第23話 派閥を賭けた戦い
ギドさんは強くなった。
三級に昇級したというマイデルが全く手も足も出なかった。
ギドさんだけじゃなく悠久の皆さんは全員が相当強くなっている。
一番攻撃力のないのはアークさんだけど、そのアークさんでもマイデルには勝つと思う。
「おい、マスター。ギドは本当に四級なのか?」
そう言ってギルドマスターに詰め寄ったのはマイデルの兄貴分のリガデル。この街で唯一の三級冒険者だった男だ。
「そうだな。ギルドの記録上は間違いなくそうなっている。まぁ、今朝ダンジョンから戻ってきてそのままマイデルに因縁をつけられたようだから、今調べたら三級に上がっている可能性はあるかもな。で? 何が言いたい?」
ギルドマスターの目が鋭く光る。
リガデルは凄まれて一瞬たじろいだ。
「三級と四級じゃ事情が変わってくるじゃねぇか。しっかり調べときやがれ」
「何故だ? 今回の賭けの仕切りはギルドじゃねぇだろうが。自分が大損したから俺にいちゃもんつけようってのか? 喧嘩なら買うぞ?」
「むぅ······」
賭けはリガデルの派閥が仕切っているから手数料は入る。派閥のトップであるリガデルにもそれなりの金は入るはずだ。
それでもいちゃもんをつけてくるのは自分もマイデルに賭けてたんだろうか?
「ギド、実際どうなんだ?」
「お察しの通り、今回の探索で悠久の剣のメンバーは全員レベルの壁を越えましたよ」
ギルドマスターも分かっていたようで、やはりなという顔をしている。
「そんな······ギドが三級に上がってたのを知ってたら俺は決闘をしなかった。俺は騙されたんだ」
今度はそれを聞いたマイデルがゴネ始めた。
「知るか。そもそもギド達が手続きする前に絡んだと聞いてるぞ。自業自得だろうが。今のは聞かなかったことにしてやるが、決闘を穢すなら俺が許さんぞ」
マイデルは落ち込んでいるが、三級ともなれば冒険者でなくとも食っていける。騎士に取り立てられることだってあるわけだし。
ただ、パーティメンバーには迷惑をかけるだろうな。
今回の決闘で冒険者ギルドで強者は誰なのか明らかになった。マイデルの派閥の奴らはもう大きい顔は出来ない。
今までは誰が権力を持とうが俺には関係なかった。派閥関係なく全員から蔑まれていたし、派閥のことなんてよく分かっていなかったからな。
でも今は、ギドさんの派閥が力を持ってくれたらギルドはマシになるんじゃないかと思うし、マイデルに勝ってくれて良かったと思う。
ああ、そうなるとリガデルは今後甘い汁を吸えなくなるから文句を言ってるわけか。
「おい、ギド。こうなりゃ『戦争』だ」
「断る。下が迷惑を被るだけだ」
「こっちは次の頭のマイデルを潰されたんだぞ? どう落とし前つける?」
「いや、逆だろ? マイデルは俺達の頭のシルを貶した。だから決闘でその落とし前をつけたんだ。次の頭がいなくて困るなら勝手に別のやつを選べ」
「てめぇ、俺に逆らおうってのか?」
「逆らうも何も、俺より弱いやつに従う必要がない。お前には義理も恩もないしな」
ここで言う戦争というのは決闘の規模を大きくしたものだ。今回で言えば派閥同士の総力戦をするぞとリガデルは言っているわけだ。
「リガデル。正気なのか? ギドたちは三級が5人だぞ。普通に考えて勝ち目が目ぇだろ。損害が大きくなるだけだ。ここは引いとけ」
見かねたギルドマスターがリガデルを諭す。ギルドマスターとしても戦争は避けたいんだろう。
「ふざけるなっ! 俺の計画をぶち壊しやがったんだ。許しちゃおけねぇ!」
リガデルは完全にキレている。
こうなった相手に道理は通じない。
「ギド、もう行くぞ。こうなったら話すだけ無駄だ」
「ああ、そうだな」
ロイさんとアークさんがギドさんのもとに行き連れて行こうとする。
「逃げるのか! 腰抜け共がっ!」
リガデルは何とか引き留めようと挑発する。が、その辺はロイさん達がサラリと受け流す。
「何とでも言えばいい」
「負け犬は良く吠えるもんだからな」
そうして三人はその場を立ち去ろうとした。
「クッソ野郎どもがぁ!!!」
リガデルが堪えきれず、剣を抜いて切りかかろうとする。
「【結界】」
――キィィィン――
――ドガッ――
リガデルの剣が【結界】で防がれるのとほぼ同時にギルドマスターがリガデルを地面にめり込ませていた。
ギルドマスター強ぇ。
三級冒険者を一瞬で組み伏せた。
「クソッ、離しやがれ。この馬鹿力がっ」
ギルドマスターに抑え込まれながらもリガデルは悪態をつく。
「大人しくしろ。リガデル!」
ギルドマスターが一喝するもリガデルは止まらなかった。
「てめぇらも、『出遅れ』の下につくとか訳の分からねぇこと言いやがって。母親同伴じゃねぇとダンジョンに潜れねぇビビリ野郎じゃねぇか」
あ、ヤバい。
三人とも一斉にキレた。
相手にせず立ち去ろうとしていたのに、一斉に反転して殴り掛かろうとしている。
「【固定】」
咄嗟に三人の周辺の空気を固定した。
俺もギドさん達のもとに行く。
「止めに行った人が殴りかからないで下さいよ」
ロイさんとアークさんをジト目でみる。
「ギドさんも。決闘以外で冒険者同士の争いは御法度でしょう」
咄嗟に空気を【固定】したので、ギルドマスターとリガデルも含めて五人の口の周りも【固定】してしまっており呼吸が出来ていない。
みるみる五人の顔が赤くなってきたので【固定】を解除した。
「はぁ、はぁ、『出遅れ』、てめぇ何しやがる!!」
リガデルは相変わらずだが、俺が割って入った事でギドさん達は落ち着いたようだ。
「シル、すまない」
「悪かった」
「悪い、ついカッとなっちまった」
「反省してるなら良いです。俺のために怒ってくれたようですし」
三人が素直に謝ってくたので良しとする。
まぁ、冒険者だからな。多少荒っぽいのは目を瞑らないとだ。
「ギルドマスター、巻き込んですいません」
「まぁ、今のは止むを得ん。気にするな」
咄嗟に【固定】するときも口の周りは【固定】しないように練習しておこう。
「ああ? 『出遅れ』! 無視してんじゃねぇよ」
無視無視。
「それで俺よく分かってなくて教えて欲しいんですけど、戦争ってどんな勝負になるんですか?」
「そりゃ、派閥の総力戦になるな。お互いの合意が取れれば細かいルールを加えることは可能だ」
「なる程。調整は可能と。ちなみに派閥ってギルドに登録したり申請したりする必要があるんですか?」
「いや、無いな。あくまで冒険者間の繋がりに過ぎん」
そうか。今まで縁が無かったものだからよく知らなかったけど、ギルドへの登録はないのか。
ということはあくまでも義理や人情、利益、恐怖等での繋がりが派閥ってことか。
「ありがとうございます」
「『出遅れ』、勝負受けろや」
「ああ。悠久の剣の派閥の長になったからにはここまで言われて俺も引けない」
「おら、バーンズ。『出遅れ』が受けたぞ。さっさとどきやがれ」
ギルドマスターの下からリガデルが吠える。
抑え込みが解かれると悪態をつきながらリガデルは立ち上がった。
「シルフィス。戦争ってのは下の冒険者程被害が大きくなる傾向にある。それに負けた方の冒険者は街を出ていくやつが大半だ。堪えちゃくれねぇか?」
「大丈夫です。そんなことにはなりませんよ」
俺に何が考えがあると察したギルドマスターはニヤリと笑った。
「そうか。じゃあ任せよう。好きにしろ」
俺は観戦していた冒険者達に向かって話しかけた。
「皆聞いてくれ。今見たようにリガデルの派閥と戦争することになった。だが、はっきり言って俺達の相手じゃない。俺達は二級モンスターのオークチャンピオンを仕留めたからな」
そう言って。マジックバッグから出すフリをして【収納庫】からオークチャンピオンを引っ張り出す。
このマジックバッグの存在がバレても、もう狙われることはないだろう。
オークチャンピオンに訓練場がどよめいた。
ギルドマスターも、リガデルも相当驚いた顔をしている。
「そこでだ。無駄な犠牲を減らすためと、圧倒的に勝つために派閥に加わってくれるやつらを募集する。俺の派閥に加わってくれたやつはタダでキャリーしてやる。キャリーした後、派閥に残るも去るも自由だ。今まで俺を不当に扱ったやつらも過去のことは水に流してやる。リガデルの派閥のやつらも大歓迎だ。約束は必ず守る。ついでだからギルドマスターには証人になってもらおう」
「ほう、そう来たか」
――ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア――
訓練場が歓声で湧いた。
「さて、リガデル。戦争はいつ始めようか?」
「えっ······あ······」
オークチャンピオンを見て以降、怒りはどこかに飛んで行ったようだ。
すっかり尻込みしているように見える。
「俺は別にいつでもいい。ただ、忠告しとくと後になればなる程こちらの派閥の戦力は大きくなると思うぞ」
「う······うむ」
リガデルは口籠って答えない。っていうかもう戦争する気無いだろこいつ。
「別に今からでも俺は構わない」
「い、今からは流石に無理だ」
「じゃあ、いつやるんだ?」
「す、少し考えさせてくれ」
「じゃあ決まったらギルド経由で連絡しろ。3日経って何も連絡なければビビって逃げたと判断する」
「だ、誰が逃げるか!」
「そうか、俺の目にはビビってるように見えたもんでな」
「ほざくな」
まぁ、これでビビって逃げても構わないし、戦争になっても構わない。
何人がリガデルの派閥に残るか分からないがな。
「俺も、俺もタダでキャリーしてやる。お前ら俺の派閥に来い」
リガデルも冒険者達に向かって声を張り上げる。
おお、随分と気前がいいな。
一部の冒険者が反応したが、歓声はさほど上がらなかった。
まぁ、リガデルに二級のモンスターは倒せないだろうからな。戦争をする前から勝敗は明らかだ。
とは言え、俺のことを気に入らない奴らも沢山いるだろうし、そんな奴らはこれを機にリガデルの派閥に行くかも知れない。
それはそれで面倒な奴らを一掃するチャンスだから寧ろ好都合だ。
「ところで一つ聞かせてくれ。あんた騎士に取り立てられるんだろ? それっていつなんだ?」
「い、5日後だ」
思ったより直ぐじゃないか。
「じゃあ、それまでに派閥の奴らを全員キャリーするのか? その上俺達との戦争もするんだろ? 相当忙しいな」
「お前には関係ねぇ」
「いや、あるだろ。じゃあ戦争は4日後でいいな?」
「い、いや······戦争はヤメだ。このままだと戦争の規模は相当大きくなる。下の奴らへの被害がでかすぎる」
お前がそれを言うか?
まぁ、冒険者達の反応は薄かったし勝てる見込みがないのは頭で分かってたんだろう。
もし、戦争になればリガデルや上の奴らだけ一方的にボコるつもりだったけと、考えを変えるならそれでもいい。
「『出遅れ』、お前のレベルは幾つだ?」
何だ? 急に。
「レベル2だ」
「なんだ、カスじゃねぇか。嘘じゃねぇだろうな」
「ああ、嘘じゃない。お前は騙すほどの相手じゃないからな」
「カスが。調子に乗りやがって。戦争はやめるが、代わりに頭同士で決闘だ。負けたほうが勝った方の下につく。派閥を賭けて決闘しろっ」
俺に狙いを絞ってきたか。
まぁ、その方が勝つ可能性があるのは確かだ。
「いや、俺はお前を従えたくもないし、下についても5日で冒険者を辞めるんだろ? そっちの条件はそれでいいが、こっちの条件は変えさせてもらう。負けたら金貨1万枚払え」
まぁ、払えなくはないだろう。
俺の【収納庫】に入っているオークを売れば金貨数千枚はする。たった数日でそれだけ稼げたんだ。長年他の冒険者から搾取してきたリガデルなら一万枚くらい払えるだろう。
「なっ。一万枚だと?」
「少なくとも『悠久の剣』にはそれ以上の価値があるぞ。こっちはそれを賭けてる」
「ちっ、勝ちゃぁいいだけだ。レベル2の『出遅れ』に負けるわけねぇ」
リガデルは自分を奮い立たせるように言い聞かせている。
「今からやるのか?」
「ああ、そうだ。やってやるよ」
やってやるって······。
お前が決闘するっていい出したんだろ。
「ギルドマスター。というわけで戦争はなく決闘をすることになリました。審判をお願いします」
「任せろ。ルールは何でもありでいいか?」
「当たり前だ!」
「はい。それでお願いします」
「では、これより三級冒険者、レベル39、【毒霧】のリガデル対、十級冒険者、レベル2、シルフィスの決闘を行う」
訓練場が沸き立ち再度賭けが始まる。
数日前は自分が派閥の長になるなんて思っても見なかったし、派閥を背負った戦いをするなんて今もどこか信じられないが、期待を背負うってのは案外悪くない。
オークチャンピオンを倒した後だからか、リガデル相手には何のプレッシャーも感じない。
ギドさんと決闘した時と違ってリガデルは叩きのめすのに何の遠慮もいらないのもいい。
ある程度賭ける時間を取るためか、ギルドマスターは観客の冒険者達が落ち着くのを待っている。
その間にどうリガデルを倒すか俺も考えを巡らした。
「よし、場は整ったな。ではリガデルとシルフィスの決闘を行う。シルフィスが負けた場合、リガデルの傘下に降ること、リガデルが負けた場合は金貨一万枚を支払うこととする。俺がギルドマスターを務めているうちは約束を守ってもらう」
俺が負けた場合、傘下に降って直ぐに抜ける。ということは許されない。少なくともギルドマスターが健在のうちは決闘の約束を遵守する必要があるというわけだ。
「互いに準備はいいか? ······それでは、始め!」
開始を宣言するとギルドマスターは距離を取った。
リガデルの二つ名は【毒霧】。上位の冒険者には二つ名がつくことがあるが、大抵はその冒険者を象徴するもの、スキルの名前が二つ名になることが殆どだ。
有名になるとスキルも知られてしまうのは仕方のないことではある。
ギルドマスターは毒を受けないように距離を取ったというわけだ。
そして、リガデルにとって残念なことに俺は【毒耐性】を持っているし、ステータスも【固定】しているため毒じゃ死なない。
とは言え、毒が観客に及ぶような戦いをしてはいけないだろう。
「くらえっ【毒霧】」
「【重力】」
――ズゥゥゥゥゥゥゥゥゥン――
リガデルが放った毒霧もろともリガデルを押し潰す。
「ぐぁ······なん···だ······これは······」
何だと聞かれて答える馬鹿はいない。
「【落雷】」
――バチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチ――
「アガがガガ······」
死なない程度に威力を抑えた【落雷】を放つ。
汚い叫び声が上がったかと思ったら、リガデルは失禁して気絶していた。
ちょっと強すぎたか。
こんなにあっさり気絶させるつもりはなかったんだけど、まぁ仕方ない。
「勝者、シルフィス!」
――ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア――
沸き立つ観客の声援を浴びる気分は悪くなかった。




