥に入ってくれるのであれば、タダでキャリーします。その言葉にウソはありません。但し、自分よりも下の冒険者達から搾取したり軽んじたりすることは二度としないで下さい。僕も皆さんから搾取はしません。それがキャリーする条件です」


 冒険者達から歓声が上がる。


「ありがとう、シルフィス」

「俺はこんないい奴を馬鹿にしてたのか」

「今まで本当に悪かった」

「俺はなんて見る目がなかったんだ」

「恩に着る」

「ああ、ありがとう」


 色々言葉をかけられたが、いかんせん人数が多すぎてギルドが混雑しすぎている。


 派閥への加入希望者を伴ってひとまず訓練場へと向かった。


 広い訓練場が埋め尽くされるほど冒険者で溢れていた。


 一体何人いるんだ?


「シル、昨日あれから加入希望者が殺到してね。話を聞きつけた冒険者が次から次へとやってきて結局酒場で夜を明かしてしまったんだよ」


 昨日俺が帰った後そんなことになってるとは。


 しかし、これだけの冒険者が仕事しなかったらそれはそれで問題だよな。直ぐに仕事に行ってもらわないと。


「じゃあ早速、キャリーに行ってもらいましょう。と言っても俺達だけでこの人数は捌けないので、ランクの高いパーティの皆さんに手伝ってもらいます。上級のパーティと下級のパーティ幾つかでグループにして、グループ単位でキャリーに行って下さい。上級パーティの皆さんは明日俺達でキャリーします。今後キャリーの際に、倒したモンスターの売却金はグループ内で均等に分けるようにしましょう。そして派閥のメンバーはお互いにレベルの壁を越えられるように助け合っていきましょう」


――応っ!!――


 皆威勢良く応える。


「ん、シル。それってキャリーするのは一回だけじゃないってことかい?」

「はい、そうです。派閥の皆さん全員にどんどん強くなってもらいたいです。皆で強くなって、皆がいい暮らしが出来るようにしましょう」


 皆から歓声が上がる。

 冒険者は力が全て。弱い者から搾取し、強い者から搾取される弱肉強食の世界で生きている。


 だから強い奴らは下を好んで強くしたがらない。


 俺はそれを変えたかった。

 今までとは違う考え方だが、皆賛同してくれたようだ。

 

 何故ならここにいる多くが弱者だからだ。


 グループ分けはロイさんが適当に上級の冒険者達を何人か指名して割り振りを行わせた。

 下級の冒険者達は意気揚々とダンジョンに潜っていった。



 派閥の皆をダンジョンに送り出した後、酒場でご飯を食べながら今後の派閥のことについて悠久の皆と話し合った。


 と言っても、組織的な小難しいことは悠久の皆に丸投げだ。


 まぁ、勝手に俺は担ぎ上げられた訳だから丸投げしても問題はない。

 俺は自分のやりたいこと、皆でレベルの壁を越えて強くなっていきたいという希望を伝えた。

 それを実現するためにどうすればいいか、どのパーティを優先して強くしていくかとか、その辺のことは悠久の皆に考えてもらえばいい。派閥内の立場とか色々あるからな。


 その代わり俺も変にああしろ、こうしろ、と細かい事は言わない。


 そして俺は次に大事なことを伝えた。


「あと、俺は次にレベルが上がったらザーレを出て王都に行こうと思います」


「おいおい、急だな。せっかく面白くなってきたと思ったのにこの街から居なくなっちまうのか?」

「俺のレベルアップは時間がかかるのでそんな直ぐには上がらないんですけどね。でも遅くとも1ヶ月以内には上がると思います」


「大分遅ぇな」

 ファングさんのツッコミに、はははと笑いが起きる。


「でもその分、次のレベルアップで俺はかなり大きく成長すると思ってます。それに皆も実力的には三級冒険者を大きく越えてますよね?」

「そうだね。マイデルと戦って大分力の差を感じたよ。ステータス的には完全に子供扱い出来た。8つスキルを覚えた皆はもっと強いだろうね」

 ギドさんが羨ましそうに他のメンバーを見る。


「いやいや、お前が言うな」

「どう考えてもお前が一番強くなってるだろ」

「攻撃系の魔法を覚えてない俺に言うか?」

「お前のスキルの相性エグいからな?」


 そして皆から突っ込まれていた。


「まぁ、それもあって早く王都に行って一緒に上を目指しませんか?」

「シル、僕らに気を遣ってないか? 確かに僕らはここよりも王都に行ったほうが強くなれると思うけど、君はここに居ても強くなることに何の不都合もないだろ?」


「気なんか使ってません」

 確かに俺が強くなる分にはザーレを離れる必要はない。でも王都に行きたいのは理由がある。


「······俺って低レベルじゃないですか。でも早くレベルアップしたいんです。強いモンスターを倒して経験値を沢山稼げれば時間を短縮出来るんです。俺は早く十級から抜け出したいんですよ!」


 俺にとってはかなり切実な問題だ。

 未だにレベル2だからな。


「ぷっ」


 誰かが吹き出すと皆が一斉に吹き出した。


「くっはっはっはっ。そういう事なら俺等の大将の望みを叶えてやらねぇとな」

「そういう事なら仕方ねぇ」

「ははっ、付いていくしかねぇなぁ」

「そうだよなぁ。男なら早く十級を抜け出してぇよなぁ。くっはっ」

「おい、お前等笑い過ぎだぞ。シルは真面目に話してるんだぞ。ぷふっ」


 ギドさんが最後吹き出した後、もう一度皆に笑われた。


「まぁ、そういう事なんで早い方がいいんですよ。そのためには悠久の皆にも強くなってもらわないと困るんです」

「まぁ、分かったよ。だがやることが沢山ある。僕達が王都に行った後この派閥をまとめるリーダーも必要になるし、派閥の奴らが困らない様になるべくキャリーしてやらないとだしな」


 派閥をまとめるのって色々と大変なんだなと思った。そう考えると力で押さえつけるのって簡単なのかも知れない。


「あと、エリーは付いてくるだろうがサラさんはどうするんだ? 一級は目指してないって聞いたぞ?」

 ファングさんが質問してくる。

 ちなみに当の二人は今日は休みだ。二人で買い物に行くと言っていた。


「そうですね。母さんは一級は目指してないですし、ザーレに残ると思います」


「あの人、完全に俺より強いけどな」

 ボソッとアークさんがこぼす。


 ステータスに表示されるスキル的には、母さんはアークさんの上位互換になっているからな。

 しかもステータスの各数値もアークさんよりも上だったりする。ステータスは基準値が違うから数値だけで強さは測れないけどね。


 昨日の決闘を見た母さんの感想は「マイデルとリガデル弱っ」だった。


 どちらの試合も圧勝だったから弱く見えてしまったのかも知れないけど、似たような勝ち方が出来ると思ったらしい。


「あら、シル、皆さん、お元気?」

「やっほ〜」


 噂をしていたら当の本人とエリーがやって来た。

 どうもいい買い物が出来たようで二人とも上機嫌だ。


「お昼食べに来たのよ。どうせなら皆と一緒にと思って」

「エリー、勿論大歓迎だ」

 ギドさんが凄く喜んでいる。


「サラさん、今日はまた一段と美しいですね」

「あらやだ。本当のこと言われると照れるわぁ」


 おいおい、そこは否定しないのか。

 ファングさんのはお世辞だからね。


 でも、実際母さんは昨日のレベルアップで異様に若々しくなっている。今は服も綺麗に着飾っていることもあり20代前半と言われても不思議ではない。

 少なくとも成人した子供がいる母親には見えない。スタイルも良くなってるし、髪も肌もツヤツヤだ。


 息子の俺から見ても美人に見えるからな。

 案外お世辞ってわけでもないのか?


 あれ? ファングさんて結婚してたっけ?


「丁度良かった。今母さんの話をしてたところだったんだけど、俺等が王都に行くってなったら母さんはどうする? 前はザーレに残るって言ってたけど······」

「そんなの一緒に行くに決まってるじゃない」


 流石母さん。俺にはあなたが読めない。

 前はそんなこと言ってなかったよね。


「えっ? そうなの? 私には一級は無理〜とか言ってなかった?」

「ん? 一級は別に目指してないわよ」


「だったら何で······」

「何でって、そんなの美容のためよ」


 美容だと?


「エリーちゃんだって凄くキラキラしてるじゃない。悠久の剣の皆さんも若々しくなってるし。シルと一緒にダンジョンに潜ると美容にいいのよ。シルだって凄くカッコよくなってるわよ」

「そ、それはどうも」


 えっ? なに?

 他の冒険者が命を賭けて金、強さ、名誉を求めてダンジョンに潜る中、この人は美容のために命を賭けてるってこと?


「お金も沢山稼げてるし、王都に引っ越したって問題ないでしょ。それならシルに付いてくに決まってるじゃない」


 あ、そう。

 そうっすか。


 まぁ、確かに普通は王都に拠点を移すってのは人生の賭けだ。そうそうできることじゃない。息子が行くからついていくなんて理由では行けないのだ。


 しかしまぁ、美容のために王都に行く人は母さんくらいだろうな。


 と言うことはザーレを離れても母親同伴の十級冒険者ってことになるのか。


 はぁ、まぁ仕方ない。

 母さんの美容のためだからな。


「分かった。一緒に王都に行こう」

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