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第22話 炎槍と氷剣

 さてと、オークチャンピオンを何とか倒せたのはいいが、俺以外が皆気絶しているという状況。


 格上のモンスターを倒した今はダンジョンに長居をしたくない。


「まぁ、運ぶしかないか。【反重力アンチグラビティ】」


 全員を浮かせる。

 これで全員を運ぶのはそう難しくはない。


 あ、でもその前に着替えるか。


 こんなこともあろうかと······というか、服がボロボロになることが多すぎて着替えは幾つも収納してある。


 ボロボロになった服を見て、オークチャンピオンは強かったと改めて感じた。


 おそらく次に戦うことがあればもっと簡単に倒せると思うが、よく勝てたものだと思う。


 俺があそこで負けたら全滅していたかも知れない。

 ダンジョン探索は命懸けの危険なものだと改めて思った。

 スキルを沢山得て調子に乗っていたかもしれない。気を引き締めないとな。


 そんなことを考えつつ着替えを終えて、さあ帰ろうとしたところでふと気付いた。


「帰り道どっちだっけ?」


·········

······

···


◇ロイド◇


「う〜ん」


 あぁ、何かすっげぇよく寝た気がする。

 こんなに熟睡したのはいつ振りだ?


 気分は何とも爽快だ。


 気持ちよく背伸びをして起き上がろうとしたら起き上がれなかった。


 何故かと思って手足を動かすと床がない。


「ダンジョンだ」

 慌てて目を開けるとダンジョン内にいるのだと分かる。


「あ、ロイさん、目が醒めたんですね。今降ろします」


 途端に体に重さが加わって床に降りる。

 今まで宙に浮いてたのか?


 そうだ。

 シルフィス。こいつとダンジョンに潜ってたんだ。


「くくくっ、ロイ。ダセェな」

「うるせぇ、アーク」


 今慌ててたのをアークに見られてたらしい。


「すいません。待ってる間暇だったんでスキルの訓練してました」


 シルフィスが謝ってくる。


 周りを見たらまだ浮いてる奴が何人かいる。それで俺は浮いてたのか。


 こいつそんなことも出来るんだな。

 まぁでも、お陰で気持ちよく寝れたな。


「ロイ。これ見ろよ。【収納庫ストレージ】」


 アークがシルフィスと同じ魔法を使ってオークを取り出した。


「な、お前、それ!」

「レベルアップして見事にスキルを修得出来たぜ。ロイもステータス確認してみろよ」


 そうだ。俺達はオークジェネラルを倒してレベルが上がったんだった。


「ああ、ステータスオープン」


『ロイド:レベル35

 HP:151

 体力:69  

 魔力:84

 筋力:68

 敏捷:68

 頑強:65

 知能:70

 感覚:68

 スキル∶【結界魔法】、【魔力感知】、【魔力操作】、【身体強化】、【魔法耐性】、【氷耐性】、【雷耐性】、【重力魔法】、【氷魔法】』


「な、何だこれ······」


 ステータスがとんでもなく上がってる。

 それにスキルの数が尋常じゃねぇ。


 シルフィスの訓練の成果か?


「あ、ロイさんも思ったよりもスキルを覚えましたね。レベルが高かったから耐性スキル以外は一つ覚えられたらいいかなと思ってましたけど」

「ああ、シルフィスのお陰だ。【魔力感知】、【魔力操作】、【身体強化】、【重力魔法】、【氷魔法】、五つも増えてる。耐性スキルを入れたら八つもだ」


 自然と涙が出てきた。

 シルフィスは冒険者の間で『出遅れ』と言われて馬鹿にされている。それは俺も知っていた。


 そんな奴と一緒にダンジョンに潜ることになって、最初はギドのバカさ加減にウンザリしたが、見る目がなかったのは俺の方だった。

 こいつはとんでもねぇやつだ。本当にスゲェやつだ。シルフィスのお陰で長年越えられなかったレベルの壁を越えることが出来た。


 本当に俺達をキャリーしやがった。

 それだけじゃなくてステータスも20くらい上がっているし、八つもスキルが増えた。


「本当に、ありがとう。恩に着る」


 抵抗なく頭が下がる。

 年下とか低級とか関係なく、一人の男として、一人の人間としてこいつはスゲェ奴だし、尊敬できる。


「いや、頭を上げて下さい。運が良かったんですよ。オークチャンピオンが出てステータスを【固定】した状態で大量の経験値を取得できたからだと思います」


 そうだ。

 オークチャンピオン。最後、あいつは雄叫びを上げたと思ったら凄まじいスピードで動きやがった。シルフィスも滅多打ちにされてたはずだ。


 その後どうなったか覚えてないが、アレは正真正銘の化物だった。雷魔法でも倒せなかったのにどうやって倒したんだ?


「シルフィス聞かせてくれ。オークチャンピオンはどうやって倒したんだ?」

 

 シルフィスはふっと笑ってまだ浮いてる奴らを指差す。

「あれです。【反重力アンチグラビティ】で浮かして動きを封じた後、魔法で仕留めました」

「······なる程な」


 確かにあの魔法に捕まったらどんなに力があっても意味ねぇか。


 おいおい、ちょっと待てよ。

 俺も重力魔法覚えたってことは同じ魔法を使えるようになるってことじゃねぇか?


「おい、アークは何を覚えたんだ?」

「俺も八つ覚えた。重力魔法と氷魔法以外はロイと同じだな。俺は空間魔法と光魔法を覚えたよ。【光球ライトボール】」


 アークが出した光の球が明るく周囲を照らす。


「光魔法は魔導具でも代わりになるからいいとして、空間魔法はいいな」

「だろ?」


「ああ、正直羨ましい。だがな、オークチャンピオンにも通用した重力魔法を覚えられたから俺は満足だよ」

 

 まぁ、俺達はパーティだ。

 誰かが覚えてくれたのならそれでいい。


「しかし、このレベルになってスキルを覚えるとは思わなかった」

 やっぱりそう思うよな。


「全くだ。それにステータスの上がり方がとんでもねぇ。前にレベルの壁を越えたときは普通のレベルアップと変わらなかったからな。これもシルフィスのお陰だよ」


「いえ、お陰で俺も発見がありましたからね」

「へぇ、どんな発見だ?」


 こいつの話はベテランの俺でも勉強になる。


「一つは新しいスキルを覚えることについてですね。レベルが高くなるほど、年を取るほど新しいスキル、特に魔法系のスキルは覚えられなくなるって言われてるじゃないですか?」

「そうだな」

 だから貴族どもはガキの頃から魔法の訓練をする。


「でも、アークさんもロイさんも一度に八つもスキルを覚えました。俺は覚えても一つかなって思ってたんです。案外長年スキルを使うことで魔力を扱うことに長けて魔法を覚えやすくなってるんじゃないですかね? スキルを形成するだけの経験値さえ得られたら······って、条件は付きますが」


 確かにそうかもしれない。

 でなければ本来修得に何年もかかる魔法スキルをこんなに簡単に覚えられるわけがない。

 

「まぁ、その経験値を得るってところが簡単じゃないんだろうけどな」

「それで、俺の【固定】があればその経験値集めも解決できるのかなって思ったんです」


「ほう、そいつは興味深いな」

 アークも興味深々のようだ。


「レベルの壁にぶち当たって、どんなに同格のモンスターを倒してもレベルが上がらないのって、目の大きいザルで小さな粒を掬ってるようなものなんじゃないかと思ったんです。粒が経験値ですね。どんなに掬っても溢れてる感じです。それで格上モンスターの粒の大きい経験値を得るとようやくレベルアップ出来る感じですかね?」


「まぁ、そういう見方も出来るかもな」

「中々いい例えなんじゃないか?」

 学のねぇ俺らにもピンと来る例え方だからな。


「ただ、お二人のスキルが多くて、それってオークジェネラルやオークチャンピオンの経験値だけでこうなるかなって思ったんですよね。もしかしたらステータスを【固定】したせいで本来はこぼれていく経験値も溜まったままになったんじゃないかって」


 何だと!?


「つまり、俺達にとって格下ではあるがオークやオークナイトをたくさん倒し、その経験値をこぼさなかったからスキルを沢山覚えたって言いたいのか?」

「そうかもなって」


 だとしたらとんでもねぇぞ。


「おいおい、それって今回だけじゃなくて、今後も同じようにスキルを得られる可能性があるってことじゃねえか?」


 そうだ。アークの言う通りだ。


「あくまで可能性ですが、少なくとも次にオークジェネラルやオークチャンピオンが出たら確認出来るんじゃないかと思ってます」


「ってことは俺も空間魔法を覚えられるかも知れないってことか?」

「あくまで可能性の話ですよ?」


「いや、可能性だけで十分だ。それだけで試す価値は十分ある」

 これは世界が変わるぞ。


「夢がふくらむじゃねぇか!」

 アークの目が輝いている。

 そうだな。アークは俺たちの中では一番冒険者に思い入れがあるからな。


 

 その後、暫くして全員が目を覚ましたので、全員揃って無事にダンジョンを抜け出した。


 ギドは七つ、カイルとファングは八つのスキルを得ていた。悠久の剣はこの探索で間違いなく強くなった。

 ギドは自分だけスキルが一つ少なかったことで落ち込んでいたが一番強くなったたのはギドだと思うから気にするなと言いたい。


 ちなみに報酬についてだが、むしろ俺達が金を払いたいくらいだったが、俺達が倒したオークとオークナイトを渡すというので、それならばとオークジェネラルとオークチャンピオンの売却金の半分は受け取らないことにした。

 はっきり言って貰いすぎだ。売れば金貨1000枚は余裕で超える額になる。

 あいつお人好し過ぎんだろ。


 ギルドに戻ると、丁度朝の混雑が少し過ぎた頃合いだった。


「おい、ギド。てめぇ決闘で『出遅れ』に負けたんだってな? 飛剣も随分と鈍ったもんだ」


 ちっ、馬鹿が絡んで来やがった。


「そうだね。確かに負けたけどそれで?」

「『出遅れ』ごときに負けたんだぞ? とっとと引退しろや。四級の面汚しが!」


――ゾクッ――


 ああ、こりゃキレたな。

 普段温厚なギドは怒らすと怖い。


「マイデル。負けた俺を貶すのはまだ分かる。だが、シルを貶すのは許さんぞ」


 マイデルは四級冒険者だが、同じ四級でも人望のあるギドを日頃から妬んでいたからな。

 ギドを貶める格好の材料を耳にして、喜び勇んで来たんだろうがタイミングが悪かったな。

 俺等はシルのお陰でレベルの壁を越えたし、強力なスキルも取得したばかりだ。


「だったらどうする?」

「面をかせ。互いの引退を賭けて決闘だ」


「はっはっはっ、言ったな! 馬鹿が安い挑発に乗りやがって。これを見ろ」


 そう言ってマイデルは自分の冒険者証を周囲に見せつけるように掲げた。


「おい、三級の冒険者証だそ」

「レベルの壁を越えたのか?」

「マジかよ」


 それを見た周囲の冒険者達がざわつく。


 マイデルはこの街唯一の三級冒険者であるリガデルの弟分だ。


「リガデルの兄貴が騎士に取り立てられることになってよ。次の冒険者の取りまとめとして俺が選ばれたってわけだ。今ならまだ引き返せるぞ?」


「それがどうした? 来ないのか?」


 今のギドが三級冒険者証それで怖気づくわけもない。


 これが昨日だったら結果は違ったかも知れないが、何とも間の悪い奴だ。


 リガデルが冒険者を引退するなら、実質これはどちらの派閥が覇権を握るかという覇権争いになる。

 

 俺等が覇権を握ればシルフィスをばかにする奴もいなくなるだろうし、丁度いいかもな。


「頭に血が上りすぎて目に入ってないのか? 俺は三級なんだよ」

「それがどうした? 俺は冒険者証と勝負するのか?」


 三級をひけらかせば引くと思ってたのなら当てが外れたな。


「な、まぁいい。それなら望み通り引退させてやるだけだ」


·········

······

···


「ではこれより三級冒険者【炎槍】のマイデルと四級冒険者【飛剣】のギドとの決闘を行う。この決闘の敗者は冒険者を引退するものとする」


 俺達は帰ってきてからまだ何の手続きもしてなかったからな。冒険者証は四級のままだ。


 心情的にはギドに勝ってほしいと思いつつ、マイデルに賭けてる奴も案外いるかもな。


 一応派閥の奴らにはギドに賭けるように言っておいたがどうなるやら。


 バーンズさんも何かを察してるな。決闘前にレベルを調べなかったし。

 まぁ、ギドがどこか抜けてるのはいつものことだが、怒りに任せて決闘したことは一度もない。勝算が無ければギドは決闘をしないことをバーンズさんは知っている。


 シルフィスのスキルのことも知ってるようだし、多分確信犯だろうな。


「では二人とも冒険者証を出せ。負けた方の冒険者証はこの場で没収する」


 冒険者証を渡すと二人は距離を取った。

 ギドは遠中近どの距離でも戦える。

 対してギドのスキルは【炎槍】。槍に火属性をもたせることが出来る。短い距離であれば火魔法も放てたはずだ。


 攻撃力はマイデルが上だが、遠距離で闘えばギドが有利だ。まぁ、レベルの壁を越えてスキルが成長している可能性もあるから絶対はないが、成長の度合いで言えばギドより上はない。今なら攻撃力でもギドはマイデルを圧倒するはずだ。


「それでは双方己の誇りをかけて全力で闘え。負けたあと文句は一切受け付けんからな。この試合は武器の使用もスキルの使用もありの真剣勝負だ。死ぬか、気絶、降参した方の負けとする。また俺が明らかに勝敗がついたと判断した場合は決闘を止める。生死を問わん決闘だが可能なら殺すな」


 開始の間合いはマイデルの間合いだ。

 ギドはどうやら本当にキレてるらしい。

 徹底的に潰すつもりか。


「準備はいいな。では······始め!!」


 ギルド内の覇権をかけた戦いということで、相当な数の冒険者が観戦している。

 今日の仕事を取り止めて見てる奴もいるだろうな。


「ギド、十級に負けた奴が三級の俺に勝てると思ってるのか?」

「なら俺に負けたらお前は十級以下ということになるな」


「なん···だと?」

「わざわざお前の間合いに入ってやってるんだ。喋ってないで早く攻撃してきたらどうだ?」


「ちっ、【炎槍】! 死んで後悔しろや!」


 マイデルは一足で飛び込み槍を穿つ。

 その穂先からは炎が噴き出すが······。


「いないだと?」


 残念ながら遅いな。

 あれじゃ今のギドには当たらん。


「マイデル。三級の実力を出してくれよ。隙だらけだぞ」

 

 ギドの声にマイデルが反応して飛び退く。

 横にいるギドが完全に見えてなかったな。


 飛び退いた足が地面につく前に、ギドは更に間合を詰めて足を払いマイデルは地面に転がった。


 勢いよく転がって両者の間合が開いた。


「な、な、どうなっている?」

 ギドのスピードに訳がわからずパニクってるな。


「マイデル、お前の攻撃は一切通用しない。それを証明してやる。まだ技があるなら出すといい。無いなら潰すだけだ」

「ちっ、舐めやがって。クソがぁ!」


 槍の穂先に炎が灯りそれが大きな刃を形作ると槍を引く。


 その槍が高速で突き出され炎が噴き出すが、その先にギドはもういなかった。


 ギドは間合を詰めて槍の柄を掴むと、そのまま柄に回転を加えて、石突でマイデルの鳩尾を突いた。


 マイデルは槍を手放し吹っ飛ぶ。


「ごはっ、がはっ」


 まさか自分の武器で攻撃されると思わなかったのか、ダメージは大きそうだ。


 ギドは手に残った槍を投げ捨てる。


「その程度の腕でシルを馬鹿にすんじゃねぇ」

「へっ、やけに『出遅れ』の肩を持つじゃねぇか」

 武器もなく、ダメージも大きい。

 流石のマイデルも実力差を理解したようだ。


 それでも、この期に及んで口で攻撃するとは恐れ入る。

 筋金入りの馬鹿だな。


「皆聞け! ここで、宣言しておく。俺達『悠久の剣』はシルフィスの傘下に入った。今後シルフィスを悪く言うやつは俺達を敵に回すと思え!」

「な、何だと? どういう事だ? あいつは十級だぞ?」


「簡単だ。シルは強い。それだけのことだ」

「信じられるかっ!」


「なら見るがいい。シルが与えてくれた力をな」


 へぇ、もう勝負はついてるってのに出すのか。徹底してるな。


「【氷剣】」


 ギドが新たに修得したスキルはマイデルの【炎槍】のように武器に魔法を纏わせる様なスキルではない。


 氷の剣が何本も宙に浮かぶ。

 その剣はギドの意のままに操れるらしい。


 ギドが自分の剣を振りかぶると連動して空中の氷の剣も同じように動く。

「な、な、何だ、そのスキルは」


 慌てふためくマイデルを全く意に介さない。


「【飛剣】」

 そしてギドのスキルは剣から斬撃を飛ばすスキル。


 自らの剣と氷の剣が魔力を纏う。

 【氷剣】によってギドの【飛剣】は何倍も強力なスキルに生まれ変わった。

 振りかぶった剣が振り下ろされたら、何本もの飛ぶ斬撃がマイデルを襲うことになる。


 バーンズさんも呆気にとられているが、このままだとマイデルが死ぬぞ?


 ちっ、あんな奴を助けたくはないが仕方ねぇ。


「バーンズさん!」

「しょ、勝負あり。勝者ギド!」


 我に返ったバーンズさんが決闘を止めた。


――ワァァァァァァァァァァァァ――


 やれやれ。手間をかけさせやがる。

 ま、儲けさせてもらったから良しとするか。

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